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141 彼の大切な味方

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長い長い話し合いを終え、ようやく解散になったのは日付がとっくに変わった後。ああ眠い…、さっさと暖かい布団に入って寝ようと思ったのに…。
ヴェストさんとアレクシさんに石板を任せ、ユーリと部屋に戻ろうとした僕を呼び止めたのはちっとも疲れて見えないエスター。まぁ本好きに夜更かしはデフォルトだよね。


「やあお二人さん、私室に戻る前にちょっといいかな?割符の残り、その部分のことなんだけどね」

「そうだよ。何も言わなかったからどうなんだろうって思ってたんだけど?」

「大部分は神官の記録と変わらない、見る目線の違いだけさ。特に呪術師のかけた呪いの詳細なんかはね。だが二人にだけ言っておくべきことがある」

「二人にだけ…?」
「アレクシの居ないところで、と言う意味だ」


アレクシさんの居ないところで…?つまり転移のスキルに関するってことか…


「まず一つ、あの寓話、あれは呪術師側の立場から書かれたものだ。いや違う、後半そう変化していった」
「うん、うん?」


「その文体に変化が見えたあたり、そこに記述があったのさ。争いが始まり呪術師の娘、彼女はいったん拘束された。どうかと思うが戦時下では仕方ない。その彼女を自由にして逃亡の手助けした者が居た。寓話は彼が書き残したんだと思われるね」

「えっ⁉」

「それは高貴なる一族の身の回りを世話していた者の一人で、彼は長に言われて末子の肖像画を描いていた男のようだ。」

「絵描き…、また符合した…」

「これは記述にはないが、恐らくは彼が転移のスキルの持ち主だ」
「ここまできたらそう…だろうね。」

「転移のスキルを持つ男、末子の世話係、その男は娘の協力者だ。だからこそ末子の末裔、リッターホルム公爵家には転移スキルの保持者が鍵になると伝わったんだろう」

「協力者…恩人…そうか恋仲、いや、立場的には慕い合う程度か…」


慕い合う仲…。

その男は末子の側で肖像画を描いていた。娘は長の息子と婚姻を結ぶために南の地へとやって来た。長子が北へ行った以上、婚姻相手は末子に決まりだ。つまりその男と娘は末子を挟んで近しい場所に居た…。末子との婚姻は政治的なもの。そこに愛があったかは…こうなると甚だ疑問だ。つまり…

絵描きと娘に恋心が芽生えていても…おかしくはない。


「ノールには伝えてある。だがアレクシに伝えるかどうかの判断は任せるよ。知らなくていい事だと僕は思うがね。じゃあおやすみ。良い夜を」



「魔女の協力者…、アッシュ、私はアレクシには知らせたくないと思う。心優しいあの男はきっと気に病むだろう…」

「アレクシさんは一切何も関係無いのにね。でも気にする。僕もそう思うよ。世の中には知るべきこと、知ってはいけない事、知らなくていいことがある。これは知らなくていいことだ。」

「ではこれは二人の秘密だ。…ねえアッシュ、今夜はもう一つ秘密を持ってみないかい?」

「…碌な秘密じゃない気がする。今夜は遅いからまた今度!」
「今度っていつ?王都での約束もまだじゃないか」


覚えてたのかユーリ…。
夜会に行かせてもらう代わりに今度男の夢を叶えてあげると言ったこと…
どうしよう…、ユーリの様子的に萌え袖くらいじゃ納得しそうにない…。これは最終奥義、童〇を殺すセーターの出番か?いや、あれはむしろ、僕のメンタルが死ぬ…。

仕方ない…、腹をくくるか。べ、別にイヤな訳じゃないし…シャイな僕にはこう、いろいろと耐えられないだけで…。


「らいしゅ、…そんな目で見ないでよ、もうしょうがないなぁ。じゃぁ明日…は忙しいから明後日。」
「分かった。明後日だね。楽しみだ」


こんな時間まで散々頭つかったのに…、元気だなユーリ…。すっかり健康的な公爵様で何よりだよ…。







そんな訳で、翌日朝食を済ませると今日もまたこうして荘園の見回りに来ているのだ。カレッジの建造に必要な材木や石材の割り出しとか農地整理の効率的な進め方とか考えるために。

魔女の件は魔女の件だ。それとは別に日々は間違いなく過ぎていく。ぼんやりしてる暇なんか一秒だってないんだからね!


「いい、アレクシさん。下準備をどれだけするかで収穫高はめちゃくちゃ変わるんだ。覚えておいてね。農具や肥料もケチっちゃダメだよ。先行投資は必要経費だ!」

「ああ。分かった」

「それから農奴達の家や公共の建物も定期的にメンテしてね。元気に働いてもらうには快適な暮らしを保証しなくちゃ。福利厚生はどうしようか…、労働力は何より一番大切だからね!」

「もちろんだ。」

「山を拓くのに…もう少し人材が欲しいな。期間工でもいっか。アレクシさん、どこでどうやって募集かけるか調べておいて。集めるのは身元の確かな人だけね。なりふり構わないって言いたいとこだけど…、うちはマーキングされてるからね。おかしな魔女に」

「アレクシ、僕も手伝うから頑張ろう!これからはお父上の後を継いで立派な家令目指していくんだから。ね?」
「ノール…、そうだな。力を貸してもらえると助かる…。」


アレクシさんとユーリが抱えてた小さなわだかまり。それは昨晩ついに解消された。
アレクシさんはこれから家令への道を目指す。大恩ある養父、家令のアンダースさんの後を継いで。
ノールさんとも話しながらカレッジの建材目録を確認していくアレクシさん。それを目にするユーリも何だか嬉しそうだ。

「ねぇユーリ。さっき農夫たちがユーリの事見てたよ。笑ってたの気付いてた?」
「笑って?…何かおかしかっただろうか…」
「違うよ!ユーリがカッコいいからだよ」


領民感情の改善も…、着々と進んでいるようだ。
ここは平和だ…。今までの事が嘘みたいに。発展途上な分どの領地よりも和かで平和だ。だからこそ守らなくては!
僕は決意も新たにそう思った。ユーリの手をぎゅっと握りしめながら…




ちなみに農夫たちの笑顔の意味…、それが僕とユーリの…、人目をはばからぬキスが噂になってるせいだと聞かされたのはそれから暫らく後のことだった…





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