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14 12歳 at 退廃地区

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「坊ちゃまは魔力を完全制御しておられる。心配無用だ。」

「そ、そんなこと分かるかよ!いいから帰れ!貴族のお遊びに付き合ってる暇はないんだよ!俺たちは稼がなきゃ明日の飯にもありつけねぇんだ!」
「稼ぐってどうやって?」

「お、お前には関係ねぇ!」
「…スリ?盗み?その食料は自分の分?そうじゃないでしょ?みんなに配るんだね。君みたいにいい子が…だから僕は来たんだよ」


黒猫の彼はどうやら子供たちのリーダーみたいだ。気が付いたら彼の背後には何人もの子供たちがワラワラと集まり、彼の持つ食料を少しづつ配り始めた。子供や病人、弱い者を優先にして。

彼が教え込んだのか?へぇ…、よく統制されている…。


「僕はランカスターの飛び石領地である不毛の大地を買い上げたんだ。そこに新しい町を作ろうとしていてね。それでそこに住む領民を募って王都の東に来たんだよ。」

「東…いつも争ってる物騒なとこか」

「その途中でここのことを耳にしたんだ。せめて子供たちだけでもここから連れ出したいって思ったんだけど…君もどうだろう?ここは良くない…」
「馬鹿言うな!俺たちを不毛の地でどうする気だ!頭正気か?」


僕の信頼厚いクラウスは「不敬な!」などと怒り出す事もなく、僕の意を汲み丁寧に一つづつ、彼らにも分かる易しい言葉を選んで説明していく。

すでに魔のベルト地帯には僕のウソみたいな魔力によって高位の封印が施されている事、同じく僕の手によって永遠に枯渇しない水源を確保した事、当面は生活の全てを侯爵家が面倒見るので何も心配いらないという事、そして何より、一から興すその場所では皆が平等なのだという事。

僕の作るウエストエンドに特権意識なんか必要ない!


「そんな夢みてぇな話誰が信じると思う。ふざけんな!」

「僕の掲げたのは夢じゃなく計画だよ。これはそんなフワッとした話じゃ無くて着実に進めていく設計図ありきの都市計画だ。土地もある。資材も原資もある。不可能を可能にする僕の魔力もある。足りないのは人的資源だけだ。人は城、人は石垣、人は堀、ってね。僕は領民を大切にするよ」

「人は城…?何言ってんだお前…。」

「…ねぇアーニー。あたし行ってみたい…」
「エル!おまえ裏切んのか!」
「そんなんじゃない。でも今の話が本当なら…アイだってこんな暮らしから救ってやれる…」
「ウソに決まってら!バカかお前!」
「…俺も行きてぇよ。まともな暮らしが出来んなら行って見てぇ…」
「俺も…。もう追われて逃げんのは…まっぴらだ…」
「お前らアーニーに散々世話になっといて…許さねぇぞ!」


気が付いたら取っ組み合いになる勢いで言い合いを始める子供たち。でも意外な事にアーニーと呼ばれたそのリーダーはそれを黙って聞いている。驚いた…。頭から抑え込んだりしないのか…。


「アーニーって言ったね、君の不安はもっともだ。だけど僕は慈善を施しに来たわけじゃない。人材集めに来たんだ。これは対等なギブアンドテイク。契約内容は必ず順守する。当然目一杯働いてもらうけどそれに見合うだけの対価は払うし呼びよせる以上衣食住の保証はする。」

「衣食住…」

「人として文化的な生活が出来る暮らしっていう意味だよ。」
「いま領では多くの家屋を建設中だ。仮住まいには宿舎もある。食事は当家の者が一日三度炊き出しを行っている。」
「あ、そうそう。お代わり自由だよ」


それを聞いて目が輝きだす子供たち。それに比べてアーニーはまだどことなく懐疑的だ。


「僕は無理強いをしたいわけじゃない。ここに居たいならそれでもいい。それは君たちが選ぶことだ。だけどね…、ここに人としての尊厳は無い。他者に蔑まれ、強者に踏みにじられ、施しとおこぼれをかすめ取って生きていく…、ここに魔物は居ないけど、…代わりに夢も希望も無い。」


「お前…」とつぶやきそのまま黙り込むアーニー。言い過ぎちゃったかな?


