229 / 275
連載
おまけ ②
しおりを挟む
「僕もやりたい!」
「やりたいって…」
「シェフとしたい~‼」
「だからナッツが言うと全部おかしな意味に聞こえるんだって…」
「アッシュも姫も王さまだってしたんだもん!僕も結婚式を挙げたい~!」
「いいけど…、もう色々続いて疲れたし…春まで待ってよ」
「待てない~‼」
フォレストでの作業も終わり昼食へと戻った僕を待っていたのは、ここのところナッツとの間で繰り広げられている日課の様な押し問答。
屋敷中に響き渡るナッツの必死な叫びを皮切りに、ユーリ以外のデザートはこの日から全てビーナッツバターになってしまった。ええ…
それをスプーンで掬って舐めること3日目のある日、ついに僕は音をあげた…。
「だーっ!ピーナッツバターは嫌いじゃないけどもういいっ!分かった!今すぐ準備する!」
連日のピーナッツバターには食傷気味だ。ナッツの結婚式なら列席するのは屋敷の人間だけだろう。そうしたらそれを聞いてたアレクシさんが「大して手間もかかるまい」と協力を申し出てくれた。
「私も手伝おう。教会への連絡他は私が請け負う。君はナッツとサーダの衣装を。」
「ごめんねアレクシさん。冬支度で忙しい所を…。でもそれならそれで大雪が降る前にやらなくっちゃ」
そうしてバタバタと用意されたその婚礼衣装は、ナッツの可愛らしさをよく引き立てる、レースと花で飾られた、とても急ごしらえとは思えないものだった。
「よくこの短期間で…どうやったんだい?」
「あー…、ヴェストさんがカルロッタさんの婚礼衣装を解体して使えって…それが最善だって…」
「それは…、最善かもしれないがどうなんだ…」
「どうせ男しか居ないのにこれ以上置いておくのはむしろ最悪だって…」
「…確かに最悪だ…」
しっかりした体躯のサーダさんには3代前の当主の婚礼衣装がとてもよく似合っていた。
サーダさんと言えば彼の足に装着された義足。
それはこの数年間に僕の助言で進化を遂げ、棒のようだった義足が今では膝継手によりとても自然な動きを再現している。素晴らしいことだ。そしてそれらもカレッジ内ではさらなる研究が進められているという…。
一週間ほどで支度されたナッツとサーダさんの結婚式。
そこにはこの上なく幸せそうなナッツと、いつもと変わらず、だけどどことなくまんざらでもなさそうに見えるサーダさんが居た。
それを祝福するのは屋敷中の使用人。
ユーリの御出席はさすがに憚られたので、代わりに僕は介添えを務めた。
「おめでとうナッツ!」
「スーシェフ、おめでとうございます!」
「お似合いだよ二人とも」
「ありがとうみんな!僕とシェフはずっと幸せだけどもっと幸せになります‼」
割れんばかりの喝采に小さな愚痴をこぼすのは反則だろうか。
「僕の時はすごく微妙な拍手だったのに…。」
けど…、懐かしいな。ざわめきと困惑と苦笑いに彩られた僕の婚礼の儀。それとはまた違う、気の置けない仲間たちの笑顔に満たされた温かな結婚式。いいお式だ…。
そして教会から一歩外へ出るとそこには…
ナッツとサーダさんを祝福する多くの領民たちが!
そうか。ナッツのあの甘い菓子は領民たちにも人気だもんね。
だけど気になるのはこの…泣きじゃくる男たち…あっ…
「あーあ、屍累々か…気の毒に…」
「アッシュ君、これは…」
「アレクシさん初耳?ナッツのファンクラブ会員たちだよ」
「そんなのがあったの?な、なんなのそれは!?」
「あれ?ノールさんも知らなかった?おかしいな…カレッジ内にも会員は多いはずなのに…」
「カレッジ内…?」
「領都の男どもがガチ恋勢で、カレッジの男どもはアルパ君との百合萌えってやつ。ほら?ナッツ時々アルパ君に差し入れ持って行くでしょう?あれで。末期だよねぇ…」
「知らなかった…」
「そんなことになってたなんて…」
ナッツとサーダさんを乗せたオープン馬車は、僕の発案で後ろにたくさんのブリキのカンが付けられた。
ノールさんには意味が解らない…と言われたけどそういうものとしか答えられない。
嬉しそうに手を振りながら領内を回りに行ってしまったナッツ。ナッツ…残されたこの惨状どうする気…?
