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ある後継者の回想
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私の知るリッターホルム。それは人々から忌み嫌われた禁断の地であった。
私はとある伯爵領で代書人を生業に持つ男、ブラマンと言う。
曾祖母から聞いた話だが、曾祖母の祖父は断絶により取り潰されてしまったものの侯爵家としてそれなりの領地を治める高貴なお方だったのだとか。
断絶した貴族家…。大罪でも犯したのでない限り後継の問題だろう。断絶回避、そのためにはどの家門も後継に関してはあらゆる手立てを打つのが常だ。なぜそうなってしまったのか…そこにあった問題は計り知れない。だが多くは無いが時折聞く話だ。
とは言え私の家系はそれでも恵まれていたほうだろう。
貴族でなくなったもと貴族は大概において平民としての暮らしに慣れず身を壊していくものがほとんどだというのに、私の曾祖母は幸いなことにどこかの大貴族に縁づくことが出来たそうだから。
不幸にも男子を産むことが出来なかった曾祖母は離縁されてしまったと言う事だったが、その際多額の財を与えられた。
それを元手に、曾祖母の再婚相手であった一平民の曽祖父は代書業を始めたのだ。もちろん代書を受け持ったのは貴族教育を受けられた曾祖母。だがそれを仕事へと昇華させたのは曽祖父の功績。恐らく優れた方だったのだろう。
それゆえ私たちは皆、平民でありながら一定の教育を受け今でもこうしてそれなりの暮らしを維持できる家業を受け継いできたのだ。
幼い頃、ベールに包まれた北の地に関心を持った私に祖父母も両親も口を揃えてこう言った。
「リッターホルム。あそこは公爵領とは言え禁忌された呪われた土地。毒公爵の血を幽閉する牢獄なのです。あの北の地に興味本位で近づいてはなりませんよ。安易に関わり合う事も許しません。そんなことをすれば私たちにどんな災いが降りかかるか…」
そう言われて育ってきた私にある日届けられた一通の手紙。
それはリッターホルム公爵家現当主であるユーリウス様の成人の儀式への招待だった。
忌み嫌われた北の地リッターホルム。その噂に変化が見え始めたのは何時ごろからだろうか…。
王城での大地震、その場に居合わせた幼い公爵が身を挺して王と王子を守ったのだと人々が驚きに目を丸くして囁き始めた頃だろうか。
とにかく、王家との関係修復をもってリッターホルムの風評は一変していった。
その頃から私の周りでも妙な動きが見え始める。
ショーグレン子爵が祖母に話を聞きに訪れたり、筆頭侯爵家であるコーネイン侯爵が同じく祖母に会いに来たりと、私にわかったのは断絶したフェルセン侯爵家に関わるなにかと言う事だけ。
所詮今更私たちには関係のないことと、大して気にも留めず事業のさらなる拡張にむけ弟や義兄たちと仕事に邁進していたそんな時に飛び込んできた招待状。
そこには神聖なる儀式への招待と共に、10日ほど公爵邸に滞在してある話し合いに参加してほしいと明記してあった。
条件は3つ。
1・成人男性であること。(公爵邸は女人禁制なのだとか)
2・リッターホルム公爵家に対し心からの敬意を示せること。
3・荒唐無稽な話を受け入れられる度量があること。
どうしても先入観が抜けきらない祖母は強固に反対したが柔軟にして理性的な父は私に行くよう命じてきた。
招待状には誰を、とは記載が無かったのだが、幼い頃リッターホルムに関心を寄せていた私を父は覚えていたのだ。
「リッターホルムに行きたい、この目で見たい、そう話したお前のもとにこの招待状が届いたのは運命なのかも知れない。行って来なさい。そこにはきっとお前の宿縁があるだろう」
初めて足を踏み入れる北の大地。
そこは祖母の心配するような怪しげな空気などどこにも漂ってはいない。いや、変化してきたのかもしれない。王を守ったという、幼い公爵の手腕によって。
そこにあるのは活気に溢れる領都と領民への気遣いに満ちた緑の荘園だった。
「聞いていた土地とはかなり違うようだ…。今から成人の儀を執り行うという公爵閣下はいったいどれほどの才気に溢れたお方なのか…」
そして通される公爵邸の一室。歓迎の意が伝わる美しい部屋だ。だが実際ここへ来るまで半信半疑だったのだ。
もと侯爵家の血筋とは言え今は一介の庶民である私が本当に公爵家に滞在など許されるものなのか?と。
「こちらの部屋は滞在中自由にお使いください。私は階下に居ることが多いので不自由があればフットマンかボーイに申しつけを。詳細はそちらにアッシュ様からの書付が置いてございます。他になにかご質問は?」
「その…、アッシュ様と言うのは?」
「アッシュ様はこの屋敷の要でございます。ユーリウス様を守る守護神にしてあと数日で公爵夫人になられるお方。そして…私の大切な主人です。」
執事である彼と話して分かったことがいくつかある。
その一つが、これがこの聖王国の創成期、始まりの元老院として君臨した家門の集まりだということ。
現存の6家からは現当主とその後継者が、そして断絶した6家からはその代表者が集められている。
もう一つはこのリッターホルムをここまで改革したであろう人物が、公爵閣下と同じ16歳の少年で、尚且つ彼らは同性でありながら正式に婚姻を結ぶ予定でいること…。
そして何より重要なのは…
