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20 12歳 get out ゲスマン皇国

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僕の要請にようやく返事が来たのが翌日の朝早くだ。

宿で朝食を終え再び闇奴隷商へと出向く僕達。

そしてやって来たのは立派な髭をたくわえ、焦るでもなくどこか不遜な肌の浅黒い男…。これが親子二世代に手を付けようとしているエロじじいか…。


「どこの坊主か知らんがこの国で勝手が出来ると思うな!わしはあの一反で家が買えるというベルジアン絨毯の大工房、その主ハディードであるぞ!この国でも一二を争う大富豪であるこのわしに勝てるつもりか!」

「勝手などしませんよ。だからこうしてあなたを呼んだんじゃありませんか。で?」
「で?とは?」

「いくらなら彼を譲っていただけるのですか?あなたくらいの富豪ならいくらだってなびく少年は居るでしょうに。何故彼に固執するんです?」

「嫌がるものを組み敷くのがいいのではないか。わしは人の嫌がるか顔を見るのが好物なのだ。その為になら金などいくらかかっても構わん!あの清廉そうな顔立ち…。あれの母親もそうであったわ!何があろうと決して媚びぬ…。それが己の意思に反して乱れていく様、それが良いのだ!そういう訳だ、坊主がいくら大金貨を積もうと譲れぬな!金なら間に合っておる!」


サディストめ…


「それとも坊主がわしと一晩過ごすか?それで引き換えにしてやってもいいぞ?お前は類まれな美貌であるからな。その顔が歪むところを見るのも一興だ…」

「無礼者め!」
「レジナルド様に何と言う不埒なことを!」
「身の程知らずめ!」

「やめて三人とも!」


決まり文句とはいえ陳腐なセリフだ。なにが「類まれな美貌」だ!ほんとありきたりなんだから。けどキモイ…


「どうしても首を縦に振ってはいただけませんか…?」
「だとしたらどうする。狂魔力を振るうか?これはいい!戦争のきっかけが欲しかったのだ。我が皇国はいつでもその機会を待っておるのだぞ。愚かなクラレンスの腑抜け貴族め」

「戦争になんかなりませんよ。何故なら…」
「なんだ…?」

「僕はそんな子供じみたことはしないからです。僕の申し出を蹴ってそれでも彼を買い取るのでしたらどうぞ。でも自慢の息子は使えないでしょうけど」
「なんだと?」

「今あなたの下着は僕の特殊魔法で鋼鉄の鎧になっています。ミスリル級の固さです。そして更に僕の拘束魔法で固定しました。魔力量100の魔法でガチ固定しましたから貞操帯なんか目じゃないですよ。あー、そうそう。僕以外の者がそれを解除しようとすれば爆発しますからどのみち使い物にならなくなりますね。そうだ!あなたは今からトイレすら垂れ流しです。うわっ汚い」

「ば、馬鹿な!」


隣室に駆け込むと何やらうめき声が…。大声で店主を呼ぶと、今度は二人分のうめき声が…。
怒りに顔を赤黒くしながら僕へと向かってくるけど残念でした。3人の騎士はそれを許さない。っていうか、どうせ無駄だけど。見えないだけで完全防御してるからね。


「この小僧…舐めた真似を…!さっさと魔法を解除せぬか!」
「え~、ここだけの話ですけどぉ~、実は僕も他人の困った顔を見るのが大好きなんです。えへ☆」


「こ、この…」
「これが戦争のきっかけかぁ…。とんだお笑い草だ。まさか王国と皇国の戦争の原因が大富豪のおもらしだなんて…ぷ…みんなに広めなくちゃ」

「…よせ…」

「己の意志に反して乱れる様…。この場合おもらしですけどその言葉そっくりお返しします。それが嫌なら…僕の望みはお分かりですよね。さあどうします?奴隷一人と自分の尊厳、秤にかけますか?」



憤怒の表情ってきっとこういう顔のことなんだろうな。立派なひげが爆散しそうだ。せっかく平和的に解決してやったのに…何が気に入らないんだろう?
でも実際問題、たかがパンツ一枚、されどパンツ一枚、切ることも破ることも出来ず一生このまま鋼鉄パンツ…。脱げなきゃ詰む…!