その後屋敷の厨房には、僕からの「推しの幸せを喜んでこそ真のファンだろうがっ!」と言う叱咤激励に立ち直った男どもの祝いのポインセチアが続々届けられたという…。クリスマス前だからいいんだけどね。お屋敷が真っ赤だよ…
またさらにその後、領主の許可のもと同性の婚姻が行われたという噂が何故か国中を駆け巡り、同性の恋人を持つカップルたちの移住が急激に増加し…、領民の管理をするアレクシさんの仕事を圧迫したとういうのもささやかなおまけだ。
それにしても…
同性婚といい姫の秘め事と言い…、リッターホルムがどんどん自由恋愛推奨領になっていくじゃないか!ま、まぁこの世界観のベースは北欧だけに?良いっちゃ良いんだけど…まぁ…まぁね…ま…う~ん…い、いいのか?…まぁいいか。
以降、孤児を養子に迎える同性カップルが増えたことで不幸な子供が減ったという棚ぼたな喜ばしい事実も、…ここに記しておこう…。
「やりたいって…」
「シェフとしたい~‼」
「だからナッツが言うと全部おかしな意味に聞こえるんだって…」
「アッシュも姫も王さまだってしたんだもん!僕も結婚式を挙げたい~!」
「いいけど…、もう色々続いて疲れたし…春まで待ってよ」
「待てない~‼」
フォレストでの作業も終わり昼食へと戻った僕を待っていたのは、ここのところナッツとの間で繰り広げられている日課の様な押し問答。
屋敷中に響き渡るナッツの必死な叫びを皮切りに、ユーリ以外のデザートはこの日から全てビーナッツバターになってしまった。ええ…
それをスプーンで掬って舐めること3日目のある日、ついに僕は音をあげた…。
「だーっ!ピーナッツバターは嫌いじゃないけどもういいっ!分かった!今すぐ準備する!」
連日のピーナッツバターには食傷気味だ。ナッツの結婚式なら列席するのは屋敷の人間だけだろう。そうしたらそれを聞いてたアレクシさんが「大して手間もかかるまい」と協力を申し出てくれた。
「私も手伝おう。教会への連絡他は私が請け負う。君はナッツとサーダの衣装を。」
「ごめんねアレクシさん。冬支度で忙しい所を…。でもそれならそれで大雪が降る前にやらなくっちゃ」
そうしてバタバタと用意されたその婚礼衣装は、ナッツの可愛らしさをよく引き立てる、レースと花で飾られた、とても急ごしらえとは思えないものだった。
「よくこの短期間で…どうやったんだい?」
「あー…、ヴェストさんがカルロッタさんの婚礼衣装を解体して使えって…それが最善だって…」
「それは…、最善かもしれないがどうなんだ…」
「どうせ男しか居ないのにこれ以上置いておくのはむしろ最悪だって…」
「…確かに最悪だ…」
しっかりした体躯のサーダさんには3代前の当主の婚礼衣装がとてもよく似合っていた。
サーダさんと言えば彼の足に装着された義足。
それはこの数年間に僕の助言で進化を遂げ、棒のようだった義足が今では膝継手によりとても自然な動きを再現している。素晴らしいことだ。そしてそれらもカレッジ内ではさらなる研究が進められているという…。
一週間ほどで支度されたナッツとサーダさんの結婚式。
そこにはこの上なく幸せそうなナッツと、いつもと変わらず、だけどどことなくまんざらでもなさそうに見えるサーダさんが居た。
それを祝福するのは屋敷中の使用人。
ユーリの御出席はさすがに憚られたので、代わりに僕は介添えを務めた。
「おめでとうナッツ!」
「スーシェフ、おめでとうございます!」
「お似合いだよ二人とも」
「ありがとうみんな!僕とシェフはずっと幸せだけどもっと幸せになります‼」
割れんばかりの喝采に小さな愚痴をこぼすのは反則だろうか。
「僕の時はすごく微妙な拍手だったのに…。」
けど…、懐かしいな。ざわめきと困惑と苦笑いに彩られた僕の婚礼の儀。それとはまた違う、気の置けない仲間たちの笑顔に満たされた温かな結婚式。いいお式だ…。
そして教会から一歩外へ出るとそこには…
ナッツとサーダさんを祝福する多くの領民たちが!
