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25 12歳  day of ウエストエンド

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あれから早や数か月。ウエストエンドは領民を抱えた町としての形を見せ始めた。

農業地区や開発地区の彼らは既に賃金を受け取っている。それを以て領税の支払いも開始した。税は自分の居場所を守る保証金みたいなもの、いつまでもおんぶにだっこでは尊厳が芽生えないからね。
それだけじゃない。商業地区では商売するものも現れ、少しづつだが賑やかやなダウンタウンとなりつつある。

パン屋、洋品店、木彫りの道具屋、アライグマ獣人ラスカルさんの洗濯屋、ああそうそう、クマ獣人テッドさんのおかげで肉屋もね。

炊き出し頼みだった衣食住の食も、すっかり今では自立している。夕方になるとそこかしこから漂ってくる美味しい匂い。これを幸福と言わずしてなんと言うのか…。



「みな居心地のよい家屋を与えられたこと口ぐちに感謝しておりますぞ。レジー様は気前が良い!と」
「家が無いと困るでしょう?どうせ住むならちゃんとした家がいいよ。でも家の建設に関して功労者は騎士団だよね。みんなにありがとうって伝えといて」
「そのお言葉が一番の慰労になるでしょう」


相変わらずの忠誠心だ。




数日に一度、僕は自身の目で領全体の確認をする。そんな時には、大人も子供も口を揃えて『うちの領主さまは本物の天使だ』とか、『レジナルド様は我らの至宝』などと言ってくれるけど受け入れ先の領主が天使や宝に見えるのなんか当たり前じゃないか。真に受けて図に乗ると痛い目にあうっていうし黙って聞き流しておこうと思う。



200に満たなかった領民はいつの間にか200を少し超えている。それは何故か。
実はあれから2度ほど東の御者が追加の難民を連れてきたのだ。

噂が噂を呼び何とかしてここにたどり着こうとする者が後を絶えないのだとか。それを見るに見かねて御者は無報酬でここへ連れて来たってわけ。

あ、もちろん僕はちゃんと謝礼を渡したよ。彼らの心意気に報いなければ男が廃るってもんだ!

でも時々ふらりと訪れる難民を装った賊らしき方々は無事『封鎖石』にはじかれている。どうしても領門をくぐれなくて唖然としているさまを見るのは痛快だ。

誰もが恐れたウエストエンドが今ではどこよりも安全な場所になっているなんて…外の人が知ったらどう思うかな?




「イーサン先生、出来立ての研究室兼薬局はどうですか?足りないものとかあったら言ってくださいね」
「こんなに立派な研究室…、僕は…僕は…うぅ…何とお礼を言えばいいか…」

「先生泣かないでください!」
「これも先生の才能あればこそ」
「そうですよ!レジナルド様はお目が高い!」

「ようやく先生の努力が日の目を見る日が…全て先生にお任せくださいレジー様!」

「ま、任せたよ…。それよりイーサン先生。お医者様の知り合いとか…居ないですか?」
「友人知人が幾人かおりますが…」

「もしここに来て良いって言う人がいたら声を掛けていただけませんか?勿論先生から見て太鼓判押せる人で」
「ここの実態が知られていない今、ウエストエンドの名でどれほど動くか分かりませんが当たって見ましょう。」


医者のスカウトは薬師のイーサン先生に丸投げしよう。餅は餅屋、ってことで。




「おい、次はどこに行くんだ」
「アーニーのところだよ。運河の拡張の件でウィルも居るはずだし」
「開発地区か。どうする?乗せてやろうか」
「良いの?」

「俺がいると馬が怯えるだろう?だからってお前の脚じゃ歩いてたら日が暮れる」
「日は暮れないと思うけど…あれ?いま足が短いってディスられた…?」
「ふっ」
「もうっ!」


とまぁこんな感じで最近の僕はちょこちょこ獣型になったヴォルフに騎乗している。もちろん領内に居る時だけだけど。




「アーニー、どう?大分進んだ?」
「進んだけどよ、東の山に向けてこんなにだだっ広く切り拓いて…どうすんだ?」

「ここら辺はアッパータウンにするんだよ。」
「アッパータウン…?なんだそりゃ」
「お金持ち向けの、高級店が立ち並ぶ商店街。手入れのされた公園や植物園なんかも設置してさ」

「貴族街のことか」
「それにも似てるけどもっとハイクオリティなの。」


イメージするのはビバリーヒルズのトゥー・ロデオ。そこから東の山に向かって徐々にバリへと様相を変えていく。その山側が宿泊エリアだ。

バリとは言っても海が無いじゃないかって?いいやまったく問題ない。

山の斜面には大きな滝を作る予定だ。プリトヴィツェ湖群の縮小版みたいな人工的につくられるそれは言わばプールも同じ。
大中小様々な滝が流れるそこの一面はコテージに隣接させ、その部分はイグアスの滝みたいな激しさでなく白糸の滝のような上品さで、エメラルドグリーンに輝く滝つぼでは選ばれし宿泊客のみが身体を浮かべる事が出来る…。

そこは世俗から離れた幻想の空間。非日常の中で全てを忘れる、まさにシャングリラ…。


「なんか…すげぇな」
「でしょ?でね、そこで働くスタッフは全て領民でまかなうつもりだから。」
「そりゃいいけどよ、働けんのか?俺たちなんかが…」
「そのための講習はこれから始める。接客講習とか礼儀作法とか。メイクや言葉使いも。どうせ完成までは時間がかかるしね、それまでには子供たちも大きくなるでしよ?最高の場所には最高のサービスを。完璧にして見せる!」

「ならよ、今夜にでもガキたちに会いにこいよ。みんな待ってるぜ」

「ふっ、待ってるのはお前だろう」
「う、うるせぇ!余計な事言ってんじゃねぇよ!」

「二人とも仲良くなったね。ちょっと安心しちゃった。」

「仲良くなんかねぇよ!ふっざけんな!」
「そうか?俺はお前みたいなガキ嫌いじゃないがな」

「ガキとか言うな!ちょっとばかりデカいからって偉そうに…。すぐに追いついてやる!」
「そりゃ楽しみだ」



大人の余裕を見せつけるヴォルフは若造なんか相手にしない。どれだけアーニーが食ってかかってもどこ吹く風だ。

アーニーの身体つきは食事事情が良くなったことで急激に身長が伸びたみたいだ。それともそういう時期だったのかな?
でも誕生日は分からない、年齢も分からないって言うから領民台帳には一応17歳って書いておいた。
きっとあと数年もすればヴォルフくらい男らしくなりそうな気がする。でも…


「アーニーにはしなやかな身体のままでいて欲しいな。僕はそのほうが好きなんだけど…ダメ?」
「おまっ!そ、そうかよ…」


そうだよ!…アイルーみたいに。僕のアイルー、猫は液体…


「やれやれ。アーニー、大変だなお前も」






「ウィル!運河の拡張工事はどう?進んでる?」

「レジー様!ええもちろん。すべて順調です。おサルさんたちがとても働き者で」


キングの連れてきた獣人の中にはチンパンジー獣人のディーディーたちが居た。集団で暮らす彼ら。こうなってくるとなんとかして前キング、ゴリラのドンキーさんも早く買い戻してあげたい…。


「東の山手前まで延ばすんですね。そこからはどうするんですか?」
「東側に作る滝から流れる水とつなげて地中を通して循環させる。永久機関だよ。」

「僕とレジー様が散策したあの西の泉とつなげるんですね!僕とレジー様がひと時を過ごしたあの泉と!」

「あ、うん…」


「やれやれ。レジナルド、大変だなお前も」



…ヴォルフに労われた…






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