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113 17歳 a day ウエストエンド

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「リミットまであと半年を切っちゃったよ!」
「何のリミットだ」

「王家から振られた無茶ぶりの…」
「何の無茶だ」

「…王家と縁づけって…」
「何だ。そんなことか」


ヴォルフと遊ぶ朝のドッグラン、ならぬ屋敷裏手の鍛練場。尋常じゃない飛距離のボール投げにヴォルフは身体能力を爆発させている。時にはこうやって思いっきり身体動かさないとなまっちゃうからね。

でも僕のふと漏らした軽い憂い口にヴォルフは事も無げに言い放った。


「何だ、って…、ヴォルフってば軽く言うよね。7人の王族から選べって言うんだよ?酷くない?」
「人間とは面倒なものだな。一対一でしか番えないとは」


やれやれとでもいうみたいなヴォルフにふと考える…。確かに動物は一夫多妻が多い。一妻多夫も居たりする。その名残か獣人たちは性に開放的な人が多いのは事実だが…、いやしかし。


「狼だって一対一で番うじゃん。」
「だがほとんどの獣人にとって何より大切なのはいかに強い個体の種を残すかだ。メスが多くのオスを惹き付けるのはその中から一番優秀な種を選ぶためだ。逆にオスは少しでも多くの種を残すべく」

「遊び歩くっての?随分な理屈だね。やっぱりヴォルフってば隠し仔オオカミ居そうだよ…」

「ふっ」


何その笑い?


「まあ平和を享受するこの場所では種の選び方も随分軟弱になっているようだがな。」


まーね。優しさとか経済力とか、選択の仕方が今までの獣人社会とは違うのは否めない。ここは何処より安全で…なにより絶対王者が居るんだから。


「番を選ぶのに何を悩む必要がある。迷わず一番強い個体を選べばいい。違うか?」
「一番強い…、え?それなんてナルシスト。自分で自分は選べない…って、痛っ!小突かないでよ!」


だって僕が一番強いのは事実だもん…。なんてね。





最近受注が増えている分譲別荘地へと足を向ける昼下がり。進捗具合を確認するための大切なお仕事だ。
そこに居たのはアーニー。彼の休憩に付き合いながら雑談交じりに先ほどヴォルフと交わした会話の中身を口にする僕。


「って言われてね。獣人には貞操感念があまり無いみたい。領内で修羅場、とかご免なんだけど…」
「どっちも獣人なら問題ねぇだろ」
「そうじゃないから問題なんじゃん。最近種を超えた結婚増えてるし。ヤダよ刃傷沙汰とか。」

「あのなぁ…、女取り合ってケンカとか人間同士でも普通にあんだろ。つか、そんなのそれぞれだろうが、一括りにすんじゃねぇよ。少なくとも俺の周りじゃ上手くやってる」
「あー、アーニーの部下にも異種族夫婦、何組か居たよね…」


言われて見れば確かに…前世でもハイスペックを求める肉食系は男女ともに遊び人が多かった。逆に草食系だと恋愛とか交際とかめんどくさがる人も少なくなかった…僕みたいに。
いや実際めんどくさいでしょ、だって毎日忙しかったし…モニターに向かう時間が一分一秒でも惜しくて。


「まあいいや。ところでアーニーはどう思う?」
「バカかお前!どうせ強さじゃ誰もお前には敵わねぇだろ。」


ごもっとも。


「ならお前を理解できてお前と夢を共有できる奴こそ側に必要なんだろうが。」

「あー、そこは大切だよね。」

「お前を一番理解してる男…、なあレジー、誰だと思う?」

「うーん、ジェイコブ?痛い!何で蹴んの⁉」


クラウスも入れるべきだった…とか?おやあちらから来るのは…


「やあレジー、テナントの見回りかい?」
「セザール。お屋敷はどう?不具合は無い?」

「とても快適だよ。それよりクラリスをメイドに引き抜いてしまって良かったのかな」
「うん。彼女の希望だから。それにしてもデュトワ家は太っ腹だよね。ポンと一軒お屋敷購入しちゃうんだから」


満を持してこのウエストエンド領民になってくれたセザールは両親と相談して別荘地にお屋敷を購入した。それもそこそこ立派な屋敷を。
ウルグレイス貴族の、それも侯爵家の別荘だもん。クラレンス貴族に見せつける意味もあるんだと思っている。
僕にとってはいい意味でしてやったりってね。


「兄たちも両親も喜んでいるんだよ。僕の成長だけじゃなく君と縁を持った事に」
「ご縁は大事だよね。ところで3軒となりの工事現場が王家の別荘だったよね?」

「王家の別荘は広すぎて3軒隣でもそれほど近くは無ぇがな」

「それがどうしたんだいレジー?」
「実は…」


今日一日僕の頭を悩ませるお相手問題、ついでなのでセザールにも軽く意見を聞いてみる事にする。参考になるかも知れないしね。


「なるほど…、王家とそんな取り決めを。それで?」
「それでって…まあ大した問題でもないから王家云々はどうでもいいんだけど、そこからどういうタイプが良いかっていう話になってて」

「王家云々はどうでもいいのかい…?ふふ、君らしい。」
「何人たりとも僕の街作りを止めたりは出来ないからね」

「…それなら、君は何でも持っているのだから仕事を終えた後の癒しを求めればいいのじゃないかな?」
「癒し…レッサーさん…、いやパンダさんも捨てがたい…、え、選べない!だ、誰を選べばっ!…セザール?何その盛大なため息…」

「レジーお前最低だな。飼い主ながら呆れるぜ!」


ふ、二人がかりで責められたんだけど…何で?





「てなわけでね。ニコはどう思う?」


帰り道にふらりと立ち寄ったニコの神殿、ウィークディの今日は行列無しだ。


「あなたね、神殿にお茶しに来るの止めて頂戴。まあ締め切り明けで良かったけど」
「締め切り…?」
「ううん何でも。それで?誰を攻略するかって?」
「違う!違わないけど…。」
「あたしのおススメはシャリムルートだけど?」
「あのねっ!」


そこから離れてくれないかなぁ…


「じゃぁ真面目に。ヴォルフは?いつも一緒じゃない」
「ヴォルフは選ぶとか選ばないとかじゃなくてずっと一緒だから。」
「アーニーのことはどう思ってるの?」
「アーニー?すごく大切な街作りの相棒だよ」

「ああ、犬は人について猫は家につくっていうものね」
「…意味が違うと思うんだけど…」

「でも王家の7人なら一択でしょ?」

「アルバートはさすが乙女ゲーのメインキャラだけあって性格もスペックも問題無い。けど王家が僕の邪魔をするなら最終手段だ。」

「最終手段…?」

「僕は存在を消す。表向き。」
「影の支配者になるのね」

「止めてよ、それじゃ魔王みたいじゃない」
「魔王みたいなもんじゃない。ザラキエルだっけ?」
「‼」


そんなたわいもない話をダラダラして、そこを出たのは陽も暮れる頃。
何だかんだで平和な一日…。例えニコが帰路に付く僕を見ながら何かつぶやいていようとも…。






「…そもそもあの子選択肢に同性が居る事ナチュラルに受け入れてるんだけど…、疑問に思わないのかしら。礼二くんって普通の子よね?もしかしてこれもBLゲーの強制力?…だとしたら胸熱よね!」











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