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81 16歳 at last 王城

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「遂に到着っと!うーん、身体を動かしたい。」
「列車の食事が以前よりも美味になっておりましたな。」

「乗客のほとんどが富裕層だからね。肥えた舌に合わせてたらこうなったんでしょ。」
「ワインも相当の年代物が用意してありましたな」

「ヴィラの調理人にも負けるなってハッパかけとかなくちゃね」


馬車鉄道が開通してからぽつりぽつりと入りつつあるヴィラの予約。興味本位の新興貴族が多いのは、彼らはあまり社交界の慣習とやらに囚われないし新しいこと珍しいものが大好きだったりするからだ。
あ、それと意外に新興貴族の方がお金持ちだったりするんだよね。前世でもそうだよね。旧華族とかより起業したIT企業の社長の方が冗談みたいな年収だったりしたんだから。

とにかくウエストエンドへの偏見が薄い彼らは無事〝審判の門”を通り抜け、ヴィラでの楽園タイムを満喫している。

宿泊客に関しては全てをヴィラの副支配人、そしてジェイコブ他、僕の信頼厚い役人たちに任せ、僕はこうして父と父を護衛するクラウスたち一隊を率いて遂に王城へと足を踏み入れることになった。だが、宿泊客たちが「当主が不在にするとは話が違う!」と軽くクレームが発生し、滞在中のヴィラ一棟一棟を訪ね手を握りしめ誠心誠意お詫びをしたことを追記しておく。あ、もちろん優しいお客さま方には納得していただけたよ?



「お迎えにあがりました。ハミルトン候、そしてランカスター公。遠路はるばるようこそお越しを」

「聖騎士団長。先の強制捜査は何かと協力をありがとう。父はもう身体も意識も正常を取り戻した。取り調べにも耐えうると思う。」
「聖騎士団長モレー、私は全ての問いに答えよう。それがたとえ己の罪であったとしてもだ。今の私に出来る事と言えばそれが唯一のことであるのだろうから…」

「ランカスター公、王家は決してあなたを見捨てますまい。私はそう信じておりますぞ。だが如何せん、ここからしばらくご子息とは別行動となりますがご了承召されよ。貴方様の身柄は一旦収監させていただく。もちろん高位貴族用の部屋ではあるが…些かの不便は勘弁願いたい。」

「モレー団長、エヴァとパーカーの部屋は…」
「彼らは所詮男爵家の娘とその孫でしかない。公爵家とは無縁。規定通り地下にある下位貴族用の狭い部屋に押し込んでございますとも。」


貴族用の収監塔は大小あれど全て個室だ。それは口裏合わせやおかしな小細工を防ぐためでもある。収監部屋は塔の上下に配置され、下位貴族は日の当たらない地下から半地下、高位貴族は小窓の付いた3階から上となる。
何故1階2階に部屋が無いか。偏にそれは脱走防止の為である。

父は『クーザ』に関して言えば被害者であるが、領地運営他に関して全くの無罪放免、と言う訳にはいかないのだ。
国へ納める税にも色々誤魔化しがあったと言うし、例えそれがエヴァのやった事だとしても、父には領主としての管理責任がある。一定の処罰は免れまい。
最大の罪が王家に連なる公爵家にエヴァの様な愛人を安易に引き入れてしまった事なんだけど…、それにはどんな罪状がつくのか見当もつかない…。

ここまで来た以上…、後は神のみぞ知る、だ。





「やあレジー、ようやくここに君を迎えられた。歓迎するよ。さあ部屋まで案内しよう。」


聖騎士団に連れられて王城の門をくぐった僕を迎えに出てくれたのはこの国の第一王子、王太子であるアルバート殿下その人である。…今日平日だよね?…学院は?


「王都の侯爵邸か公爵邸に泊まるって言ったのに…」
「父の希望だ。諦めて。」
「しばらくしたら公爵邸に移りますからね。屋敷でやることもあるし…」

「分かってる。だが舞踏会までは居てもらうよ。あれは君の歓迎会だ。父からのささやかなお詫びの印だよ。」

「舞踏会!? 何それ⁉ 聞いてないんだけど!あ、いえ、聞いてませんが…」
「ふふ。君を驚かせようと思ってオスカーたちを口止めしたんだ。」


イヤ、何そのサプライズ?これだから男のサプライズは有難迷惑って言われるんだよっ!


「心配しなくていい。衣装もこちらで用意したから。私の目利きは完璧だよ。楽しみにして。」

「余計な気を遣わせちゃってスイマセンネ…」

「さあ、ここが君の部屋だ。コリンは隣に居る。ディナー迄ゆっくり身体を休めるといい。ではね。」

パタン

くっ!アルバートめ…。爆弾だけ投下してさっさと部屋を出ていってしまった…。
王城での舞踏会だと?そこで僕に何しろって?言っとくけど僕はダンスとか踊れないからね?ジャグリングでも披露しろと…?この場合壁の花ってのはありだろうか…。




コンコン

「コリン、どうしたの?」
「いえ…。王城なんて落ち着かなくて…」


あのしっかり者のコリンが頼りなげな顔をして…。
今回僕はある思惑があってあえてウィルでなくコリンを従者として同行したのだが…、彼は列車の中からずっと落ち着かないでいる。


「コリン…、君はれっきとしたハミルトン伯爵家の第5子で、それにランカスター公爵家の血を引く者だ。堂々としていればいいんだよ。」
「僕は下町で生まれたただの子供です。本当なら王城なんて足の指一本だって踏み入れる事なんか出来ないはずの…。」


顔を伏せるコリン。その指は固く握りしめられている…。


「コリン、僕は君に本来与えられるべきはずだったものをちゃんと与えたいと思ってる。そのために今回君をここに連れてきたんだよ。もっとも父の処遇次第でどうなるか分からないけど…」

「レジー様、それって…」
「叔父様との縁組を解消して父と正式に親子の届を出したい。そう思ってる。」

「そんなの嫌です!僕は兄さんともレジー様ともずっと一緒に居たい!」

「別に僕たちと離れ離れになるわけじゃない。君が望むならずっとウエストエンドに居ればいい。だけど伯爵家の養子と公爵家の実子では全く重みが違う。将来を考えたら持てるモノは持っておけばいいって…そう思うよ」
「レジー様…」

「さっ、この話はここで終わり。どっちにしたってまだ何も分からないんだし。最悪ただの観光旅行になっちゃうかも。でも一応考えておいて」
「はい…」




ウィルとコリン、そしてパーヴェルは僕と形は違えど神様の気まぐれで再試合となった存在だ。
それなら好きな事をして自由気ままに生きて欲しい。そのために持てる力は持てばいいし使えるものは使えばいい。僕やニコみたいに…。

彼らには出来る事なら誰よりも生を謳歌して欲しい、僕はいつだってそう願ってやまないのだ…。









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