チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

文字の大きさ
149 / 277
連載

169 彼と水臭い彼

しおりを挟む
「司祭様。アッシュ様から蜂蜜酒を受け取るよう言い付かって参りました。」


やってきたのはリッターホルム公爵家の執事として、今では辣腕を振るう私の可愛い末の弟ヴェストである。
叙階を受け、ようやく司祭となった私を大司教はこのリッターホルム公爵領へと派遣なされた。ああ…、これも神の御心、信心ゆえの幸運であろうか。


「ヴェスト…、司祭様などと随分他人行儀じゃないか。いつものように兄さんと呼んでくれないかい?」

「いえ、教会内には養蜂に従事する修道女の方もいますので。」


おや、なんと立派な心配りだろうか。私の立場を慮っているのだね。優しい弟だ。


「そうかい?成長したんだねヴェスト、兄さんは嬉しいよ。ではどうだろう、少し掛けてお茶をしていかないかい?」

「少しだけなら。ゆっくりしてくるようにと時間を頂きましたので」


何の感情も乗せずそう言うが、断らないこと、それ自体が彼の感情を表している。他の誰に分からなくても私たち家族になら容易く分かる。これこそが絆だ。だがその絆はあのお屋敷で少しづつその向かう先を増やしている。兄としてそれがどれほど嬉しいか…。
その結ばれた先の一つがヴェストの口にしたアッシュ君だ。


「アッシュ様が不自由は無いかと気にしておいででしたがいかがでしょう」

「まったく問題は無いよ。ここの居住部分は私のために随分手を入れて下さったようだね、公爵様の温かい歓迎の意を強く感じるよ。なんと窓際には私の好きなヘリオトロープが飾ってあって…ね、…まさか…、ヴェスト、お前の指示かい?そうかい?そうなのかい?」


私の好きな青のヘリオトロープ。それを知るのは家族と限られた友人だけ…それはつまり…


「いえあれは」
「そうなんだね!ああ!とても嬉しいよ。そうか、お前も兄さんを歓迎してくれていたんだね。ふふふ、これを聞いたらヴィーゴがヤキモチを妬きそうだ。」

「…アッシュ様が居住の快適性を高めるようにと仰ったので…」
「だがヘリオトロープを飾れとは言われていないだろう?」

「それが居住性を高めるかと…」
「嬉しいよヴェスト」


私の自慢がまた一つ増えてしまった。



「あら。お屋敷の執事様よ。司祭様の弟様なんですって。」
「まぁ…なんてお綺麗な方。司祭様が自慢げにお話しされる訳ね」

「…あの話が始まると微笑ましいけど長いのよね…」
「本当にあれが無ければとても良い司祭様なのだけどね…」

「あら、あなた、その醸造中の蜂蜜酒はそこではないわ。そちらの天窓の下に置いてちょうだい。アッシュ様から指示を頂いているの。新月の晩は灯した蜜蝋で周りを囲んで月の灯りを浴びせるように、と。」

「変わった指示ね」

「そうねぇ。でもここはとても居心地が良いんですもの。それっぽっちの手間ですむなら軽いものだわ」












ユーリと僕の食後のひと時、それはこの時期大抵ガーベラの下がお決まりだ。良い風なんだよねぇ…、気持ちいい。
そしてそこで振舞われるのが、ユーリには蜂蜜酒、僕には蜂蜜をたっぷり入れたレモネード。

12家の呪いに対抗する血清。それはユーリの毒から作られる。だけど絵画をこの屋敷に運び入れた今、一応の小休止状態になっている。

そして呪いの基となった壁画は今、あの煉瓦の倉庫の中で徹底的に浄化を試みているところだ。
周りを水晶で囲みセージを敷き詰め、天窓の月の灯りもちょうど壁画に当たるよう鏡を使って調整した。
『運命を変えるパワーストーン』その浄化の項目に載ってたものではあるけれど…、恐らく気休めだということは分かっている。けど藁をも掴みたい気分だったのだ…。


浄化のアイテム、月の光。
蜂蜜酒は新月の光によって浄化の力を強化しパワーストーンは月の光によって溜め込んだ邪気を払う。
月…浄化…、ああ、やっぱり長の末子は、ユーリは浄化を司る月の美神…。ウットリ…


「じっと見てどうかした?何かついてるかい?」
「ううん、何もついてな、あ、すごく整った目と鼻と口がついてる」

「ふふ、それは良かった」


いや本当に…。


「そうそうユーリ、蜂蜜酒の追加分はヴェストさんに取りに行ってもらったよ」
「ヴェストに?」

「こうでもしないとなかなかスヴェンさんに会いに行かないから。せっかくお兄さんがリッターホルムの司祭様になったって言うのにね…、水臭いよ。」

「休みは適度に取るよう言ってあるのだが…」
「勤労意欲が高すぎるのも考え物だよね。でも兄弟は仲良くしないと」

「君とタピオ君のようにかい?」
「そうだよ。タピオ兄さんはちょっとスパルタだけどとっても頼りになるんだ。ユーリもなにか困ったら兄さんに言ったらいいよ。きっと力になってくれる」


マァの村にいるタピオ兄さんはタフでおおらかな僕自慢の兄さんだ。

木のぼりやロッククライミング、川での魚獲り(釣りではない)からウサギ狩りまで(可哀想だからやめようと泣いて懇願した)何でも教えてくれるし何でも仕留めてくれる、頼りがいのある兄さんだ。
母さんが渋るちょっとやんちゃな僕の行動もいつだって後押ししてくれた理解のある兄さん。僕はタピオ兄さんが大好きだ。


「ふふ、タピオ君は良い兄なんだね。少し妬けてしまうな」
「バカだなぁユーリは。僕の兄さんって事はユーリの兄さんでもあるんだよ?変なヤキモチ妬かないでね」

「それなら次の誕生日にはその兄さんを招待しようか?婚姻の式典の際はあまり水入らずで過ごせなかったのだろう?」
「僕の誕生日はダメだよ。農家の8月は忙しいから。ユーリの誕生日にしようよ。収穫後なら少しは時間が取れるかも。」

「そうか…、では冬の間に呼べばよかったね。」
「う~ん、冬はいつも王都に行くから無理かなって…」

「君こそ水臭いじゃないか。私たちは夫夫だろう?どんなわがままも私には言って欲しい。いいね」



王都に行く事になるのはまさにその僕のわがままのせいなんだけどね…。




しおりを挟む
感想 392

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。