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38 13歳 after that ウエストエンド

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翌日、改めてパウル君とも対面を果たし、彼からは「僕たちの領にある礼拝堂の天井画に貴方が居ます」などと言われたが、天界大戦争か何かが描かれているのだろう…。多分そんなんに違いない。

気休めだがパウルとカーンも名前をモジっておいた。どうせここから出ないって言ってもやり直しの意味も込めてちょっとだけ…。
そんな訳で、パウルはパーヴェル、カーンはカールへと進化した。パーヴェルは僕の『キュア』で虚弱も克服している。まさにリボーン…。


騎士団はトラキアで待つヴォルフたちを迎えに出発したけど彼女たちへの説明に大きな違いはない。ただ所縁の地がトラキアでなくクラレンス王国だったってことだけが変更点だ。

あー、そうそう。なんでも彼女らがエトゥーリアを出国した後、あの国では局部的に大地震が起きて、ある大商会の本店とある侯爵家の屋敷が半壊したらしいよ?自然の猛威って怖いよね~。



そして1か月半後、ヴォルフと騎士団に連れられてトラキアからやって来た彼らの家族。
脚の付いた亡霊に彼女たちは腰を抜かすほど驚き、そして…そこかしこで涙の再会が繰り広げられた。

崩壊していたはずの夫婦はいきなり熱烈なチューをかまして…後学のためにガン見しようと思ったら…

「あっ!ちょ、ちょっとジェイコブ…」
「些か早うございます」

そうかなぁ…?



男所帯が減り妻帯者が増えたことでここのところ領内は少し華やかな気がする。カラフルと言うか…。
ならばウエストエンドお抱え行商人のジョンとバートには女性向けの小物や日用品をもっと強化してもらう必要がある。

因みに地方へ行っては様々な情報を仕入れてくる有能な彼らには商業地区に実店舗を進呈した。
念願だったとそれはもう喜ばれたが、いやいや、これぐらいで満足してちゃダメでしょ。


そして校長フィッツさんはこっそり学園の裏に小さな家を一軒発注したみたいだ。奥さん子供と一緒に住む家とか…、あー…そのサプライズは良く無いやつ…。妹の居た僕は少しだけ女心に詳しかったりするのだ…。

僕は奥さんに必ず内装の意見を聞くよう進言しておいた。いつの日かきっと「あの時レジー様の忠告を聞いておいて良かった」と思う日が来るに違いない。

そのフィッツ夫人には村の女性たちへのマナーや言葉使い、そしてメイクから立ち居振る舞いまで、教育されたメイドを育成すべく講習をお任せすることにした。
小さな伯爵家の4女だったというフィッツ夫人、きっといい講師になるだろう。あーそうそう、男性使用人の講師はカール氏を任命した。ジェイコブ?ダメダメ。ジェイコブは僕のだからね。



そして!ここまできてついに僕は禁断のペンをとる。…叔父様に手紙をしたためる日がついに来たのだ!



大好きな叔父様。

そちらハミルトンはいかがですか?
出入りの業者から相変わらずの豊かさだと聞き及んでおりますが、これも全て叔父様のおかげです。

安心していただけるまでここへはお呼びしない。そう言って旅立ち早や1年が経ちました。

ウエストエンドは地道ながらも順調に発展を遂げ、領民の数は300名に届こうとしています。
魔のベルト地帯も封印は完璧です。完璧すぎて西の山は浄化された空気マイナスイオンに溢れています。僕が作成した泉の周りには7色の花が咲き誇っているんですよ。
そうだ、叔父様の養子となったウィルとコリンも安心して色々任せられるようになっております。どうか会ったら褒めてやってくださいね。

ようやく街道も路面の整地、封鎖石の設置が整いました。騎士たちはあそこを〝トルネード街道”と名付けたようです。名前はともかく、これで安全に往来が出来るでしょう。

そろそろこちらへお見えになられてはいかがですか。自慢の領と領民をお見せします。

愛をこめて。レジナルド




そして2週間後、街道のパトロールから戻った土の騎士マーシャルがその一報を運んでくる。


「レジナルド様。叔父上ハミルトン伯がこちらへ向かっております」
「マーシャル!街道まで出迎えを」
「ははっ!」

「ジェイコブ!」
「はっ!」
「叔父上がおいでになる。盛大な歓迎の準備を頼む!」
「畏まりました」


さぁ!渾身の街が出来上がったあの実況みたいに元気よくドヤ顔を晒そうじゃないか!




