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22 12歳 at 河原
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「本当に僕を自由にするつもり…?…きみは何も分かっていない…。僕がどんな人間か…。」
シャリムは何を言おうとしているんだろう…?彼があの空に何を見ていたのか…。それが分かれば彼を理解できるのだろうか。
「僕が陽の下を生きる…?無理だよ今更…。」
「無理?どうして?あったばかりの僕に分かったような事言われたくないだろうけど…、でも君がとっても母親想いの、それから誰より賢い子だってことくらいは分かるよ」
「母親想い…?違う…。僕は母を犠牲にしたんだ。僕があの食べ物を母に返してれば母はあの男に菓子など貰わずに済んだのに…。そもそも僕さえ居なければあんな地下になど押し込められることも無かったんだ…。母と同じように主人に気に入られた女は立派な離れを与えられていたと聞いた…。なのに母はあんな地下で…。僕を身ごもったりしたから…全部僕のせいだ!」
「君のお母さんは立派な離れなんか欲しくなかったと思う。お母さんはね、何が何でも君だけは同じ目に合わせたくなかったんだよ。」
「それは…」
「読み書きが出来る素性の女性がどうして借金奴隷に身をやつしたか…それを考えたことはある?」
「え…?」
「食事も、部屋も…、優遇を受ければその対価を要求される。悪人はそうやって人を嵌めるんだよ。ましてやそれが自分のことだけで済めばいいけどね…、」
「何が言いたいの…?」
「自分によく似た幼い息子…。お母さんは聡明な人だ。君の背に少しの借りも背負わせたくなかったんだ。その容姿を見たらあの好色ジジイは絶対食指を示す…それが容易に想像ついた。だから彼女は君を隠し続けた。地下で生まれた赤ん坊が生きているか死んでいるか、誰も関心を持たないのをいいことにね…」
「だ、だけど僕のせいで母はあの男に…」
「平気だったとは思わない。だけどお菓子の対価に身体を差し出してでも君が大きくなるまでは生きなければと思ったんだ。餓死するわけにはいかなかった。書類に15歳って書いてあったよね?多分16になったら君だけでも外へ逃がすつもりだったんだと思う…。ゲスマンは16歳で成人だから…。そうしたらまともな職にだってありつける」
「だから…?だから母は僕に読み書きを…?」
「彼女はいつか君を羽ばたかせたかった…。だから君を地下に隠したまま本を与え続けたんだ。自分が居なくても君が外の世界で生きられるようにって。」
「羽ばたく…?」
「そうだよ。だから君はここで解呪をして自由にならなきゃならない。それが君に出来るお母さんへの手向けだよ…」
「…母さん…」
決して動かない彼の眼は僕のフクロウ、クーによく似ている。そのオレンジの瞳が瞬きもせず僕を見据える。
僕を見定めているんだ。お前は外敵では無いのか?と。
…彼の瞳はじっと闇を見続けていた。闇の中で鮮明に映る絶望の影を追っていたのだ…。
闇…それは子供のころから彼が親しんできたイマジナリーフレンド。彼の隣にあるのははいつだって闇だけだった…。
陽の下で自分を襲う数多の天敵から身を隠し、夜のとばりと共に生きる彼の姿はまさにフクロウと同じ。
闇夜の主である彼の姿。だけどね…、僕のクーが一番カッコよかったのはその羽を広げて僕に向かって飛んで来る時だったんだよ。
両の羽を思いっきり広げて青空の下を音もたてずに制覇して、どうだ、すごいだろ?って自慢気に飛んできて頭に停まったクー。
「君はきっと飛び立てる!あの大きな青い空は全部君のものだ!」
彼は静かに…その場へ膝をつき両の手を組んで大空に向かい祈りを捧げた。うんと高い所に居るだろう、母親に届くようにと…。
解呪のあと放心状態になってしまったシャリム。
今はそっとしておこう。彼にとって母親が亡くなってからの日々は筆舌に尽くし難いものだったのだろうから…。
という訳で、やっふう!次は獣人さんのターン!
「ねぇキング。解呪の前にそのたてがみに顔をうずめてもいいかな?」
「解呪してからでも構わないぞ。お前は人間だが恩人だからな。」
「ホントに!じゃぁ前と後で2回…いいでしょうか。あ、ちょっと!ヴォルフ!何すんの!」
僕とキングの間に割って入ってきたのは白狼のヴォルフ。獣人年齢は分からないけど、見た目だけなら前世の僕くらいに見える。大人と子供…、立ち塞がられたらどうにもならないじゃないか!
「長たるキングに馴れ馴れしい!だが解呪が未だな以上、命令では仕方ない…俺を触らしてやるからそれで我慢しろ。」
「それじゃぁ変態みたいじゃない。」
「キングのたてがみに顔をうずめるのはいいのか…」
「それは別」
「言っておくが俺は人狼だ。半獣でなく完全体へと変身できる。」
「えぇ!それホント?」
「ああ」
いやったぁ!本物の狼来たー!うぉー!
「よく分からないがお前は獣毛が好きなんだな?少しなら触らせてやる。だからいいか!触って良いのは俺だけだ。約束しろ」
うっ!ここで約束したら犬獣人やレッサーパンダにも触れないの?それは困った…。ああけど!本物のリンクに会えるなら…うぅ…ど、どうしよう…
「頭ナデナデくらいは良い?」
「お前な…。まあいい。俺が良いと言ったときだけだからな。」
「分かった。約束する。」
許可制か…仕方ないな…。…あれ?なんでいつの間にヴォルフの許可要ることになってんの?