私を部屋へ案内した執事、ヴェスト。彼が私の知る限りお目にかかった事のないほど類まれな美青年だと言う事だ…。
私はとある伯爵領で代書人を生業に持つ男、ブラマンと言う。
曾祖母から聞いた話だが、曾祖母の祖父は断絶により取り潰されてしまったものの侯爵家としてそれなりの領地を治める高貴なお方だったのだとか。
断絶した貴族家…。大罪でも犯したのでない限り後継の問題だろう。断絶回避、そのためにはどの家門も後継に関してはあらゆる手立てを打つのが常だ。なぜそうなってしまったのか…そこにあった問題は計り知れない。だが多くは無いが時折聞く話だ。
とは言え私の家系はそれでも恵まれていたほうだろう。
貴族でなくなったもと貴族は大概において平民としての暮らしに慣れず身を壊していくものがほとんどだというのに、私の曾祖母は幸いなことにどこかの大貴族に縁づくことが出来たそうだから。
不幸にも男子を産むことが出来なかった曾祖母は離縁されてしまったと言う事だったが、その際多額の財を与えられた。
それを元手に、曾祖母の再婚相手であった一平民の曽祖父は代書業を始めたのだ。もちろん代書を受け持ったのは貴族教育を受けられた曾祖母。だがそれを仕事へと昇華させたのは曽祖父の功績。恐らく優れた方だったのだろう。
それゆえ私たちは皆、平民でありながら一定の教育を受け今でもこうしてそれなりの暮らしを維持できる家業を受け継いできたのだ。
幼い頃、ベールに包まれた北の地に関心を持った私に祖父母も両親も口を揃えてこう言った。
「リッターホルム。あそこは公爵領とは言え禁忌された呪われた土地。毒公爵の血を幽閉する牢獄なのです。あの北の地に興味本位で近づいてはなりませんよ。安易に関わり合う事も許しません。そんなことをすれば私たちにどんな災いが降りかかるか…」
そう言われて育ってきた私にある日届けられた一通の手紙。
それはリッターホルム公爵家現当主であるユーリウス様の成人の儀式への招待だった。
忌み嫌われた北の地リッターホルム。その噂に変化が見え始めたのは何時ごろからだろうか…。
王城での大地震、その場に居合わせた幼い公爵が身を挺して王と王子を守ったのだと人々が驚きに目を丸くして囁き始めた頃だろうか。
とにかく、王家との関係修復をもってリッターホルムの風評は一変していった。
その頃から私の周りでも妙な動きが見え始める。
ショーグレン子爵が祖母に話を聞きに訪れたり、筆頭侯爵家であるコーネイン侯爵が同じく祖母に会いに来たりと、私にわかったのは断絶したフェルセン侯爵家に関わるなにかと言う事だけ。
所詮今更私たちには関係のないことと、大して気にも留めず事業のさらなる拡張にむけ弟や義兄たちと仕事に邁進していたそんな時に飛び込んできた招待状。
そこには神聖なる儀式への招待と共に、10日ほど公爵邸に滞在してある話し合いに参加してほしいと明記してあった。
条件は3つ。
1・成人男性であること。(公爵邸は女人禁制なのだとか)
2・リッターホルム公爵家に対し心からの敬意を示せること。
3・荒唐無稽な話を受け入れられる度量があること。
どうしても先入観が抜けきらない祖母は強固に反対したが柔軟にして理性的な父は私に行くよう命じてきた。
招待状には誰を、とは記載が無かったのだが、幼い頃リッターホルムに関心を寄せていた私を父は覚えていたのだ。
「リッターホルムに行きたい、この目で見たい、そう話したお前のもとにこの招待状が届いたのは運命なのかも知れない。行って来なさい。そこにはきっとお前の宿縁があるだろう」
初めて足を踏み入れる北の大地。
そこは祖母の心配するような怪しげな空気などどこにも漂ってはいない。いや、変化してきたのかもしれない。王を守ったという、幼い公爵の手腕によって。
そこにあるのは活気に溢れる領都と領民への気遣いに満ちた緑の荘園だった。
「聞いていた土地とはかなり違うようだ…。今から成人の儀を執り行うという公爵閣下はいったいどれほどの才気に溢れたお方なのか…」
そして通される公爵邸の一室。歓迎の意が伝わる美しい部屋だ。だが実際ここへ来るまで半信半疑だったのだ。
もと侯爵家の血筋とは言え今は一介の庶民である私が本当に公爵家に滞在など許されるものなのか?と。
「こちらの部屋は滞在中自由にお使いください。私は階下に居ることが多いので不自由があればフットマンかボーイに申しつけを。詳細はそちらにアッシュ様からの書付が置いてございます。他になにかご質問は?」
「その…、アッシュ様と言うのは?」
「アッシュ様はこの屋敷の要でございます。ユーリウス様を守る守護神にしてあと数日で公爵夫人になられるお方。そして…私の大切な主人です。」
執事である彼と話して分かったことがいくつかある。
その一つが、これがこの聖王国の創成期、始まりの元老院として君臨した家門の集まりだということ。
現存の6家からは現当主とその後継者が、そして断絶した6家からはその代表者が集められている。
もう一つはこのリッターホルムをここまで改革したであろう人物が、公爵閣下と同じ16歳の少年で、尚且つ彼らは同性でありながら正式に婚姻を結ぶ予定でいること…。
そして何より重要なのは…
私を部屋へ案内した執事、ヴェスト。彼が私の知る限りお目にかかった事のないほど類まれな美青年だと言う事だ…。
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