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31 13歳 in 地下道

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シャリムを自室へと送った後、僕はそのまま一睡もせずアーニーの元へと馬を飛ばした。アーニーはもう寮には居ない。リーダーらしく一軒家だ。すぐ隣だけどね。


「アーニー、アーニーってば起きてよ!」
「うおっ!お、お前…まだ朝日も昇り切ってねぇってのに何してんだこんなとこでで!」
「アーニーにお願いがあって…」

「お願いって…、い、いいからそこ退け!上に乗るんじゃねぇ!」


自分はすぐ僕の膝で寝る癖に…、ワガママだな!


アーニーには簡単に事の成り行きを説明した。と言ってもホントざっくりだ。
殺されかかってる戦争捕虜がいた。見つけた。助けた。今ここに向かってる。家が70戸くらい必要。開発地区に30戸、農業地区に30戸、商業地区に10戸よろしくね。と、こんな感じで…。


「おま…、ふざけんなよ!いますぐ70戸とか…無理に決まってんだろうが!」
「今すぐじゃないよ。到着まで多分半月ぐらいはあるから。それまでアッパーエリアの開拓工事はストップしてくれていい。」
「それにしたって無理だって。騎士団も今は街道整備だろ…」

「手の空いた騎士には僕から頼んでおくから…。間に合う数だけでもいいんだ。足りない人は暫く避難所で待機してもらう。でも、どっちみちあそこも66名は入れない。これは人道支援だよ。ねぇアーニー、お願い頑張って!」
「い、良いけどよ…、近い!離れろ!離れろって!」


自分はいつもくっついて来る癖に…、アイルーはホントにワガママなんだから!そこが良いんだけどね。えへ☆






「クラウス、そんな訳だから騎士を総動員して家屋を増やしておいてね。アーニーにも言ってあるから力を合わせて頑張って欲しい。多分到着は半月ぐらい後かな?」

「分かりましたが…、それにしてもヴォルフが…」
「そうそう。獣人の残りを見つけるついでに逃げ出した戦争捕虜を見つけるなんてね。」

「エトゥーリアの兵ですか…。大丈夫ですかな?」

「だから身の上を抹消するんだよ。彼らはエトゥーリアの国民籍を失う。それからクラレンス王国の国民籍は与えない。彼らはウエストエンドにだけ存在する民になるんだよ。彼らに与えられるのは別人としての新しい名前とこのウエストエンドの居住権だけだ。」

「田舎暮らしの農民など生涯村から出ない者も少なくはありませぬ。さして問題にはならぬでしょう」
「はっはっは。ましてやこのウエストエンドは広大ですからな。まだほんの一部しか拓けてはおりませぬが」

「あと数年だよ!まぁ見てて!」



僕はクラウスとジェイコブを前に昨夜のことを少しだけ修正しながら説明した。
修正点その一、彼らを見つけたのはヴォルフだって部分。当主である僕が『ワープゾーン』や『テレポート』を使って魔のベルト地帯の向こうにあるナバテア帝国まで行ってました、とはさすがに言えないからね。アイテムバレだけじゃなくて叱られちゃう…

それから修正点その二、発見された彼らはヴォルフから報告を受けた僕が急遽土魔法でこしらえた地中深くの長距離地下道を使って今こちらに向かってるって部分。狂魔力で片づく事はどれほど荒唐無稽でも納得してくれるんだよね…。

後でエトゥーリアの人達口止めしなきゃ。僕もシャリムもそこには居なかったって…。



2人は若干訝しがりながらもどうにか納得してその準備に入ってくれた。
クラウスは家の建築を。ジェイコブは地下道に運ぶ食料の準備を。

いろいろどう誤魔化そうかと思ったけどそんな必要はいらなかったね。ジェイコブは用意した食料をヴォルフが獣化して取りに来るって思ってるみたい。いやいや、いくら獣型でもそんな新幹線ほど俊足じゃないから。あれ?…カンガルーって時速100キロ近く出たっけ?まぁそれは置いといて。

僕の狂魔力とヴォルフの獣化は何かと便利だ。主に言い訳の場面でだけど…



僕が提案した彼らの去就は、いわゆる前世で言うところの証人保護プログラムみたいなものだ。
彼らは名前も過去も全てを捨て全くの別人になる。唯一保護プログラムと違うのは〝新たな戸籍”ここでいう国民籍は用意できないって事。

国民籍が無いって事は領ごとにある関所を超えられないってことで、彼らはこの領内でだけ生きていく事になる。
そりゃジェイコブとクラウスが言う通り、ここは前世で言う一県くらいあるから広さ的にはまったく問題ないけど…。
せめて彼らの家族をエトゥーリアから連れ出すことが出来たらな…。落ち着いたら考えてもいいかもしれない。




さて、就寝を装い部屋へ籠ると僕は早速地下道へと転移した。
どこからともなく現れる僕に彼らはもう驚かない。実は既に昼間二度ほど顔を出している。サンドイッチを差し入れたり毛布を差し入れたり。彼らは頻繁に姿を消す僕のことを、進んだ分の地下道を埋め立てていると思っている。

そこで彼らにはくどいくらい言って聞かせた。今回の功労者は全てヴォルフである!というのを厳守するように、と。

一人一人、目を見てしっかりと言い含める僕に顔を真っ赤にしながらオロオロとしたりアタフタしたり、首枷を素手でむしりまくった僕に彼らは若干ビビり倒しているようだ。あれが脅しになってしまったのは不本意だが、それで事が収まるなら些細なことだ。


「さ、明日も歩かなきゃいけないからね。少しだけ寝酒とつまみを持って来たよ。今日は疲れたでしょう?激動の一日ご苦労様。少し飲んだら休もうね」


数カ所に分けて焚き木の要らない焚火を出現させるとそこにカトブレパスの串刺し肉を突き刺していく。
差し入れたエールと焼き上がった牛肉?に獣人も兵士も歓声をあげて大喜びだ。お昼の食事は軽食だったしね。戦地に来てから碌な食事事情じゃなかった彼らは一人づつエールを注いでまわる僕に目を輝かせている。

お酒の力というのは人をリラックスさせるんだよね。焚火を囲んで酔いに身をまかせ、あの薄暗い坑道での恐怖の表情とうって変わって今僕を見る彼らの表情ときたら教会でお祈りをするような…そんな顔だ。ま、救世主には違いないだろうけど。大袈裟だって。


「シュバルツどう?身体は大丈夫?」
「ああ。坑道でかけて頂いた『ヒール』のおかげで部下も含め問題ない。」
「獣人の方とは打ち解けたみたいだね」
「彼らは大柄だが気性の穏やかな方たちだ。特にドンキー殿には助けられているよ」

「ドンキーがどうしたって」


あっ!またヴォルフってば割り込んでくる~!いっつもなんだから!


「レジナルド、それで向こうはどうだ」
「万事OK!ヴォルフ様様だ!」

「別にいいんだが…、それじゃあ俺は今回の功労者って事になるんだな?」
「そうだけど…、何?」
「功労者には褒美があるんだろう?あずき色のチビがそう言っていた」

「あずき色のチビ…、ウィルの事?チビって、ウィルは僕と身長変わらないよ?」
「お前もチビだ」

「ヴォルフから見たらみんなチビになっちゃうよ!」
「ふっ、さてご褒美か…何をしてもらおうか。一日中俺に奉仕するっていうのはどうだ」
「奉仕って…ゴクリ…何させたいの」

「そうだな、まずは毛並みを整えてもらおう」



「ありがたくそのお役目務めさせていただきますね」






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