チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

文字の大きさ
157 / 277
連載

177 静かな攻防

しおりを挟む
「奥様、アッシュ様から返事を貰って参りました。」

「そう、そこに置いてちょうだいな。それで?おかしな動きは無かったかしら?あの農家の子供はわたくしに強い敵意を持っているの。公爵家の権力をかさにきてわたくしに嫌がらせを仕掛けてこないとも限りませんもの」

「いえ、大丈夫だと思います。すぐ横にある門番の小屋でササっと書き上げて出てきましたんで。それからこう言ってました。招待を受ける。一人で行くと。この手紙はその日時だそうです」

「そう…、いいわ。ご苦労様。さぁ出て行って。今日はゆっくり休んでちょうだい…」

「へぇ…」




手ごたえの無い事…。
善性の人間とはいつでもあっさり陥落する。人の命に優劣をつけない。かの賢者はいつでも民のためにと自らを犠牲にする。本当に愚かなこと…

いや、賢者という存在は全てがそう言うものなのだろう。だからこそあの時、わたくしはあのドワーフたちに言ったのだ。
先ず狙うべきは付き添いの案内人。案内人の命を盾にすれば北の賢者は必ず言うことを聞くだろう、と。

我が里の賢者には特別な力がある。その力を以てしてドワーフを退けるつもりだろうが、あのドワーフたちは反転の呪具を持っていた。黒のドワーフだけが作り得る、全ての術を反転させる特別な呪具。そうして里の賢者は志半ばでドワーフの手に落ちたのだ。

気の毒な里の賢者…。でも里の姫でもあるこのわたくしの礎となるのだから光栄だと思ってちょうだい、…あの時は無邪気にもそんなことを考えていた。その後待ち受ける己の苦難など考えもしないで…




賢者の心臓…、そして太陽と月、それらを練成することによってソーサラーの石は生み出される、それは呪術の里の長い歴史のその中で語り継がれてきた一つの術式…
そのソーサラーの石は呪力など用いずとも全ての鉱物を金に変え不老不死をもたらすという…。
だが月と太陽を手に入れる術などありはしない。それは誰もが夢見た幻の秘術…。

不老不死、当然わたくしもそれを求めた…。わたくしだけではない。母である里の指導者でさえ、長きにわたり求め続けた。
人には解らないのだ、実際にその存在になってみなければ。それがどれほど愚かな望みでどれほど重い楔になるのか…




そんな時降りかかった南の地への婚礼話。長の言葉に異を唱える事など出来ようもない。我らの里に選択の自由などありはしないのだ。
だがこれは里を抜け自由を手にする良い機会ではないかと自分自身を納得させ里の賢者と共にやって来たのだ。

だがそこでわたくしは大きな二つの出会いを果たす。


一つは南の長の末子である。
彼は月夜に輝く銀髪と妙薬生成のスキルを持ち、皆から銀の至宝、月の美神と呼ばれ讃えられていた。

そしてもう一つはわたくしの愛しいあの人。
グレージュの髪で目元を覆い、その隙間からいつも恥ずかしそうにわたくしを見つめる色素の薄い灰色の奥ゆかしい瞳…。



高貴なる一族と呼ばれる南の血族。その一族の世話係としてあの人はそこにいた。
聞けば幼子の時分に両親を亡くし、以来一族のもとで暮らしてきたのだとか。特に長の末子には病弱な身体を何度も死の淵から助けられたのだと、あの人は末子を強く信奉していた。

そしてその彼によって見出された画の才能によって、彼は日中の多くの時間をただ静かに、座って肖像画を描くのに費やしていた。
だからこそわたくしたちは多くの時間を共にできたのだ。

微笑んでやれば嬉しそうに顔を赤らめ、そっけなくすれば悲しそうに目を伏せる…そんな可愛らしい子犬のようなあの人にわたくしはこの異国においてようやく初めて心を許した。