「叔父様!ようこそおいで下さいました。このハミルトン分領ウエストエンドへ!」
「ああレジー、相変わらず元気そうだ。魔力はどうだね?問題無さそうだが…」

「全く以て!それより叔父様、僕の街をお見せします。まだまだほんの土台ですが是非!」
「これこれレジー。そんなに引っ張ってはいけないよ。侯爵たるものもっと鷹揚に構えなくては。」

「でもぉ…、叔父様、早く早く!」


可愛い甥っ子の頼みでは叔父さんも聞くしかないだろう。
ジェイコブの淹れた美味しいお茶もそこそこに僕は叔父さんを街案内へと連れ出した。さすがに今日ばかりは馬車だけど…、でも窓全開だから問題ない!

意気揚々と先導するのは今回の護衛を勝ち取った騎士6人。今のウエストエンドに護衛が必要かどうか…それは甚だ疑問だが見栄えと権威の問題だよ。何しろ叔父様はハミルトン本家の当主代理だからね。

…って、当主は僕なんだけど…

ま、まぁそんなことは置いといて、窓の外からひっきりなしにかけられる領民の気さくな掛け声。気さく…?
なんか「レジナルド様をお見掛けできるなんて今日は良い事があるわ!」とか「レジナルド様が微笑んでくださったから力が湧いたぞ!」とか、パワースポットとかラッキーアイテムみたいな扱いになってるけど…良い事だよね…?


「これらがみな東の難民なのかい?」
「そればっかじゃないですけど…」
「トネッリ伯もチェッリ伯も領民の流出に怒っておいでだったが…」
「ええ!大丈夫ですか?叔父様にご迷惑を?」

「いや。彼らはゲスマンから安い労働奴隷を買い入れ、それでも足りぬ分は農奴の代わりに貧民街から人を連れていったのだよ。」
「あ…、あのゾンビみたいな人達…」

「あの地に連れていかれることが幸せかどうかは分からぬ。が、とにかくだ、おかげでスラムが消滅したと王は喜んでおられた。王から功績を称えられ両名したり顔をしておったから構わんだろう」
「それなんて棚ぼた…」

「だがスラム一番の問題であった質の悪い悪党を退治したのは君なのだろう?王も大臣も驚いていたよ。君は狂魔力を制御出来ているのかと」
「だとして臭いものに蓋をし続けた王家に僕をどうこうする権利はありませんよ。」

「もちろんだ。だが都では今君の話題で持ちきりだ。そして様変わりしたウエストエンドのこともね」
「えっ?」

「東の貸し馬車屋、それからキャラバンの商人どもが興奮しながら言いまわっておるようだな。」


そのキャラバンだが、兄弟行商ジョンとバートが商売を拡大するのに反比例して半数程度が出禁になっている。
出禁もなにも、領門を超えられない一団さえいるのだから始末に負えない…。

叔父様いわく、商売人界隈では「ウエストエンドは審判の地。あそこへ立ち入れぬ者は信用ならぬ。だがかの地に認められし者には繁栄が約束される」などと言われているらしい。


「へー、そんなことになってるんですね。」
「ははは、私に泣きついてきたのだ。なんとか口を利いてもらえぬか、とね。それからレジナルド、近々左大臣がお前の魔力測定に訪れるようだよ」

「そうなんですか?嫌だなぁ。左大臣はいつも嫌な目で僕を見るから…」
「彼のご先祖には魔力暴走の犠牲者が居るようだからね。そう言ったことも家門に伝えられているのだろう」
「…そうですか…」


知ったこっちゃない!と、切り捨てられないのも辛い所。多少の嫌み位は我慢するか…。



「それにしてもここがこれほどの変貌を遂げるとは…。この大きく拓いた場所は?」
「ここは今から建築を…、あっ!アーニー!アーニーってばこっちこっち!」
「なんだよ!あん…?」

「アーニー。紹介しておくね。こちらは僕の叔父様。長年後見を務めて下さった人格者だよ。失礼のない様にね。」
「お、おじさま…?ど、どうも…」

「叔父様、彼は僕の夢を形にする相棒、アーニーって言います。今から二人で計画の全貌を説明します。覚悟は良いですか…?」

「う、うむ…」









さあ!いよいよこの世界初の、それも他に類を見ない最高峰のリゾート開発がいよいよ本格始動だ!










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