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194 彼とタピオ

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ブクブクブクブク…

泉の底に湧泉部が見える。ああ…、いくら兄さんに素潜りを鍛えられた僕でもそこまで息は続かない…。
に、兄さん!兄さん助けて!タピオ兄さん!困ったら呼べって言ったじゃん!!にいさんってば!!にいさーん!!!


その時!まるで天啓のようにどこからか兄さんの声が!


『アッシュ!木を燃やせ!燃焼させるんだ!』

ね、燃焼だって?

脳内図書館では『なぜなぜ子供の化学』が目的のページを瞬時に開く。

木を構成する主な成分は、炭素、酸素、水素の3つ。

木を燃やせって?木を燃やせば酸素と水素は結びつき水になって蒸発する。
そして炭素は空気中の酸素と合体して二酸化炭素になるから残った物は灰になる。

残ったは灰になる。残った 灰 アッシュになる⁉

で、でも火なんて、燃やすったって、火?ひ、ひぃー!


『落ち着けアッシュ!太陽の光にかざせ!泉の木漏れ日は神の灯火だ!』


見えてんのー !? って、それどころじゃ、た、太陽?あ”ーー!!!さっき眩しいなって思って陰にしちゃった!はっ!太陽!


今僕の胸には太陽の貴公子ヘンリックさんに貰ったブローチがある。
クラバットを止めていたヘンリックさんの誕生石。それはヘリオライト、別名太陽の石サンストーン!その石が持つ意味は情熱、勇気、そしてリーダーシップ!わーすごい!ヘンリックさんにぴったり!って言ってる場合かっっ!

そのサンストーンにはヘンリックさんのスキル、〝陽光” が込められていて…

ガボッ!ぐ、もう、もうダメ、リミット…


ーしゅ、『種子創造』ー


現れた木々、かざしたブローチ、そこで起こった小さな爆発と大きな波紋。

ゴボゴボゴボ…ゴボッ!


密集した泡の中にうっすら兄さんの顔が見えた気がする…、が、残念ながら僕の記憶はそこま…










マァの村へと向かったアレクシたちは検討の結果、早馬に乗って陸路を行くことになった。「万が一翼竜に何か仕掛けられたら上空では一巻の終わり」とはノールの言だ。



「マァの村が封印の村であるかぎり、魔女は必ず見張っていると思う。どう思うアレクシ?」

「そうかも知れない。…実はあれから思い出したことがある。タピオ君からの手紙なんだが…」


出発前、アレクシがポツリと残していった小さな事実…


「幾度か開封されたように感じたことがあるんだ。その時はタピオ君が一度開封して再び閉じたとしか思わなかったのだが…」

「それはそれは…。ところでアレクシ、君はその手紙で彼の兄さんとどんなやりとりをしてたんだい?実に興味深い…」

「別に大したことは…。主にお互いの近況と、それから彼は実に弟思いの兄だ。アッシュ君のことをいつも気にかけていてね、事あるごとにアッシュはどうしている?と。」

「…それで?最近では何を書いた」

「夏前にはカレッジでの開校祭の事…、ユーリウス様とカレッジでの受講を楽しんでいる事、それから直近では…わけあって近くアッシュ君が王都に一人で行くことになりユーリウス様が沈んでいると…」

