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96 16歳 ride on アトラクション

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「どうだったオスカー?セザールも感想聞かせて?」


ついにオスカーたちを迎えることになったダンジョンランド。
思った通り、オスカーは狂喜乱舞、セザールも少年らしく興奮し、ローランドは澄ました顔を盛大に青くした。


「おう!思った以上に面白かった!本物のダンジョンとはまた違う楽しさがあるな」
「オスカー、ここには作りこまれた美学っていうものがあるのさ。」

「あれらは無造作に見えて実に緻密な計算の上配置されている。人の心を躍らせるための緩急…、そうだろうレジナルド。」
「おっ?ローランドには分っちゃったか。そうそう。バランスとかいろいろ考えてあってね」

「けどその疑似ダンジョンそのものがもう少しあってもいいよな」
「まぁ順次…」


痛いところをつかれてしまった。
そうなんだよね、限定3つじゃいくら入園料が前世の映画並みとは言えやっぱり物足りない…。開園を急ぐあまりちょっとばかりフライング…。冬前にオープンしたかったんだよねぇ…。


「レジー、そうは言うけど家族向けのものだけでも開園前にもう少し増やした方がいいんじゃないだろうか。子供は退屈してしまうよ」
「家族向けか…。そうだよね…。何が良いかな…」


確かに、大人向けの『インディ・サンダーマウンテン』と『センター・オブ・ジ・カリビアン』は所要時間が50分とかなり長いのに対し子供向けの『魅惑のジャングルクルーズ』はやや短めの30分だ。
曲がりなりにも入場料を貰う以上、もう少しどなたの顧客満足度も上げる必要があるのは否定できない…。


「あれはどうだ。ほら馬車鉄道。トロッコ列車で山の外周ぐるっと回るとか…、大人も乗りたがるんじゃないか?本物の『ランカスター急行』は高いだろ?」
「オスカー!さすが子供の心を忘れない男…それいただきね!」

「レジナルド、あの放置してある草の茂みは何だ?」
「ああ、あそこはダンジョンだったころの名残で磁場がおかしくて…、物を置くとクルクル回っちゃうんだよね。それで立ち入り禁止にしてる」

「ふふ、小さな子供なら喜びそうだ」
「まわる…子供…。なるほどティーカップ…。それもいただき」


線路の予備ならたくさんあるし…どちらも容れ物さえ作ってしまえば設置するだけ。開園には十分間に合いそう!

残りは軽食の屋台と案内所を配置して…あとはキャストとなる従士たちにどうやってっファンシーなコスプレをさせるか…う~ん…頭を悩ます僕に気が付いたのはオスカーだ。


「どうした?」
「園内の雰囲気壊さないよう従士には動物の着ぐるみでも来てもらおうかと思ってたんだけど…騎士志望の彼らは嫌がるだろうなと思って…」

「レジナルド、それなら初めから獣人を使えばいいじゃないか。王国は獣人と人間の更なる融和を目指している。ここはいい試金石になる。」
「えっ?」


獣人族をランカスターに?

獣人との共存を声高に掲げるハミルトン王国でさえ、彼らは高圧的な人間種を嫌いそのほとんどが山里に隠れ住み、街道にやってくる行商から時々物々交換するのが関の山だったというのに…。

正直、ウエストエンド以外の地に彼らを連れて行くことなど考えたこともなかった…。
だが彼らにだってもっと広い世界へ出て欲しいと常々考えてはいた。ただその機会を見失っていただけで。

これはある意味いいきっかけなのかも知れない。


「ローランドの言う通りだな。傭兵や冒険者なんかは上級ダンジョンへ籠る時には獣人を雇うこともあるらしいし…。そう言うやつらが集まる場所なら普通よりも抵抗は少ないんじゃないか?」

「従士は従士で居たほうが良いとは思うけどね。あえて彼らには騎士に近い隊服を着せて…。本人たちの士気も高まるだろうしいろんな意味で抑止になる」


うーん。さすが『恋バト』におけるヒロインのお相手たち。地頭の良さが顔を出す。


「凄く参考になった。やってみる価値はあるよね。ちょうど最近やって来た他国の獣人さんが何人か居るんだよね。どうせここは封鎖石で夜間は誰も入れないようにする予定だったし…。パトロールとか清掃兼ねていっそ園内に住んでもらおうかな…、直ぐ声かけてみるよ。」


結果何人かのコミュ力が高くパワー系でない温和な獣人さんたちがトゥーンタウンとなったレジー君の家付近にファンシーな住居を構えることになった。
市中に住む獣人族。ウエストエンド以外では初の試み…。ここを出発点にしてきっといつかは国中どこでだって安心して暮らせるように。でもランカスターには獣人さんと育ったコリンが居る。きっと大丈夫だ。



僕は最後の最期まで手直しを諦めない。満足なんてしたらそこで試合は終了なんだから。
開園のオープニングセレモニーには第一から第三までの王子が来ることになっている。そこには王様のイヤな意図を感じなくもないが…、いずれにしてもだ。半端なモノをお見せするわけにはいかない。街作りの探究者たる僕のプライドにかけて!




「心躍るダンジョンランド、か…。パーヴェルも来れたらどれだけ良いか。あそこだけでは退屈だろうに…」


ポツリと呟くローランド…。その気持ちは痛いほどわかる。僕も同感だ。けど如何せん仕方ない…。人を選ぶウエストエンドと違ってここは誰でも来れちゃうんだから。
屋台の納品で出入りするキャラバンなどは世界中をまわる訳で…、当然エトゥーリアにも出入りしている。絶対大丈夫、なんて言う保証はどこにもないのだ。でもそんなこと頭の良いローランドが理解してないはずがない。


「だが彼らの安全のためには用心に越したことはない。残念だ…」

「…オープン前の今のうちに人払いして開けてあげようか?ローランドに免じて」

「それは嬉しいが…ただで、という訳では無いのだろう?」
「まあね」
「何が望みだ…」
「どこかの運命論者を暴走しないよう抑えてもらえたら…」
「…いいだろう」


ささやかな契約成立。



こうして急ピッチで設えられた子供向けアトラクション、『イースタンマウント鉄道』と『レジーのティーパーティー』(命名に異議あり!)を増やして「東領ダンジョンランド」はついに開園の日を迎えることになった。








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