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おまけ ⑫
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と、まぁ、早々にユーリと大公、コルトバご老公なんかが下船していき、高位貴族ばかりとは言え緊張の緩んだキャラベル船。仮支配人の僕は今回全行程を引率だ。
残った面々、そこでは如何にこの船を有益に運用するかと言った話で終始持ちきりだった。非常に有意義な時間だったともいえる。
そんなこんなで一家づつ下船しながら到着したのは最東の伯爵領に面した最終地点。つまりここが折り返しである。
「あっ!にいさ~ん!タピオにいさ~ん!」
「アッシュー!」
久々に会う兄さんは母さんからの差し入れを山ほど持参していた。船には専属シェフが居るって言っといたんだけどな…。
でもまぁ、これも母の愛。美味しく頂こう…。
「しかしスゴイ船だな。」
「今まで川に浮かべる数人乗りの手漕ぎ船しかなかったもんね。驚いた?」
「金貨貯めて今度はこれで行くのもいいな。王都にも近くなるし。高いのか?」
「兄さんなら顔パスOKだよ…。いつも思うけど何で払う気でいんの?そこが我が家の良い所だけどね。ところで何?王都に行きたいの?」
「ケネスに遊びに来いって言われてんだよ。面白い場所に案内するからって何度も催促されてて…、結婚したら遊びづらくなるから今のうちに、だってさ。はは、あいつ真面目に仕事してんのか?」
「へ、へぇ~…」
ケネスめ…。兄さんを悪の道に誘うとは許すまじ…。今度会ったらお説教決定だな。
けど王子様からの催促ではいくら人手が…って言ったって父さん母さんも頷くしか無いだろう。
春の植え付けが終わったら出向くというので僕はその場で兄さんの乗船予約を取っ…たうえで釘をさすのも忘れない。
「兄さん。今回の乗船料はケネスに請求しとくから遠慮なく使ってね。それからいくら王子の案内だからっておかしな場所には付いてかなくていいから。」
「分かった分かった。心配すんな、よしよし」
兄さんからのよしよし…これだけでもここに来たかいがあったというもの…。
ほとんどの高位貴族が下船をした空っぽの船、と思うでしょ?甘いな…。この僕がそんな無駄な運航をするとでも?
帰りは帰りで興味津々の裕福な伯爵家や小金持ちの男爵家当主などを乗せ船は西へと戻っていく。
もう少し暑い時期なら停泊して泳いだりできるんだけどな。今は釣りくらいしか…あっ、そうだ!
「公爵夫人、これは?」
「凧…カイトだよ。厨房からタコ糸貰ってきて作ってみた。良かった~、『冬休みの親子工作』読んどいて~。ううんこっちの話。ほら、ここ持ってこう!」
「おお!」
「これはあれですな。今流行のハ…ハン…」
「ハンググライダーね。まぁ確かに似てるっちゃ似てるかな」
「確かもう一種あるのでしたな?」
「パラグライダーね。男爵、詳しいですね」
「私は流行りものに目が無いのですよ。何しろ感性が若いもので。」
「へー…」
うん?パラグライダー…パラセーリング…、これは…閃いた!
とは言え、水温の低いこの季節、ドライスーツのないここではちょっと難しいだろう。この船上アクティビティは夏季限定だな。そう心のメモ用紙に書きとめ、僕は船尾で凧あげにはしゃぐ中年達を尻目にアルパ君を探しに行った。
新婚夫婦の邪魔は極力したく無いのだが…今の僕は支配人だからね。随時進行状況をお伝えしなければ…。
「アルパ君、次の停泊地でユーリとヴェストさんを拾って明後日にはリッターホルム川岸に到着だからね。お疲れさまでした。疲れてない?」
「いえ、とても快適に過ごせました。景観も素晴らしいものでしたし。むしろ元気が出ました。」
「アッシュ様、これをご覧くださいまし。途中山から舞い落ちてきた花びらですの。押し花にしたのですよ。うふ、可愛い…」
「可愛いのは貴女です。キャロライン」
「ま、まぁ…」
「ヒューヒュー!あー、熱い熱い。真夏かと思っちゃったよ。おかしいよね?今4月なのに」
「アッシュ様ってば…。」
と思ったら、いきなり思いに耽るアルパ君。まぁ何考えてるか想像は付くけどね。
「…まだ信じられません。伯爵家の息子、それも私の立場でこのように晴れやかな婚儀の日を迎えることができるなんて…。2年前にはとても考えられなかった…」
「うーん…、魚心あれば水心ありってね。僕たちも助かってるんだからアルパ君は堂々と大きな顔しててね」
「ふふ。はい。」
穏やかな新婚夫婦の姿に笑みをこぼさずにはいられない。良かった。あの日彼を失わずに済んで…。
だからって2か月後ハネムーンベビーの報告を受けた時には意外が過ぎて、僕も、さすがのユーリも、アルパ君の顔を二度見するほどびっくりしたけどねっ!
