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61 15歳 go to 裁判所

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「…ぅ…、そうなんですね…。じゃぁ仕方ありません…。彼女は僕の運命の分岐点で道を与えてくれた恩人だったのですが…。」


そうとも。彼女は僕に『転生』と言う、非常に重大かつ愉快な道を与えてくれた恩人だ。


「レジナルド、泣いているのかい?」
「…泣いてなんかいません。国の決まりですもんね。仕方ないです…。でも彼女のおかげで僕は生きてこれた…」
「レジナルド…」


実際前世の記憶と魔法があったからこそスキルを習得しレベルを上げて、僕は何不自由なく生きてこれたんだよ?フルスキルフルカンストは公爵位よりも万能だ。

さて問題はここから。

まずはもともと涙目っぽいこの目をウルウルさせながら限界まで見開く!唇は固く結びやや震わすのを忘れない。


「いいんです。彼女がいたらこれからも心強いなって思っただけですから…。だって僕はみんなと違う…クッ」


いやまったく。同じゲームのプレイヤーである彼女…、いや、同じゲームでは無かったわけだけど…、そんなことはどうでもいい!同じ前世の記憶を持つ彼女が居ればなにかとやりやすいんだよ!ニコには色々誤魔化さなくてもいいし…。

その後静かに目を瞑ったらそれらしく俯いたりなんかして…

もう分かったよね?これは泣き落とし、涙こそ流さないけど、情に訴えかける作戦だ。何だかんだ言ってこれが一番効くんだよ。いやぁ、人って捨てたもんじゃないよね?


「す、すまない…だが私の一存では…」


ススス…キュッ
「アルバート…、ホントにダメ?アルバートが王様と神官様を説得とか…出来ない?」
「レジ…ゆ、指…。あ…、いや、そ、その、そうだね、言ってみるだけでも…だが私に説得が出来るだろうか…」


強い想いをより伝えるためにギリギリまで近づいたら彼の、手の平…まで行くと圧が強いかな?少し考えて控えめに指だけをちょっと強めに握りしめることにした。
その後はもちろん、大事な話は目を見て、…と言いたいところだったんだけど身長差のせいで上目使いになってしまった…。ええい!上目使いだろうが何だろうが、アルバートの目を見ながらもう一度、誠意と熱意をもって…、訴えるべし!べし!


「僕の為に…ねぇお願い…こんなこと…、アルバートにしか頼めない!」


僕の熱意を伝えるにはもう一声何かダメ押し…、あっ!ニコが僕にやったみたいに襟首…、そうだ襟首!

ガッ
「お願いアルバート…」
「そっ、ち、近…いや、ええい!ま、任せておきたまえ!この私に!」

「本当?やったぁ!絶対だよ?あ、言質とったからね?無理でしたは聞かないよ?」
「あ、ああもちろん…、だがその…レジナルドっ!」ガバッ
サッ「あっ!もうこんな時間、ごめんなさいアルバート、僕仕事の約束が…。また明日来ますね。それじゃぁ!」

「え…レジ…」


いやぁ~、とっても有意義な話し合いが出来て良かった良かった。なんだ、アルバートってば案外良い奴じゃん。少しだけ評定上方修正しとこうかな?ちょっとだけね。





「レジナルド」


振り返った先に居たのはローランド。唯一未だにギクシャクしているのがこのローランドだ。けど何か話があったような…あ、そうだ。


「ローランド、もし良かったらうちの裁判所見学に来ない?そういうの好きそうだけど…好きでしょ?今日は休館日だから見せてあげようか?」

「…わ、私を誘っているのか?」
「誘うって言うか…、その、せっかく保養に来たんだから従者の方々にもお休みあげたらどうだろうかと思って」

「休み?」

「セザール以外の3人は従者が居るでしょ?彼らは常に傍で待機してるじゃない。もう何の危険もないって分かったよね?オスカーがうちの騎士と鍛錬に明け暮れて留守にしてるおかげで彼の従者は毎日お休み満喫してるでしょ?ローランドの従者にも一日ぐらい休みあげたらどうかな。アルバートの従者はさすがに休むわけないだろうけど。」
「だが…」

「あれだけ羨ましそうにオスカーの従者見てるのに…」
「…気付かなかった…。…私は視野が狭いのだな、何事においても…」


またえらい落ち込んで…。厳しいわりに意外と繊細だな。って…ぎょっ!な、な、泣…


「ろ、ローランド…」
「見るな!」


えっ?えっ?そんなキツイ事言ったっけ?こないだのアレ?アレなの?う、ウソだろ?

でも…よく考えたら中身二十歳の僕と違ってまだ15歳…、下手したら中学生だもんね…。うっわ…凄い罪悪感…。やっちゃった感満載…

マズイ!従者が来る!こんなの見られたらまるでイジメ…、わーーー!


「い、いいから行くよ!ローランド!手貸して!」





顔を背けた主人が僕に拉致られるのを黙って見送るしかないローランドの従者。鳩が豆鉄砲食らった顔ってあんな顔だろうか…。因みに僕の顔はいま泡くった顔だ。


「ローランド借りてくね!君たち今日は休暇だってー!」



なんとか緊急事態を脱出した僕とローランド。
それにしてもまさか馬に乗った彼と二人で並走することになるとは…。


「うまいうまい!ローランド上手いじゃない!」


ダジャレじゃないよ?


「これくらいは貴族の嗜みだ。出来ないと思われていたなら心外だ」
「あーうん、もっと頭でっかちかと思ってた」
「頭でっかち…口ばかりという事か…」


ノーーー!追い打ちをかけてどうする、僕!


「あ、あのさぁ…、この間少しきつく言いすぎた。ごめんね。」
「いや、君の指摘はもっともだ。おかげで自分のすべきことが少しは分かった。それは感謝している。だが…」


だが…、それに続く部分こそ涙を流した理由だろうか…


「性格まではなかなか変えられない。私は見識が狭い…。オスカーにも言われたのだ。我が家門が左大臣に甘んじているのはこの偏狭さゆえだと…」

「オスカーは逆にガバガバだけどね。えーと、…うちにも居るよ。ちょっと違うけど、でも似たタイプ。今から行く裁判所の裁判官ね。」


ガチガチの潔癖と石頭、違いはあるけどどっちも融通きかないのには違いない。


「でもさ、僕はそれが悪いことばっかだとも思わないんだよ。視野が狭くったって一点特化型とかあるし…。現にローランドの戦い方はハマると強、う、ゴホン!」
「私を慰めているのか…?」

「まあ…。でもね、立場が違えばものの見方だって違う訳で…、ローランドの正義と相手の正義はこれからだって違う事はあるかもしれない。」


そういや何かあったな。生徒会の役員になったローランドが正論を盾にやりすぎて孤立するエピソードが…。
あっ、もしかしてあれか?ニコの言ってたローランドの涙って…。全く世話のやける…。


「ねえローランド、誰かを批判するなら一旦相手の立場や背景を理解しようとする姿勢は必要じゃないかな?頭ごなしじゃ、なんだコイツ、ってなる。初日の僕みたいに。それで痛い目みるのは結局ローランド自身だ。」

「立場や背景…」

「学生の視野なんか狭くて当たり前。でもローランドは頭が良いんだしこれこらはもっと多角的にモノが見れるはずだよ。やったね!これで右大臣に一歩近づいた!」

「レジナルド…その…、初日はすまなかった…」

「言ったでしょ、僕も言いすぎたからお互い様、これで水に流しておしまい!」



がっちり握手して男どうしの友情が芽生え…

たりはしないんだな、これがまた。






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