そうか。ナッツのあの甘い菓子は領民たちにも人気だもんね。
だけど気になるのはこの…泣きじゃくる男たち…あっ…
「あーあ、屍累々か…気の毒に…」
「アッシュ君、これは…」
「アレクシさん初耳?ナッツのファンクラブ会員たちだよ」
「そんなのがあったの?な、なんなのそれは!?」
「あれ?ノールさんも知らなかった?おかしいな…カレッジ内にも会員は多いはずなのに…」
「カレッジ内…?」
「領都の男どもがガチ恋勢で、カレッジの男どもはアルパ君との百合萌えってやつ。ほら?ナッツ時々アルパ君に差し入れ持って行くでしょう?あれで。末期だよねぇ…」
「知らなかった…」
「そんなことになってたなんて…」
ナッツとサーダさんを乗せたオープン馬車は、僕の発案で後ろにたくさんのブリキのカンが付けられた。
ノールさんには意味が解らない…と言われたけどそういうものとしか答えられない。
嬉しそうに手を振りながら領内を回りに行ってしまったナッツ。ナッツ…残されたこの惨状どうする気…?
その後屋敷の厨房には、僕からの「推しの幸せを喜んでこそ真のファンだろうがっ!」と言う叱咤激励に立ち直った男どもの祝いのポインセチアが続々届けられたという…。クリスマス前だからいいんだけどね。お屋敷が真っ赤だよ…
またさらにその後、領主の許可のもと同性の婚姻が行われたという噂が何故か国中を駆け巡り、同性の恋人を持つカップルたちの移住が急激に増加し…、領民の管理をするアレクシさんの仕事を圧迫したとういうのもささやかなおまけだ。
それにしても…
同性婚といい姫の秘め事と言い…、リッターホルムがどんどん自由恋愛推奨領になっていくじゃないか!ま、まぁこの世界観のベースは北欧だけに?良いっちゃ良いんだけど…まぁ…まぁね…ま…う~ん…い、いいのか?…まぁいいか。
以降、孤児を養子に迎える同性カップルが増えたことで不幸な子供が減ったという棚ぼたな喜ばしい事実も、…ここに記しておこう…。
315
お気に入りに追加
5,667
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
断罪は決定済みのようなので、好きにやろうと思います。
小鷹けい
BL
王子×悪役令息が書きたくなって、見切り発車で書き始めました。
オリジナルBL初心者です。生温かい目で見ていただけますとありがたく存じます。
自分が『悪役令息』と呼ばれる存在だと気付いている主人公と、面倒くさい性格の王子と、過保護な兄がいます。
ヒロイン(♂)役はいますが、あくまで王子×悪役令息ものです。
最終的に執着溺愛に持って行けるようにしたいと思っております。
※第一王子の名前をレオンにするかラインにするかで迷ってた当時の痕跡があったため、気付いた箇所は修正しました。正しくはレオンハルトのところ、まだラインハルト表記になっている箇所があるかもしれません。
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが
咲
BL
俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。
ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。
「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」
モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?
重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。
※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。
※第三者×兄(弟)描写があります。
※ヤンデレの闇属性でビッチです。
※兄の方が優位です。
※男性向けの表現を含みます。
※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。
お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。