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119 17歳 in 闇の中
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許さない、許さない、絶対許さない。僕から光を奪って、母さんを奪って、自由を奪って、今度はイソヒヨドリを奪おうとした…。
「お前もあの男も全部消えろ。跡形も無く消えてしまえ…!」
「俺と弟はあの薄暗い奴隷部屋で何年も戦い最後まで生き残った至高の闇魔法士。ケチな盗賊上がりがここまで成り上がったんだ。この目に埋め込まれた魔力増幅の魔石がある限り俺たちは無敵。主人から逃げ出したお前のような脱落者が底上げされた俺に勝てるとでも思うのか!」
「あいつが僕の主だったことなんかない。それに僕は逃げ出したんじゃない…」
「ああ!狂魔の貴公子に買われたんだったな」
「違う!解き放たれた…」
奴隷部屋で殺し合ったという目の前の男には所詮分からないだろう。この世に無償の愛が本当に存在するなんて…。
「解き放たれた?ハハッ!所詮鳥かごが変わっただけだ!分かってるだろう?隷属印を刻まれた俺たちに真の自由はない!見せかけの空で自由を得たつもりでいるのか?」
「見せかけなんかじゃない…!」
イソヒヨドリは誰よりも先に僕の隷属印を、あのヴォルフよりも先に僕のを消した。いろんなところに出かけて欲しいって笑って言った。僕の目印になるって、いっぱい遊んで戻っておいでってそう言った!あの言葉に嘘はない!
「俺たちはこうして最強の武器で居るしか生きる道はないんだ。だが良く出来た道具で居れば少しは好きに生きられる」
「僕はどこにだって行ける…。道はいっぱいある…!もう喋るな弱いくせに…。お前の攻撃なんか少しも効かない…」
「はっ、手加減してるのがわからないのか!いいか!甘い夢を見るから死ぬんだよ!お前も、お前の母親もな!」
「何にも知らないくせに余計なこと言うな!」
母さんの夢見たもの…。それは大空に羽を広げる僕…、羽ばたこうとしている今の姿だ!籠の中でしか生きられないこの男と僕は違う!
「いいから大人しく付いて来い。これ以上魔力は上げられないんだよ。生きてたまま捕まえろとのご命令なんでな。諦めてせいぜい可愛がってもらえ、愛玩物としてだが。ハハハッ!」
「僕を可愛がるのはイソヒヨドリだ!お前がおもちゃになればいい!」
「ちぃぃ!いちいち相殺しやがって。諦めの悪い!」
「お前の闇は真っ暗じゃない!あんなの闇じゃない!お前より僕の方が強い!」
闇はいつだって僕の友達だった。僕は闇の中で生き、闇の中で息をし、闇の中に安堵を得たのだ。静寂と清浄…。闇は僕を裏切らない!
目の前の男が繰り出す闇は黒であって黒じゃない。どす黒い赤、乾いた血溜まりの色だ。
汚らわしい黒…、鉄の匂いのする…まがい物の闇…。
「何だと‼いちいち馬鹿にしやがって…!ならこれはどうだ?蟲毒の中で生まれた俺の最上級魔法…、もいういい!ここで死ね!『アビス』」
「まだわからない?お前に出来る事なら僕にも出来る。僕の闇はお前の闇よりずっとキレイだ!『アビス』」
ああ美しい…、混ざりけの無い漆黒が汚い黒を侵食していく…。僕を守護する、星も月も無い純粋な闇…。
「な、何だこの闇は!お、お前の闇はどこまで深いんだっ!ひぃ!呑まれる!」
「消えろ…」
「く、くぅぅ!ならお前も消えろ!『絶望の縄!』」
「何これ…」
「それは俺に倒された奴らの怨念、生への執着を練り上げた俺のオリジナル魔法だ。絡み付いたら最後、相手が死ぬまで離れない!ハハハハハ、俺はただではやられない。こうなったらお前も道連れだ!」
「ムカつく…、けど別にいい…。僕はちゃんと役に立った…、イソヒヨドリはきっとお利口だったねって笑ってくれる」
「くだらねー……」
あ…、消えた…