ついに大富豪は彼の売買契約書を僕の目の前で破棄して見せた。ふぅやれやれ…


「ただでは済まさぬ…、済まさぬぞ!覚えておれ!」


また決まり文句か…。まるでNPCみたい。お役目ご苦労様でした。







そして数十分後、その室内に響き渡るのは紙の上を滑るペンの音。


「レジナルド・ハミルトン…っと。これが最後の一枚だね。ふぃ~、31枚分の契約書を確認してサインするのは大変だよ。これで獣人30名とあの少年は僕のものだね。あ、支配人、隷属の主は全員分僕に変更してくれた?」

「ええまぁ…。」

「何?不満そうだね…。支配人、早いとこ違法な商売からは手を引きなよ。神の鉄槌を食らいたくなければね。」


不機嫌そうに首を振る支配人。彼は知っているだろうか…。鉄槌を下す神の名は…レジナルド・ハミルトンだという事を。







6台もの幌付きの馬車。なかなか壮観じゃないか。
幌付きにした理由はたった一つ。獣人族の彼らが見世物にならないためだ。
獣人とそこそこ共存するクラレンス王国とは違い、この国ゲスマン皇国において獣人はあくまで獣であり人間ではないという認識だ。そのせいで国境を超えるまでは足枷すら外せない。
文化の違いとは言え…、受け入れがたいな。


「おい!おい!人間の子供!」
「ヴォルフ!今僕を呼んだ?あーかわいい!何?どうしたの?」


リンクもこんな風に僕を呼んだんだよね…ワフッ!ワフッ!って…。


「お前な…。まあいい。…いやな気配がする。それだけだ…」
「わざわざ教えてくれたの?やっぱりヴォルフは良い子だね」
「ふざけるな!勝手に触るんじゃ、うっ!」

「『ヒール』もうっ!また傷ついたじゃない!解除するまではなるべく逆らわないでね。紅白の毛並みなんて趣味じゃないんだ。そんなめでたい白狼ってないよ…」
「…ふっ、おかしな奴…」


けどさすが獣人だな、感知が早い。嫌な気配ねぇ…。さっきからピリピリ刺さってくるこの気配のことかな?


「マラジー、ダノワと組んで後ろに火炎。リマールはロジェと組んで横から近づけないよう泥化して。前方は僕が引き受ける!」


奴らはきっと人気のない山中に入ったところで仕掛けてくる。だけど、それはこちらにとってもチャンスでしかない。まとめて片付けたら国境を超えるまで一気に駆け抜ける!問題なしだ!

そして見えてくる山道への入り口。御者は無意識にスピードを上げた!


「来るよ!」
「お任せください!」





山中で繰り広げられる荒々しい戦闘。あのサディストな富豪め…。一個小隊並みの傭兵団送ってくるなんて…、戦争かっての!あり得ないでしょ!
馬車群には僕のシールドがかけてある。何も心配はない。つまり思いっきりやっても大丈夫、むしろどの程度の力で戦ったらいいのかさじ加減が…、あ”ー!魔物相手の方がやりやすい!


「しつっっこいな!執念深い…」
「レジナルド様!奴ら増援を呼んだようです!」

「ちょ、それホント?」

「おい人間!大丈夫なのか!何とかして俺たちが加勢を…」
「バカ言わないで!顔出さないでって言ったでしょ。足枷したままどうする気!もう良い分かった!」

「分かったって何が…」

「マラジー!リマール!ダノワ!ロジェ!残りの魔力全部注いで自分の身は自分で守って!」
「はっ!」

「いくよっ!これが本当の…『トルネード‼』」








…その山がハゲ山になってしまったのは僕のせいでは無いだろう…。全ては奴らのせいだ…。だが死人は出ていない。と、思いたい。

どこまで飛ばされたか…さっぱりわからないけど…。







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