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155 彼と変わりゆく領内
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あれからアレクシさんは人間の転移を成功させるべく頑張っている。残念ながらあまり上手くいっているとは言えないのだが…。
今僕とノールさんはアレクシさんの特訓中だ。
ノールさんは隣の部屋に移動して、物質別転移の有無を確認している。だけど生き物になったとたんヘタレるのがなんとも…。
やっぱり生物の転移は無機質と難易度が違う。そこには命がある。
状態保存が人間に効かないように転移にしたって人間相手だと恐怖が先に立つらしい。気の小さいアレクシさんならなおさらだ。
「はい巻物」
紙成功ー!
「はい大皿」
陶器成功ー!
「はい甲冑」
鋼ー、これも成功ー!
「はいネズミ」
なにも来ないよー!
「知ってる、ここに残ってるから。ああ…、やっぱり生物になると上手くいかないなぁ。ノールさんもういいよー。戻ってきてー」
分かったよー!
合流したノールさんも含め、3人での反省会。アレクシさんは肩をすぼめて小さくなっている。
「面目ない…」
「で、でもアレクシすごいよ。あれだけ重たい甲冑だって成功するようになったし大皿だって傷一つなく無傷で転移できたじゃない。あともう少しだよ」
「甘い!甘いよノールさん!アレクシさんの気の小ささは新世紀に活躍した碇氏に匹敵する!アレクシさん、こんな事じゃヘタレ脱却できないよっ!」
あの土壇場で無機質どころか形すらない〝声”を送れたんだからポテンシャルはあるんだ、ポテンシャルは。
結局のところ何かあったらっていう恐怖が彼を竦ませる。…まぁ気持ちは理解できるけどね…。
どうせ一筋縄でいくとは思ってないんだ、不毛な繰り返しでは意味が無い。なら今度は距離との関係だ。距離…距離ねぇ…。屋敷の中じゃたかが知れてるし。
「山から屋敷に飛ばせたんだからそこそこ離れなきゃね。そうだ。荘園の見回りの時そこで見つけたいろんなもの僕とノールさんに送るようにしよう。まずは経験値を片っ端から上げるしかない。馬車の中からなら問題ないでしょ。重さや形状色々変えて、なんでもいいよ。午後の時間ならノールさんは大抵書斎に居るし僕はフォレストに居るから人目も気にしなくていい。」
「ああ分かったそうしよう。ふぅ…」
「アレクシ疲れた?ふふ、でも君ならきっと出来る!頑張って!」
いま絶賛成長期のアレクシさんは領内での評判がすこぶる良い。
侍従職の時からユーリの外周りの用事はアレクシさんが窓口だったし元々その人柄は折り紙付きだ。
誠実で温厚なアレクシさんは「家令さん家令さん」と領民から慕われている。慕われすぎて時々余計な揉め事まで引き受けてくるのが玉に瑕だ…。
「家令のお仕事は慣れてきた?ユーリは外の事アレクシさんが引き受けてくれて気が楽になったって言ってたよ」
「君から領地の采配、ノールから会計まわりを徹底的に仕込まれたからね。まあなんとかやれてるよ」
「アレクシ、後は経験が足りないものを補ってくれる。僕にもカレッジって言う新しい仕事が待ってる。僕たちは同じひよっ子だよ。一緒に精進しよう」
ノールさんの言うカレッジには予備学院時代のご学友が無事にやってくることになった。一人目ランナルさんは教師として、そしてもう一人、どこぞの三男だと言ってたマルクスさんは学生区域の管理官として。
学生区域には寮やちょっとした娯楽施設もあるからね。間違いや揉め事が起きないように管理体制は整えとかないと。
…なにしろ学生だからね、羽目を外したりとか、まぁこればかりは蓋を開けて見なきゃ分からない。
その娯楽施設と言えばケネスの目的ジップライン…。
「これがジップラインか!おおっ!壮観だな!」
大喜びでカレッジ近くのジップラインを楽しんだと思ったら…
「最高だな!紅葉が見事だったぞ!よし、もう一度だ!」
「マジか…、もう3回もやったじゃん…」
「何回やろうと構わんだろうが。そもそも一か所しか無いのが悪い。この山中にもっと多くのコースを作れば良かろう。はっ!ここには山ならいくらでもあるからな。ロマンチックな白樺の遊歩道でつないでいけば恋人同士が山ほど来るのではないか?」
なかなかいい考えだな…、ケネスのくせに。
ああ、あれか。リア充にはリア充にしか出来ない発想があるってわけか…。くっ!