馬鹿な男。隷属印に縛られて都合のいい道具に成り下がって…。あの男はこいつのことも母さんのことも、きっと誰であろうが道具のように使い捨てる…。僕もそうなるはずだった。そうならなかったのはあの日イソヒヨドリが夜明けを告げてくれたから。
心地良い漆黒の闇…そのうち僕も消えるのかな…。でもいい。イソヒヨドリは僕を呼んでくれた。僕を必要としてくれた。彼の心に居られるのなら、僕は永久に独りじゃない…。
手の中にはイソヒヨドリがいつもつけてたブレスレット…。ヴォルフの贈り物だというのが気に入らない、でも…、夜明けのようなラベンダー色を見ながら消えるのなら、僕の終わりは悪くない…
ー…ーチカッー…
あれ?石の輝きが増した…光ってる。何これ…?石の輝きを中心にどんどん紫が広がっていく…。
ああ…これは夜明けだ。僕が夢見てやまなかった夜の帳の向こう側。淡い紫の大空。手を伸ばしたならそこに居るのはきっと…きっと…
「捕まえた!」
「イソヒヨドリ…。捕まった。また捕まった…」
「もう!何してたの心配かけて…おバカ!門限までに帰りなさいって言ったでしょ!」
「言ってない…」
「そうだっけ?そんなことよりシャリム。…最後のミッションだよ。いいね、君の手でケリをつけるんだ」
業火の中で泣き叫ぶのは…、母さんと僕に生き地獄を見せた憎き男。どうしてくれよう。どんな責め苦を味わわせよう…。どうすれば母さんの仇をとれるんだろう…、どうしたら僕の気は晴れるんだろう…どうしたら…どうしたら…。
「シャリム!助けてくれ!頼む!何でもする!命だけは助けてくれ!金でも屋敷でも何でもやる!欲しいものはなんだ!何でも言え!だからお願いだ、この炎を消してくれぇ…!!!」
「…馬鹿みたい…。金も屋敷も、…お菓子も要らない…!お前からは何も貰わない。何も要らない、無価値なお前の命も身体も何一つ。そうだ!全部消えちゃえ。『アビス』」
「う、うわぁぁぁ!穴がっ!落ちる!落ち、ぐわぁぁぁ!」」
終わった…。僕を苦しめる悪夢の影はこれで消えてなくなった…。
母さんを苦しめ続けた男が暗い穴の中に消えていく。小さく、小さくなって…。
僕の手を握ったままイソヒヨドリが何かを呟く。良く聞こえない…。でもいい。僕はこの手を離さない…。
「奈落…ね。業火にまみれたまま地獄の底とか…、ハディード、お前に似合いの最期だ…」
「お前もあの男も全部消えろ。跡形も無く消えてしまえ…!」
「俺と弟はあの薄暗い奴隷部屋で何年も戦い最後まで生き残った至高の闇魔法士。ケチな盗賊上がりがここまで成り上がったんだ。この目に埋め込まれた魔力増幅の魔石がある限り俺たちは無敵。主人から逃げ出したお前のような脱落者が底上げされた俺に勝てるとでも思うのか!」
「あいつが僕の主だったことなんかない。それに僕は逃げ出したんじゃない…」
「ああ!狂魔の貴公子に買われたんだったな」
「違う!解き放たれた…」
奴隷部屋で殺し合ったという目の前の男には所詮分からないだろう。この世に無償の愛が本当に存在するなんて…。
「解き放たれた?ハハッ!所詮鳥かごが変わっただけだ!分かってるだろう?隷属印を刻まれた俺たちに真の自由はない!見せかけの空で自由を得たつもりでいるのか?」
「見せかけなんかじゃない…!」
イソヒヨドリは誰よりも先に僕の隷属印を、あのヴォルフよりも先に僕のを消した。いろんなところに出かけて欲しいって笑って言った。僕の目印になるって、いっぱい遊んで戻っておいでってそう言った!あの言葉に嘘はない!
「俺たちはこうして最強の武器で居るしか生きる道はないんだ。だが良く出来た道具で居れば少しは好きに生きられる」
「僕はどこにだって行ける…。道はいっぱいある…!もう喋るな弱いくせに…。お前の攻撃なんか少しも効かない…」
「はっ、手加減してるのがわからないのか!いいか!甘い夢を見るから死ぬんだよ!お前も、お前の母親もな!」
「何にも知らないくせに余計なこと言うな!」
母さんの夢見たもの…。それは大空に羽を広げる僕…、羽ばたこうとしている今の姿だ!籠の中でしか生きられないこの男と僕は違う!
