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70 16歳 at ランカスター各所

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3棟ほど建つ本邸屋敷裏の倉庫。その一つが今回の取引現場だ。この1年ヴォルフたちが追い続けた『クーザ』の取引。鼻の利くヴォルフと夜目の利くシャリムが手に入れてくれた情報の数々。その一つが奴らのアジトだ。

売人たちはエヴァの手引きでランカスター内に小さな酒場を構えている。その名も〝快楽の夜”。ここを拠点にこのクラレンス王国北東部を『クーザ』の温床にしようとしているのだ。


実際の取引に際し奴らの動きは常にトリオだ。そして姿を消した一人がエヴァの前に出向き、残った二人が少し離れた所から周辺の監視をする。

エヴァとの密会場所は毎回違う。だが受け渡しに際したその場所は数か所にまで絞られた。
そこで僕は屋敷裏以外の場所に獣化中の足跡を残すようヴォルフに指示を出した。獣化ヴォルフの身体は普通の狼よりもかなり大きい。当然足跡もだ。危険な猛獣が出たとなれば必然的に奴らは足跡の無い場所、屋敷裏の倉庫を密会場所に選ぶだろう…。わざわざ危険を冒す理由がない。


ほら、ビンゴだ。のこのこと姿を現す浅はかなエヴァ。エヴァの登場によってヴォルフ、シャリム、騎士たち全員がそれぞれ所定の位置に付く。しばらくすると暗闇に響くヴォルフの遠吠え。売人がチェックポイントを通過したのだ。そしてこの遠吠えこそが作戦開始の合図!

そこに現れたのは既に姿を消した男。ちっちっちっ!だが甘い!どれほど魔道具を使おうが最上位の斥候スキルを持つ僕のサーチからは闇夜のカラスだって逃げられない。僕の目には全てがフルハイビジョン。浅黒い肌…、やっぱりな…。ナバテアか…ゲスマンか…。

一方魔力を持たない売人、下位スキルしか持たないエヴァごときは僕のフルカンストステルスを見破れない…。

ステルスで姿を隠した僕は売人の背後へと近づき男と一緒に倉庫へ入る。

エヴァ…、これで終わりだ…。






「遅い事…。一体どれだけ待たせるおつもり?公爵家の愛妾を何だと思っているのかしら…」
「そう言うな。こっちは相当慎重に動いてるんだぜ?何もかもあんたの都合よくはいかねぇよ。いいから鏡に姿を映しな」

「…ふん。まあいいわ…」


フッ、っと消えるエヴァの姿。なるほど。あの鏡に実体の姿を取り込むのか…。ん?それって仕組みは…、いいや。難しく考えたら負けだ。魔道具だもんね。ヴォルフが言うにはその効果時間はほんの10分。受け渡してここから立ち去るには十分って事か。


静かに、だけど確かな緊張を外から感じる。この倉庫の外周は既に聖騎士たちによって取り囲まれているだろう。
あの三差路にそびえるナラの木に隠れた見張りは僕の相棒ヴォルフに任せておけば何も心配ない。
それに屋敷へと向かったウエストエンドの騎士たちがエヴァの第三騎士団に負ける要素など一つもない。

そして別動隊の聖騎士たちもヴォルフの遠吠えを合図に今頃拠点である〝快楽の夜”へと乗り込んでいるはずだ。

ほんの1~2分だというのに気が逸る。だがまだだ…。まだ早い。奴が現物をエヴァへと手渡した瞬間、それが突入のタイミング。


カサ…ガサガサ…ジャラリ…


取り交わされる『クーザ』と金袋…、エヴァが『クーザ』の箱を手に、売人が金袋を懐に入れた!今だ!


ー『グランドバンプ』ー


放ったのは子供にも放てる初歩的な土魔法。売人の足元をほんの少し盛り上げるだけのささやかな魔法だ。だが効果は十分。奴は足をとられてよろめいた。

魔法もアイテムもね、重要なのは威力じゃない、使い方だよ。初期装備のコモンアイテムだって使いどころ次第で絶妙にクエストをこなしてくれる。これこそコスパの良い戦いってやつだ。

それをチャンスと魔道具の鏡を風魔法によって奴の手から空に浮かせと、あたかも焦った男の指先にはじかれたかのようにその魔道具を倉庫の端へと飛ばす。飛ばされた先では不自然に積み上げられた荷がタイミングよく崩れ落ち、奴らの魔道具を使い物にならなくするって寸法だ。


…もちろん硬い魔石がこんな簡単に壊れるはずが無い。この程度で壊れるなら誰も苦労はしないっての。実際壊すのは僕のフルカンストパワーだ。だが奴らがそれを知る必要はない。とにかく魔石が粉々に割れたことで…鏡に移したやつらの姿は実体へと瞬時に戻った!


「しまった!姿が!」
「何やってるの!急いで出るわよ!」



姿さえあらわにしてしまえばそこからの捕物は実にあっけない…。

取っ手に手をかけたエヴァは飛び込んできた聖騎士たちによってあっという間に捕獲される。驚愕に限界まで見開かれたエヴァのつり上がった両目。何が起きたか分からないって顔で慌てふためく売人の男。

だが男の不審な動き、たとえどんな小さな身じろぎでも僕は見逃さない!

ーシャリム!ー

灯りの届かない倉庫の闇に隠れていたのは僕の護衛を買って出ていたシャリム。飛び出した彼は男の手から小さな火薬玉を奪い取った。


「ここで危険な真似はさせない…」
「くそっ!」

「それもダメ…」
「ど、どうしてわかった⁉」


なんと!相変わらず勘のいいシャリムは男が首から下げた毒薬までをも奪い取る。これは捕まるくらいなら死を、って言う悪人の流儀だろう。でかしたシャリム!この男に死なれちゃ困るからね。

さすが王都の聖騎士団。
彼らは上位のスキルを駆使し、完璧な拘束魔法を二人にかける。

特に売人の男は自決など出来ないようがっちがちだ。けれど…、んー…、あった!左足の小指か…。

やっぱりな…。さっきの毒薬で思ったんだ。こいつには縛り系の何かがつけられてるって。僕は騎士団にも売人にも気づかれないよう、こっそりとその『服従のフィンガーリング』を解除した。これであれはもうただのファッションリングだ。あんな危険な薬をまき散らしておいて…簡単にあの世へなんか逃がさないよ?





「さぁごランカスター公の愛人よ!この状況下で言い逃れは出来ぬぞ。大人しく我々に従ってもらおう!」
「ち、違うのよこれは…。何かの誤解よ!」

「何が誤解だ!全ては明白である!この期に及んで戯言を申すな!『クーザ』などと…、この国を瓦解させるつもりであったか!この毒婦めが!」

「毒婦だなどとなんてひどい仰りよう…」
「何が違う!」
「こ、これはあの化け物が…、そ、そうよ!レジナルドが仕組んだ事!わたくしはアレに言われるがまま動いただけなのです!」


なっ!なにぃ!言うにこと欠いて何言ってんだコイツ!


「全てはアレが何年もかけて仕組んだ事…。アレは自分を見捨てた公爵様を恨みに思ってわたくしを脅しこんな非道な真似をさせたのです…。」

「馬鹿を申すな!」

「み、みな騙されているのよっ!狂魔力を制御し魔のベルト地帯を封印したなどと…。あり得ないわ!お判りでしょう?あれは狂魔力を宿した化け物よ!お国の為を思うなら騙されないで!信じてくださいませ!あれは国を壊す怪物よー!!!」





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