猜疑心の強い北とは異なる南の性質。南の民はどこか鷹揚でとても豪快で、そしてその行動力はこの地に慣れぬわたくしにはひどく傲慢にしか思えなかったのだ。


そんな中で湧き上がる一つの想い。
この可愛らしい人の手を取りここから逃げ出してしまいたい…。わたくしの幸せは彼と共にあるのではないか…


目の前には筆を動かすあの人と、その前で静かに微笑む末子が居る。
末子…銀の至宝、月の美神…

ふと頭をかすめるものがあった…。閃きと言おうか…


眩いばかりの金の髪を持つこのわたくしは里の民から黄金の女神と呼ばれていた。黄金…それはこの国において太陽の比喩ともいえる。
そして末子とこのわたくし、共に大きな力を秘めたる存在ではないか!


太陽…月…、そして…賢者の心臓…

わたくしはすぐに黒のドワーフへと渡りをつけた。呪具を扱う彼らと呪術を用いる北の里にはわずかとはいえ交流がある。里の指導者の娘であるわたくしは、そのわずかな手段を持ち得ていたのだ。

あの人と二人、不老の民となりこの国を出て暮らしてはどうだろうか。ソーサラーの石は鉱石を黄金に変える。ならば暮らしに困窮する事など無いだろう。死なぬ体なら山岳を超え他国に渡る事だって不可能ではない。
一度思いついてしまえばその考えは妙案に思えた。それしかないとまで思いつめたある日、ついにドワーフから返事が来たのだ。

骨と血、賢者の肉体を寄越すなら、その心臓はくれてやろう、と。




「いやだわ。すっかり思いを馳せてしまったわね…。そうそう、あの子供はいつ来ると言っているのかしら。時間稼ぎなどわたくしには通じなくてよ」


その紙に目を通したわたくしの手はワナワナと怒りに震えた…。いえ、怒りとも違うわね。これは…困惑…?
わたくしの予想を裏切る文言がそこには並べられていた…。




大公の命を盾に取るあたりほんとにいい性格してるよ、このク〇女!
ましてやユーリの毒だって?聖王を連れ出したのか?いいや、あれは蟄居と言っても監禁に近い。辺境のあの地から連れ出せてはいないだろ?

けどまぁ、適当な出任せをお前が脅しの材料にするとは思えない。毒を手にしたのは本当なんだろう。

いいよ、僕が邪魔なら好きにしろ。行ってあげるよ、一か月後にね。ユーリや家族、友人たちに財産を分け、余計なものは処分し、別れの挨拶をする時間くらいはもらおうかな。少なくとも18年生きてれば神様にだってしがらみがある。

そんなお願い聞いてやる義理は無いって言うんだろ?悪役の決まり台詞だ。大根役者め。

けど聞くさ。聞かざるを得ない。

何故なら…、お前の可愛い一人息子、アルパ君と愛しい…か、どうかは知らないけどマテアスは今南東の領地に居るはずだ。領地のお勉強をするためにね。その二人に命の危機が迫っているからだ。

その地では今から2週後にとても大きな地滑りが起きる。嘘だと思う?本当だよ。そしてその地滑りはね、領主邸の裏山から起きるんだ。風光明媚なんて言ってなんの対策もせず麓にお屋敷をたてるのが馬鹿なんだよ。

いい?これは予想でなく予言だよ。

すぐに駆け付けあの屋敷から避難させないと夫も息子も土石流に巻き込まれて一巻の終わりだ。
南の地では翼竜は飛ばせない。馬車だと急いでも10日はかかるよね。急いだほうが良い。未亡人になりたくなければね。

息子もマテアスもどうでもいいって?いいや、マテアスはともかくアルパ君は大切にしてきたはず、そうだろう?
それでもどうでもいい、情など無い、息子も夫も死ねばいいって言い切るならすぐに使いを寄越せばいい。
僕のあの世への共としてアルパ君には道中お前の悪行全部話しておいてあげるから。

3日後までに返事が無ければ受理されたと思っておく。


もう一度言っておく。これは予想でなく予言だ。急ぐことをお勧めする。

知の神ミーミルより




追伸 4ね!クソ〇バア‼






しおりを挟む
感想 392

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。