「いいから大人しく付いて来い。これ以上魔力は上げられないんだよ。生きてたまま捕まえろとのご命令なんでな。諦めてせいぜい可愛がってもらえ、愛玩物としてだが。ハハハッ!」
「僕を可愛がるのはイソヒヨドリだ!お前がおもちゃになればいい!」
「ちぃぃ!いちいち相殺しやがって。諦めの悪い!」
「お前の闇は真っ暗じゃない!あんなの闇じゃない!お前より僕の方が強い!」
闇はいつだって僕の友達だった。僕は闇の中で生き、闇の中で息をし、闇の中に安堵を得たのだ。静寂と清浄…。闇は僕を裏切らない!
目の前の男が繰り出す闇は黒であって黒じゃない。どす黒い赤、乾いた血溜まりの色だ。
汚らわしい黒…、鉄の匂いのする…まがい物の闇…。
「何だと‼いちいち馬鹿にしやがって…!ならこれはどうだ?蟲毒の中で生まれた俺の最上級魔法…、もいういい!ここで死ね!『アビス』」
「まだわからない?お前に出来る事なら僕にも出来る。僕の闇はお前の闇よりずっとキレイだ!『アビス』」
ああ美しい…、混ざりけの無い漆黒が汚い黒を侵食していく…。僕を守護する、星も月も無い純粋な闇…。
「な、何だこの闇は!お、お前の闇はどこまで深いんだっ!ひぃ!呑まれる!」
「消えろ…」
「く、くぅぅ!ならお前も消えろ!『絶望の縄!』」
「何これ…」
「それは俺に倒された奴らの怨念、生への執着を練り上げた俺のオリジナル魔法だ。絡み付いたら最後、相手が死ぬまで離れない!ハハハハハ、俺はただではやられない。こうなったらお前も道連れだ!」
「ムカつく…、けど別にいい…。僕はちゃんと役に立った…、イソヒヨドリはきっとお利口だったねって笑ってくれる」
「くだらねー……」
あ…、消えた…
馬鹿な男。隷属印に縛られて都合のいい道具に成り下がって…。あの男はこいつのことも母さんのことも、きっと誰であろうが道具のように使い捨てる…。僕もそうなるはずだった。そうならなかったのはあの日イソヒヨドリが夜明けを告げてくれたから。
心地良い漆黒の闇…そのうち僕も消えるのかな…。でもいい。イソヒヨドリは僕を呼んでくれた。僕を必要としてくれた。彼の心に居られるのなら、僕は永久に独りじゃない…。
手の中にはイソヒヨドリがいつもつけてたブレスレット…。ヴォルフの贈り物だというのが気に入らない、でも…、夜明けのようなラベンダー色を見ながら消えるのなら、僕の終わりは悪くない…
ー…ーチカッー…
あれ?石の輝きが増した…光ってる。何これ…?石の輝きを中心にどんどん紫が広がっていく…。
ああ…これは夜明けだ。僕が夢見てやまなかった夜の帳の向こう側。淡い紫の大空。手を伸ばしたならそこに居るのはきっと…きっと…
「捕まえた!」
「イソヒヨドリ…。捕まった。また捕まった…」
「もう!何してたの心配かけて…おバカ!門限までに帰りなさいって言ったでしょ!」
「言ってない…」
「そうだっけ?そんなことよりシャリム。…最後のミッションだよ。いいね、君の手でケリをつけるんだ」
業火の中で泣き叫ぶのは…、母さんと僕に生き地獄を見せた憎き男。どうしてくれよう。どんな責め苦を味わわせよう…。どうすれば母さんの仇をとれるんだろう…、どうしたら僕の気は晴れるんだろう…どうしたら…どうしたら…。
「シャリム!助けてくれ!頼む!何でもする!命だけは助けてくれ!金でも屋敷でも何でもやる!欲しいものはなんだ!何でも言え!だからお願いだ、この炎を消してくれぇ…!!!」
「…馬鹿みたい…。金も屋敷も、…お菓子も要らない…!お前からは何も貰わない。何も要らない、無価値なお前の命も身体も何一つ。そうだ!全部消えちゃえ。『アビス』」
「う、うわぁぁぁ!穴がっ!落ちる!落ち、ぐわぁぁぁ!」」
終わった…。僕を苦しめる悪夢の影はこれで消えてなくなった…。
母さんを苦しめ続けた男が暗い穴の中に消えていく。小さく、小さくなって…。
僕の手を握ったままイソヒヨドリが何かを呟く。良く聞こえない…。でもいい。僕はこの手を離さない…。
「奈落…ね。業火にまみれたまま地獄の底とか…、ハディード、お前に似合いの最期だ…」
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