シャリムは何を言おうとしているんだろう…?彼があの空に何を見ていたのか…。それが分かれば彼を理解できるのだろうか。
「僕が陽の下を生きる…?無理だよ今更…。」
「無理?どうして?あったばかりの僕に分かったような事言われたくないだろうけど…、でも君がとっても母親想いの、それから誰より賢い子だってことくらいは分かるよ」
「母親想い…?違う…。僕は母を犠牲にしたんだ。僕があの食べ物を母に返してれば母はあの男に菓子など貰わずに済んだのに…。そもそも僕さえ居なければあんな地下になど押し込められることも無かったんだ…。母と同じように主人に気に入られた女は立派な離れを与えられていたと聞いた…。なのに母はあんな地下で…。僕を身ごもったりしたから…全部僕のせいだ!」
「君のお母さんは立派な離れなんか欲しくなかったと思う。お母さんはね、何が何でも君だけは同じ目に合わせたくなかったんだよ。」
「それは…」
「読み書きが出来る素性の女性がどうして借金奴隷に身をやつしたか…それを考えたことはある?」
「え…?」
「食事も、部屋も…、優遇を受ければその対価を要求される。悪人はそうやって人を嵌めるんだよ。ましてやそれが自分のことだけで済めばいいけどね…、」
「何が言いたいの…?」
「自分によく似た幼い息子…。お母さんは聡明な人だ。君の背に少しの借りも背負わせたくなかったんだ。その容姿を見たらあの好色ジジイは絶対食指を示す…それが容易に想像ついた。だから彼女は君を隠し続けた。地下で生まれた赤ん坊が生きているか死んでいるか、誰も関心を持たないのをいいことにね…」
「だ、だけど僕のせいで母はあの男に…」
「平気だったとは思わない。だけどお菓子の対価に身体を差し出してでも君が大きくなるまでは生きなければと思ったんだ。餓死するわけにはいかなかった。書類に15歳って書いてあったよね?多分16になったら君だけでも外へ逃がすつもりだったんだと思う…。ゲスマンは16歳で成人だから…。そうしたらまともな職にだってありつける」
「だから…?だから母は僕に読み書きを…?」
「彼女はいつか君を羽ばたかせたかった…。だから君を地下に隠したまま本を与え続けたんだ。自分が居なくても君が外の世界で生きられるようにって。」
「羽ばたく…?」
「そうだよ。だから君はここで解呪をして自由にならなきゃならない。それが君に出来るお母さんへの手向けだよ…」
「…母さん…」
決して動かない彼の眼は僕のフクロウ、クーによく似ている。そのオレンジの瞳が瞬きもせず僕を見据える。
僕を見定めているんだ。お前は外敵では無いのか?と。
…彼の瞳はじっと闇を見続けていた。闇の中で鮮明に映る絶望の影を追っていたのだ…。
闇…それは子供のころから彼が親しんできたイマジナリーフレンド。彼の隣にあるのははいつだって闇だけだった…。
陽の下で自分を襲う数多の天敵から身を隠し、夜のとばりと共に生きる彼の姿はまさにフクロウと同じ。
闇夜の主である彼の姿。だけどね…、僕のクーが一番カッコよかったのはその羽を広げて僕に向かって飛んで来る時だったんだよ。
両の羽を思いっきり広げて青空の下を音もたてずに制覇して、どうだ、すごいだろ?って自慢気に飛んできて頭に停まったクー。
「君はきっと飛び立てる!あの大きな青い空は全部君のものだ!」
彼は静かに…その場へ膝をつき両の手を組んで大空に向かい祈りを捧げた。うんと高い所に居るだろう、母親に届くようにと…。
解呪のあと放心状態になってしまったシャリム。
今はそっとしておこう。彼にとって母親が亡くなってからの日々は筆舌に尽くし難いものだったのだろうから…。
という訳で、やっふう!次は獣人さんのターン!
「ねぇキング。解呪の前にそのたてがみに顔をうずめてもいいかな?」
「解呪してからでも構わないぞ。お前は人間だが恩人だからな。」
「ホントに!じゃぁ前と後で2回…いいでしょうか。あ、ちょっと!ヴォルフ!何すんの!」
僕とキングの間に割って入ってきたのは白狼のヴォルフ。獣人年齢は分からないけど、見た目だけなら前世の僕くらいに見える。大人と子供…、立ち塞がられたらどうにもならないじゃないか!
「長たるキングに馴れ馴れしい!だが解呪が未だな以上、命令では仕方ない…俺を触らしてやるからそれで我慢しろ。」
「それじゃぁ変態みたいじゃない。」
「キングのたてがみに顔をうずめるのはいいのか…」
「それは別」
「言っておくが俺は人狼だ。半獣でなく完全体へと変身できる。」
「えぇ!それホント?」
「ああ」
いやったぁ!本物の狼来たー!うぉー!
「よく分からないがお前は獣毛が好きなんだな?少しなら触らせてやる。だからいいか!触って良いのは俺だけだ。約束しろ」
うっ!ここで約束したら犬獣人やレッサーパンダにも触れないの?それは困った…。ああけど!本物のリンクに会えるなら…うぅ…ど、どうしよう…
「頭ナデナデくらいは良い?」
「お前な…。まあいい。俺が良いと言ったときだけだからな。」
「分かった。約束する。」
許可制か…仕方ないな…。…あれ?なんでいつの間にヴォルフの許可要ることになってんの?
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