残った面々、そこでは如何にこの船を有益に運用するかと言った話で終始持ちきりだった。非常に有意義な時間だったともいえる。
そんなこんなで一家づつ下船しながら到着したのは最東の伯爵領に面した最終地点。つまりここが折り返しである。
「あっ!にいさ~ん!タピオにいさ~ん!」
「アッシュー!」
久々に会う兄さんは母さんからの差し入れを山ほど持参していた。船には専属シェフが居るって言っといたんだけどな…。
でもまぁ、これも母の愛。美味しく頂こう…。
「しかしスゴイ船だな。」
「今まで川に浮かべる数人乗りの手漕ぎ船しかなかったもんね。驚いた?」
「金貨貯めて今度はこれで行くのもいいな。王都にも近くなるし。高いのか?」
「兄さんなら顔パスOKだよ…。いつも思うけど何で払う気でいんの?そこが我が家の良い所だけどね。ところで何?王都に行きたいの?」
「ケネスに遊びに来いって言われてんだよ。面白い場所に案内するからって何度も催促されてて…、結婚したら遊びづらくなるから今のうちに、だってさ。はは、あいつ真面目に仕事してんのか?」
「へ、へぇ~…」
ケネスめ…。兄さんを悪の道に誘うとは許すまじ…。今度会ったらお説教決定だな。
けど王子様からの催促ではいくら人手が…って言ったって父さん母さんも頷くしか無いだろう。
春の植え付けが終わったら出向くというので僕はその場で兄さんの乗船予約を取っ…たうえで釘をさすのも忘れない。
「兄さん。今回の乗船料はケネスに請求しとくから遠慮なく使ってね。それからいくら王子の案内だからっておかしな場所には付いてかなくていいから。」
「分かった分かった。心配すんな、よしよし」
兄さんからのよしよし…これだけでもここに来たかいがあったというもの…。
ほとんどの高位貴族が下船をした空っぽの船、と思うでしょ?甘いな…。この僕がそんな無駄な運航をするとでも?
帰りは帰りで興味津々の裕福な伯爵家や小金持ちの男爵家当主などを乗せ船は西へと戻っていく。
もう少し暑い時期なら停泊して泳いだりできるんだけどな。今は釣りくらいしか…あっ、そうだ!
「公爵夫人、これは?」
「凧…カイトだよ。厨房からタコ糸貰ってきて作ってみた。良かった~、『冬休みの親子工作』読んどいて~。ううんこっちの話。ほら、ここ持ってこう!」
「おお!」
「これはあれですな。今流行のハ…ハン…」
「ハンググライダーね。まぁ確かに似てるっちゃ似てるかな」
「確かもう一種あるのでしたな?」
「パラグライダーね。男爵、詳しいですね」
「私は流行りものに目が無いのですよ。何しろ感性が若いもので。」
「へー…」
うん?パラグライダー…パラセーリング…、これは…閃いた!
とは言え、水温の低いこの季節、ドライスーツのないここではちょっと難しいだろう。この船上アクティビティは夏季限定だな。そう心のメモ用紙に書きとめ、僕は船尾で凧あげにはしゃぐ中年達を尻目にアルパ君を探しに行った。
新婚夫婦の邪魔は極力したく無いのだが…今の僕は支配人だからね。随時進行状況をお伝えしなければ…。
「アルパ君、次の停泊地でユーリとヴェストさんを拾って明後日にはリッターホルム川岸に到着だからね。お疲れさまでした。疲れてない?」
「いえ、とても快適に過ごせました。景観も素晴らしいものでしたし。むしろ元気が出ました。」
「アッシュ様、これをご覧くださいまし。途中山から舞い落ちてきた花びらですの。押し花にしたのですよ。うふ、可愛い…」
「可愛いのは貴女です。キャロライン」
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「ヒューヒュー!あー、熱い熱い。真夏かと思っちゃったよ。おかしいよね?今4月なのに」
「アッシュ様ってば…。」
と思ったら、いきなり思いに耽るアルパ君。まぁ何考えてるか想像は付くけどね。
「…まだ信じられません。伯爵家の息子、それも私の立場でこのように晴れやかな婚儀の日を迎えることができるなんて…。2年前にはとても考えられなかった…」
「うーん…、魚心あれば水心ありってね。僕たちも助かってるんだからアルパ君は堂々と大きな顔しててね」
「ふふ。はい。」
穏やかな新婚夫婦の姿に笑みをこぼさずにはいられない。良かった。あの日彼を失わずに済んで…。
だからって2か月後ハネムーンベビーの報告を受けた時には意外が過ぎて、僕も、さすがのユーリも、アルパ君の顔を二度見するほどびっくりしたけどねっ!
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