…思わず僕もムキになっちゃってね…、屋敷の北山にあるあの長距離ジップラインに乗せたのは、さすがに中腹からとはいえ…意地悪だったかな…と思ってたら大興奮で戻ってきたうえお付きの騎士たちに、
「これはいい!一番上から滑り下りて着地と同時に一曲歌い切った者には報奨と1か月の休暇をやる!」
と宣言したのには驚いた。でもそれを聞いた騎士や従者がわんさかチャレンジしてその大半が撃沈したのにはノールさんと二人、無言で呆れあったのは言うまでも無い。
「意外な才能を発見しちゃったよ。王子はあれかな?刺激とか…、ストレス耐性が強いのかな?」
「今までの殿下を鑑みると、う~ん…、そうかもしれない…。やっぱり前王のストレスにさらされ続けたから…」
そのストレスの一端を誰かさんが担っているのは僕の心だけに秘めておこう…。
「アッシュ様、王都よりレッカラン博士が参りました。」
レッカラン博士は前王のもと、蟲毒の研究の為に数年間も監禁されていた気の毒な人だ。
彼と同じくその研究をさせられていた彼の同僚数人はもれなく全員がこのリッターホルムへとやって来た。
時間がかかったのは彼らも王都で悪しき研究の痕跡を残さず処理する必要があったし、そこにあった膨大な資料なんかも精査し分別し必要なものはここに運び入れてもらったりとかしていたからだ。
そしてリッターホルム側も通いの医者しか居なかった教会の中にある治療院を、カレッジの横に研究施設も完備した立派な病院へと建て替えた。
なぜならカレッジとも連携して色々出来るかと思ったからだ。発想としては大学病院?
ここでユーリの毒素をもっと研究して万能薬になり得る可能性を模索して欲しい。同じ研究でもその内容は180度違う、多くの人を病から救うために。
なんにせよここは自然も多すぎるほど多いことだし、監禁され擦り切れた心を十分癒してほしいな…。
こうして着々とリッターホルムは文明開化の足音を聞き、誰もが安心して未来を夢見る楽園都市になっていくのだ!
今僕とノールさんはアレクシさんの特訓中だ。
ノールさんは隣の部屋に移動して、物質別転移の有無を確認している。だけど生き物になったとたんヘタレるのがなんとも…。
やっぱり生物の転移は無機質と難易度が違う。そこには命がある。
状態保存が人間に効かないように転移にしたって人間相手だと恐怖が先に立つらしい。気の小さいアレクシさんならなおさらだ。
「はい巻物」
紙成功ー!
「はい大皿」
陶器成功ー!
「はい甲冑」
鋼ー、これも成功ー!
「はいネズミ」
なにも来ないよー!
「知ってる、ここに残ってるから。ああ…、やっぱり生物になると上手くいかないなぁ。ノールさんもういいよー。戻ってきてー」
分かったよー!