「…アレクシ、開校祭とはあの…」
「え、ええ。書き記しました。木材が倒れてきてあわや大惨事だったと…」

「何かを察して手紙を送って寄こしたのか…」


アッシュは決して家族に弱音は吐かないだろう。だからこそタピオ君はアレクシと手紙を交わしたのだ。
アレクシなら…と、そう看破して…。











アッシュ、アッシュしっかりしろ、アッシュ

ん、タピオ兄さんか…。う~ん、もう少し…。なんか悪夢が続いてたからここのとこ睡眠の質が悪くて…あとちょっと寝かせて…


「アッシュ!いい加減起きろ!ユーリウス様がキレても知らないぞ」

ガバッ!「ユーリ!」

「ようやく起きたか。相変わらず寝汚いな」
「はぁぁ?兄さんの方が寝起きは悪いって、そんな話は置いといて、ちょ、説明!説明を要求する!」


兄さんの説明ときたらガバガバで分かったような分からないような…


「なんで?簡単だろ?この村は特別な役目を持つ特別な村。だから時々特別な事がおきる。その一つがお前だし、その一つが賢者の泉だ。以上」

「い、以上って!じゃぁ兄さんが何でそれを知ってんの?みんな知ってる訳じゃないんでしょ?父さん母さんは?」

「父さんはあの通りのんびりだから。母さんは何も知らないけどお前が特別だってことだけは分ってる。」

「答えになってない!兄さんは⁉」

「兄さんは兄さん。お前のことをとても大切に思ってるお前のたった一人の兄さんだよ。俺はお前がアッシュとして生まれるその前からずっと兄さんだった弟想いの兄さんだ」


そ、そんなことで誤魔化されたりなんか…、あ…そっ…兄さんそんなに僕のことを?…そ、そっか…照れるなっ…


「へ、へー、で、でもいいの?あの泉そのままで。もしもアデリーナが秘密を知ったら…」

「アッシュ、あの泉はお前にしか渡れない。わかるだろ?あの水路はお前の路だ」


炭素も水素も酸素も弾き飛ばしてそこに残される有機物、それが灰。僕の泉…。賢者の泉…って、賢者!?


「兄さん!僕は賢者じゃ無いってば。」
「ばーか、お前を賢者なんて言ってないだろ。あの泉はその昔〝賢者の泉”って呼ばれてたんだ。ルチア様が両目を捧げたのもこの泉だしな。」

うっ!大昔のこととは言え想像するとグロい…


「もちろんお前は賢者でもなんでもない。俺の弟アッシュだ。けどな、お前の魂の一部には賢者が宿ってるんだよ」
「へっ?それどういう…」

「なんて言ったらいいか…、お前が生まれてくることになって賢者様は生まれなかった。お前が居なきゃ多分賢者様が顕現された。お前は賢者じゃ無い、けど賢者様はお前に刻まれている。分かるか?」


やっぱり兄さんの言うことは分るようで分からない。
けど僕は疑問だった例の件、プータローのパーティーを思い出す。

WEB小説の勇者は城を出て泉にきて、そこで賢者に出会い、賢者を最初の同行者として仲間探しの旅に出る。
なのにプータローは…

ああそうか。

僕が主役を奪っちゃったからプータローは単身エルフの国を目指したし、出会うはずだった賢者は…賢者は…

僕に上書きされた⁉

ん?いや、結合?それともアップグレード?そうか!カップリングか!バカか自分!あ、頭が混乱する…


「そう難しく考えんなって!それよりお前!いきなり大きなうねりが発生して爆発したみたいにドデカイ水柱が立ったけど何したんだ⁉」

「え?え?兄さんが燃やせって言うから〝陽光”のスキルが籠ったこのサンストーンをかざして…」

「それでか…。太陽の光が集まる真下に立って『種子』スキルを使うだけ良かったのに。それだけでお前の前に泉の道は開かれた…。ホントはその道を通ってお前を迎えに行くはずだったんだけどな。水柱の中央にお前が浮かんでるから肝が冷えたよ。」

「その…光が無くてね…」
「今日は晴天じゃなかったか?」
「よく知ってるね…」


やりすぎてうっかりビッグバンとか…。いや…もう…色々と…ああ…


「よしよし。反省したなら良い。さぁ、母さんが待ってる。お腹すいたろ。家で夕飯にしよう!」
「母さんのご飯!…ま、まぁいっか。こうして助かったんだし」

「ほらおぶされ」
「え?え、え…ま、まぁその…じ、じゃぁ失礼して…」


子供の頃に戻ったみたいだ…。




こうして僕は反省もそこそこに無事マァの村へと帰還を果たしたのだった…。





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