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ごく普通な農家の息子は勘当息子を溺愛する?⑤

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「…と言う訳で、これから婿としてお世話になりますね。よろしくお願いします、お父様、お母様」

「タピオ…、あんたまたおかしなの連れてきたねぇ」
「はは。悪い奴じゃないんだ。母さん、しばらく面倒見てやってよ。」
「良いじゃないか母さん。ちまっとして、どこかアッシュに似てるし」

「アッシュほど小さくは無いけど…そうねぇ、人の話を聞いて無さそうなところが似てるのかしらねぇ。さっきからキョロキョロして」
「木のにおいがしていい感じです。こういった住まいは初めてで…ここが僕の家になるんですね」

「母さん、人の話を聞いたうえで言う事聞かないのがアッシュで、聞いてるようで全然聞いてないのがカミーユだ。」
「はは。ニコニコして良い子そうじゃないか」

「けどまぁ、あんたのことを大好きだって言うのは分かったわ。ありがとうねカミーユ。こんなにたくさんタピオを描いてくれて…」
「それにしても母さん、このタピオはキレイすぎじゃないかい?タピオはもっとこう…」
「惚れた欲目でしょ」


「えーと、…カミーユこっち来いよ。俺の隠れ家に連れてってやる。そこで寝泊まりすればいいから」
「僕たちの新居はここじゃないんですね?分かりました」


連れて行かれたのはすぐ隣、こじんまりとした可愛い木造りの小屋。
中は…何だろう…貯蔵庫?よく分からないけどお家に不釣り合いなほど様々な、しかも高価な品物の数々が保管されている…。あれは…父様が欲しがってた綿入れのコート?あ、あっちのはオフィーリアが欲しがってたシルクのブラウス…。琥珀のカフスもある…。


「タピオさん、ここは?」
「あー、使い切れないっていうか、使い道のないもんが放り込んである。欲しいものがあったらもってっていいぞ。その金の棒とか…」
「金の延べ棒!? …き、金はいりませんけど…、あっ!紙が一杯。じゃぁこれ貰っていいですか?」

「いいよ。それよりほら、この丸太使って上に登れるか?」

「…無理ですよ?」
「だよな。分かった。後ではしご作ってやるから。」
「ここで一緒に暮らすんですね。楽しみだなぁ」

「え?俺は向こうに部屋があるけど?」
「ダメですよ。僕たちはふ、ふふ、夫夫になるんですから」ポッ…「一緒じゃないと」

「そうなのか?…ま、いっか。分かった。じゃあ晩飯までゆっくりしてろ」
「手伝います!だって僕、お婿さんなんですから」
「はいはい」


夕餉の支度は初めてだけど、これも結婚するからには大切なお役目。これからはご家族のお手伝いもしなくては!






ガシャーン!

「お母様、お皿が…」
「どいて頂戴危ないから。片付けてる間鍋見ててくれるかしら」

「はーい。…わっ!お母様、お鍋が!煙が!泡が!」
「あー…、カミーユ、あんた手伝いはもういいから向こうでのんびり休んどいで」

「どうしてですか…?言ってくだされば僕なんでもお手伝いします」

「あーそのねぇ…。タピオー‼タピオー‼」
「母さんなに?」
「あんたの奥さん連れてってちょうだい。カミーユが居ると支度が進まないのよ」

「悪い…。カミーユ、じゃぁこっち来い」
「はい。」






「あー、カミーユ君、危ないからその斧はこっちに…」
「でももう一回だけ挑戦…。薪割りなんて初めてですけどやらないと出来るようになりませんからね。せーの!」

「そ、そんなに振り上げな、わぁぁぁ!ちょ、ちょっと貸して!タピオー!」
「なに?」
「カミーユ君に畑でも見せてやったらどうだい…」

「父さん悪い。カミーユ…」
「はい。」
「お前なんにもできないんだな…」
「すみません…う…、ダメダメ…」


「しょげるなしょげるな。いいさ。お前は絵が描けるもんな。ほら、村の子供に何か描いてやってくれよ。動物とか。きっと喜ぶ」
「は、はいっ!」


家族の一員として僕も何か…って思ったのに…。不器用な僕では迷惑にしかならなくて…。落ち込む僕をタピオさんは優しく慰めてくれる。うぅ…、面目ない…。

でもお父様もお母様も失敗ばかりの僕をとっても温かく受け入れてくださって…さすがタピオさんのご両親。敬愛すべきお方々だ。自慢の弟さんにも会って見たかったのだけど。まさか結婚して余所に居るとは…残念。

その弟さんが作ったという上質な紙が小屋にはたくさん残されていて…、数年前から普及が進んだとはいえ田舎で紙なんてそれほどまだ使われていないと思っていたのだけど…。とても描きやすくて…助かっちゃった。


「それにしてもここは本当にきれいな景色ですね。…おとぎの国みたい…」
「あながち間違っちゃないな。そうだ!明日から村を描いたらいい。隅から隅までたくさん描いてくれるか?ずっと先まで残していけるように。ここは特別な場所だからな…語り継げるように…。それで村の教会に飾ってもらおうか」

「わ、分かりました。たくさん描きますね。特別な場所…、本当にそうです!ここには生命がある!」



全ての疲れを癒していくような優しい新芽と若葉の緑、時にそよ風を、時に恵みの雨を与えてくれる澄んだ大空の青に木々を育む太陽の黄色、そして温かく、またどっしりと人々を受け入れる大地の茶色。
お料理も掃除も薪割りも上手くできないけど絵なら描ける!


「あのな。お前は何にも出来ないけど俺たち家族はお前が好きだよ。貴族だって言うのにあんな小さな納屋に喜んで寝泊まりしてあんな素朴な飯を何杯もお替りして。カミーユ、それはお前の良いとこで、お前はそのままでいいんだからな」
「タピオさん…」


ほらね?タピオさんはいつだってちゃーんと僕の心を助けてくれるんだから…。






「お母様は本当にお料理がお上手ですね。どれもこれも、全部美味しいです!」
「あらそう?下の息子は素材の味を生かしすぎ!薄い!ってうるさいけどね。可愛いわねぇ。カミーユは」
「僕芋料理大好きです。そうだお父様、イーゼル作って下さってありがとうございます。すごく使いやすいです!」
「そんなに喜んでもらえると作り甲斐があるなあ。要るものがあるなら何でも言うんだよ」
「はーい」

「楽しそうだなカミーユ」
「とっても!」


お母様の料理は美味しいし、お父様は優しいし、家のことは気にしなくっていいって、お二人とも口を揃えてそう言って下さるし、毎日道具を持って村のあちらこちらに行って絵を描いて、村の方々もそれを見て喜んで下さる。思い描いてた理想の生活。それを叶えてくれたのが僕の救世主、タピオさん…。
そのタピオさんに不満なんてあるわけない…あるわけないはずなんだけど…


…ただ一点を除いては…


「タピオさん。どうしてあれ以来何もしないんですか?」
「なにもって…、何の話だ?」
「だって僕達ふ、ふふ、夫夫なのに、そのく、口と口を合わせたり…」
「なんだカミーユ。お前キスしたいのか?」

「そっ!そんな…、別に僕は………したいです。」
「そうなのか?」
「だってふ、ふふ、夫夫なのに…」

「やれやれ、年頃だもんな、しょうがない。ほら」

チュッ

「えへへ…。いいですかタピオさん。寝る前には必ずしてくださいね。僕たちはふ、ふふ、夫夫なんですから」

「そう思うなら噛まずに言えるようになれ。お休み」
「はーい。おやすみなさい」


不満なんて吹き飛んじゃった…。



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