合流したノールさんも含め、3人での反省会。アレクシさんは肩をすぼめて小さくなっている。
「面目ない…」
「で、でもアレクシすごいよ。あれだけ重たい甲冑だって成功するようになったし大皿だって傷一つなく無傷で転移できたじゃない。あともう少しだよ」
「甘い!甘いよノールさん!アレクシさんの気の小ささは新世紀に活躍した碇氏に匹敵する!アレクシさん、こんな事じゃヘタレ脱却できないよっ!」
あの土壇場で無機質どころか形すらない〝声”を送れたんだからポテンシャルはあるんだ、ポテンシャルは。
結局のところ何かあったらっていう恐怖が彼を竦ませる。…まぁ気持ちは理解できるけどね…。
どうせ一筋縄でいくとは思ってないんだ、不毛な繰り返しでは意味が無い。なら今度は距離との関係だ。距離…距離ねぇ…。屋敷の中じゃたかが知れてるし。
「山から屋敷に飛ばせたんだからそこそこ離れなきゃね。そうだ。荘園の見回りの時そこで見つけたいろんなもの僕とノールさんに送るようにしよう。まずは経験値を片っ端から上げるしかない。馬車の中からなら問題ないでしょ。重さや形状色々変えて、なんでもいいよ。午後の時間ならノールさんは大抵書斎に居るし僕はフォレストに居るから人目も気にしなくていい。」
「ああ分かったそうしよう。ふぅ…」
「アレクシ疲れた?ふふ、でも君ならきっと出来る!頑張って!」
いま絶賛成長期のアレクシさんは領内での評判がすこぶる良い。
侍従職の時からユーリの外周りの用事はアレクシさんが窓口だったし元々その人柄は折り紙付きだ。
誠実で温厚なアレクシさんは「家令さん家令さん」と領民から慕われている。慕われすぎて時々余計な揉め事まで引き受けてくるのが玉に瑕だ…。
「家令のお仕事は慣れてきた?ユーリは外の事アレクシさんが引き受けてくれて気が楽になったって言ってたよ」
「君から領地の采配、ノールから会計まわりを徹底的に仕込まれたからね。まあなんとかやれてるよ」
「アレクシ、後は経験が足りないものを補ってくれる。僕にもカレッジって言う新しい仕事が待ってる。僕たちは同じひよっ子だよ。一緒に精進しよう」
ノールさんの言うカレッジには予備学院時代のご学友が無事にやってくることになった。一人目ランナルさんは教師として、そしてもう一人、どこぞの三男だと言ってたマルクスさんは学生区域の管理官として。
学生区域には寮やちょっとした娯楽施設もあるからね。間違いや揉め事が起きないように管理体制は整えとかないと。
…なにしろ学生だからね、羽目を外したりとか、まぁこればかりは蓋を開けて見なきゃ分からない。
その娯楽施設と言えばケネスの目的ジップライン…。
「これがジップラインか!おおっ!壮観だな!」
大喜びでカレッジ近くのジップラインを楽しんだと思ったら…
「最高だな!紅葉が見事だったぞ!よし、もう一度だ!」
「マジか…、もう3回もやったじゃん…」
「何回やろうと構わんだろうが。そもそも一か所しか無いのが悪い。この山中にもっと多くのコースを作れば良かろう。はっ!ここには山ならいくらでもあるからな。ロマンチックな白樺の遊歩道でつないでいけば恋人同士が山ほど来るのではないか?」
なかなかいい考えだな…、ケネスのくせに。
ああ、あれか。リア充にはリア充にしか出来ない発想があるってわけか…。くっ!
…思わず僕もムキになっちゃってね…、屋敷の北山にあるあの長距離ジップラインに乗せたのは、さすがに中腹からとはいえ…意地悪だったかな…と思ってたら大興奮で戻ってきたうえお付きの騎士たちに、
「これはいい!一番上から滑り下りて着地と同時に一曲歌い切った者には報奨と1か月の休暇をやる!」
と宣言したのには驚いた。でもそれを聞いた騎士や従者がわんさかチャレンジしてその大半が撃沈したのにはノールさんと二人、無言で呆れあったのは言うまでも無い。
「意外な才能を発見しちゃったよ。王子はあれかな?刺激とか…、ストレス耐性が強いのかな?」
「今までの殿下を鑑みると、う~ん…、そうかもしれない…。やっぱり前王のストレスにさらされ続けたから…」
そのストレスの一端を誰かさんが担っているのは僕の心だけに秘めておこう…。
「アッシュ様、王都よりレッカラン博士が参りました。」
レッカラン博士は前王のもと、蟲毒の研究の為に数年間も監禁されていた気の毒な人だ。
彼と同じくその研究をさせられていた彼の同僚数人はもれなく全員がこのリッターホルムへとやって来た。
時間がかかったのは彼らも王都で悪しき研究の痕跡を残さず処理する必要があったし、そこにあった膨大な資料なんかも精査し分別し必要なものはここに運び入れてもらったりとかしていたからだ。
そしてリッターホルム側も通いの医者しか居なかった教会の中にある治療院を、カレッジの横に研究施設も完備した立派な病院へと建て替えた。
なぜならカレッジとも連携して色々出来るかと思ったからだ。発想としては大学病院?
ここでユーリの毒素をもっと研究して万能薬になり得る可能性を模索して欲しい。同じ研究でもその内容は180度違う、多くの人を病から救うために。
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