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41 at that time アーニーとヴォルフ

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「レジナルド、ここに居たのか。」
「あれ?ヴォルフ…」

「ふっ、アーニー。相変わらずだなお前は」
「どう言う意味だよ、それは!」


乱入してきたのは白狼のヴォルフ。今日は人型、相変わらず男前だ。


「それでどうしたの?こんなところまで僕を探しにきたの?」
「騎士たちが街道を外れて山に入ると言うから見張ってたんだが…」
「見張って…?」

「当然だろう。山で余計な真似されちゃ困るからな。」


ヴォルフってばすぐこんな言い方するけど、バレバレだからね。心配で見守ってた、って言えばいいのに。


「奴らが山中で集団を発見した。じき到着するだろうが…、伝えといてやろうと思ってな」
「集団…?武力的な?」
「いいや。移民の類だ。恐らくだが」

「そう…。ちょっと行ってくる。アーニー、お昼はまた今度ね」


ヴォルフは「乗るか?」って聞いてくれたけどここまで馬で来たからね。置いてけないよ。
僕は少し残念そうなアーニーに後ろ髪をひかれながらもその場を後にした。

残されたヴォルフとアーニーのことをちょっとだけ心配しながら…







「いつまでも拗ねるな。ガキ臭い…」

「す、拗ねてねぇ!分かってる…移民だろ?大事な仕事だ。しょうがねぇよ…」
「そんなに淋しいなら飯ぐらい俺が付き合ってやる。それで我慢しろ」

「淋しかねぇよ!大体なんだよ!お前と飯なんか食っても美味くねぇだろ…」

「やれやれ。そもそも飯なんか俺と食おうがあいつと食おうが一人で食おうが味は同じだろうが。これだから人間は…」

「うるせぇ!いいから行けよ。ここは俺の仕事現場だ。邪魔すんな!」
「そんなにあいつが好きなのか?」

「誰がそんなこと言った!」
「じゃぁ嫌いなのか?」

「………」
「そうだろうな。」

「う、うるせぇ…」

「まぁ無理もないが…。いいか。あいつはお前を信頼している。俺の次とは言え酔狂なことだ。おかしな真似はするなよ」

「しねえよ!って言うかなんだよっ!おかしな真似って…。…ちょっと待て。誰がお前の次だって?俺の方が信頼されてるに決まってるだろうが!」

「ふっ、可愛いもんだな」

「くっ…!だからお前は嫌いなんだよ!」







屋敷に戻って待つこと1時間。ついにその一報は届けられた。ヴォルフに聞いてたって言うのはナイショだよ。こっそり見守られてたなんて、騎士たちだって微妙だろうしね。


「坊ちゃま。本日の街道警備が山中に隠れる者どもを発見したようですが…どうなさいますかな?」
「どうって…、封鎖石が弾かないなら受け入れるけど?どうして聞くの?移民でしょ?」

「それがどうやらランカスター領の者のようでして…。追手を恐れて山中を歩いて来たようですぞ」
「え…?」


参ったな。ランカスターの農民を受け入れ…て、良いのか?

この国における農民とはその土地に縛り付けられる不自由な契約農民である。

自分で土地や道具を持つ自由農民、つまり一部の地主と違い、契約農民は僅かな土地を貸し与えられ税を払いながら生計を立てる代わりにその土地から出ることも許されないという縛りを持つ。契約農民、早い話が農奴とはその土地の付属品みたいなものなのだ。

では絶対に逃げ出せないか、と言ったらそうでもない。

ここに逃げ出してきた東の難民のように、領が戦争や災害に見舞われその地で暮らすことが困難な場合、また、非常に稀ではあるが、その土地の領主が…国も認める暴君である場合に限り、受け入れ先の領で1年以上居住すると鞍替えが認められるのだ。

チェッリとトネッリからの難民と違い、ランカスターでは戦争も災害も起こっていないんだけど…これは…


「どうやら公爵閣下、そしてあの女狐めは良い統治をしておらぬようですな」

「先日お出でになられた叔父上、ハミルトン伯爵も仰っておいででした。公爵はなんとか奮闘しておられるようですがあの女狐の暴挙はそれを上回ると。なんでも贅を尽くしたうえ、何かと理由をつけ農民からむしり取っておるとか」

「何故お父様はあんな女が良いんだろう…。理解に苦しむな。」
「心の弱い者は時として有無を言わさぬ強い力に惹かれるものでございます」

「ジェイコブ、あれは強い力なんじゃなくて自己チューって言うんだよ。でもそうだな…、近々左大臣がここに来ると言ったね。ランカスターからの移動は許可されると思う?」

「かもしれませぬ。他にも色々とキナ臭い噂もございますし…」
「そうなの⁉ 僕何も聞いてないけど?」

「坊ちゃまは日々忙しくておられますから」


…これは当てこすりだ。間違いなく僕への当てこすりだな…。


「あー、ゴホン。じゃぁそれまでは目立たないように匿って…」

「坊ちゃま、他にも申し伝えたいことがございましてな」
「良い話?じゃなきゃ聞かないよ」

「さあどうでしょうかな。実はランカスター第一騎士団団長、ゴーティ殿が切られたと。それでこちらに向かうと手紙が来まして。」
「切られた…物理じゃないよね。解雇ってこと?」
「そのようですな」


なんでも手紙によれば、領民に対し傲慢な振る舞いをするエヴァにただでさえ神経をすり減らしていた騎士団長。そんな母親を手本に益々横柄さに磨きがかかったパーカーがとうとう村娘に乱暴を働こうとしたところに出くわしたのだとか。救いがたいな…。

それを見咎め諫めたところ、パーカーから盛り盛りの報告を受けて激高したエヴァに罷免されたのだとか…。マジか…


「団長の罷免に伴い第一の大多数が辞表を叩きつけたようです。皆こちらに向かうとの事ですぞ」

「それは嬉しいけど…、炎上必至じゃん。」
「そうですな」


軽く言うなぁ…。でも第一の騎士は僕について来た第二の騎士より魔法レベルは高いんだよね。これはもう、あんなことやこんなことや…期待しちゃうな。

って言うか、そんな騎士をむざむざ手放すとか、…お父様…本気で頭大丈夫だろうか?



そしてその日の夕方、ランカスターからの集団20人ほどがウエストエンドに迎えられた。
さらに10日後、愛馬にまたがった元第一騎士団からの離脱者30人がこのウエストエンド騎士団へと合流した。思ったよりも多いな。果たしてランカスターはどうなってしまうんだろう…。


「人の事心配してても仕方ないよね。僕は僕の領を守らなくっちゃ!」



これを皮切りにランカスターからはその後もチョコチョコ人が逃げ込んでくることになるんだけど…
その時の僕はそんな事全然想像しなかったよね。




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