「何処へ行ったって世の中は厳しい…そうだよね。君が言うようあの地は安全地帯とは呼べないのかもしれない。だけど、屋根も壁もあるちゃんとした部屋に住んで、働いて対価を得て、お腹いっぱいご飯を食べて、また翌日汗をかいて働いて、友人と笑い合い恋人と家庭を持ち、そんな未来を描き明日を夢をみられる生活。たとえ魔獣に怯える日々だったとして…ねぇ、どちらがマシだろうか?」


今この場にいる全員が僕の言葉を噛みしめている。未来を思い描ける日々。普通の家庭に生まれていれば普通に享受できる暮らし、それがどんなものなのかって…。


「そのためのチャンスがこれだ。人として生き人として死ぬ。これはそんな当たり前の暮らしを手に入れる最初で最後のチャンスかもしれない。生きながら死んでるような今を〝安全”だって思うならそうすればいい。そうじゃないなら…」
「我々は明日の昼ここを発つ。同行したいものはそれまでに宿屋〝ハタゴ”の前に来るがいい。」


言うだけのことは言った。あとは神のみぞ知る…だ。





そして翌朝AM10時…。

「来ないねぇ…」
「坊ちゃま、まだ朝ですから。昼まで待たねば分かりませんぞ」

一時間後…。

「来ないねぇ…」
「まだ1時間ありますから…」

そして正午の鐘が鳴る…。

「来なかったね。甘かったかな…」
「折れた心は簡単に息を吹き返したりはしないのでしょうな」


さぁ行くか!と気持ちを切り替えた時、昨日の子供、ジーとエルが息せき切って駆け込んできた!


「はぁっ、はぁっ、貴族さま…、はぁっ…」
「よく来てくれたね。ここを出る決心がついた?ああ良かった…」

「違うの!貴族さま助けて!アーニーが…、アーニーが大変なの!このままじゃ殺されちゃう!」
「ど、どういう事⁉」


少し弁の立つ女の子のエルが狼狽えるジーを抑えて説明してくれたその中身は、スラム一帯を牛耳る一味のボスにアーニーが捕まったということ…。

…彼らは商店からみかじめ料を脅し取り、悪徳貴族の裏仕事を請け負い、時に街道で荷馬車を襲い、そして…スラムの子供たちを使ってスリや盗みを行わせてそのほとんどを奪ってゆくという前世で言うところのギャング、そのボスとはまさに悪の頂点!


「アーニーは…、アーニーは俺たちの為にあそこへ行ったんだ!連れ戻してよ!」
「あたしが悪いの!貴族さまと行きたいってムリ言ったから…。お願い貴族さま、すごいんでしょ?アーニーを助けて!」


胸を締め付ける彼らの悲痛な叫び…。
あの黒猫の様な少年は昨夜遅くに悪党どもの集まる屋敷までボスを訪ねて行ったのだとか。何故そんな事を!だがそれには大きな理由がある。

スラムにはスラムのルールがあり抜けるにはボスの許可が必要で…、そうじゃないと残った者が見せしめに痛めつけられる…。それに執拗な一味は決して裏切者を許さない。どこまでも追われ続け終いには…。

ああ!だから彼は一味のアジトに足を運んだのだ。子供たちがスラムを抜ける事、それをどうか許してほしいと許可を貰いに…。そんな…そんなおためごかしなんかの為に…


「俺のにいちゃんも黙って足抜けした奴のせいで死んだんだ。だから…だからアーニーは…。」
「あたしとアイをスラムから出すために…。う…うぇぇ…、貴族さま助けてっ!アーニーが殺されちゃうよぉ…!」




黒猫!今すぐ僕が助けに行く!








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