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第三夜

ホストのターン

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「つ、次は......僕の番、だよね」

 そう言った美坂さんのやや中性的な感じのする綺麗な顔は少し青ざめている。俺と薬師丸さんが疑われる流れになったからか、さっきより少し落ち着いたみたいだが、まだ十分にその顔色の悪さは伺うことが出来た。どうもこの人は人に疑われることとか、或いは疑うこととかが苦手らしい。

 「僕は...」

 彼の目線は煌びやかなシャンデリアを往復している。

 「……や、やっぱ、疑わない...とか、なし……かな」

 「ナシだな」

 緊張なのか、震えている伺うような声色に、競羽さんが即答した。……こう言っちゃなんだが、今更この人はそんなこと言ってるのか?でもこの発言が楽観的な性格故のものだとは思えない。だってこの人の顔色は、楽観的なんて言葉とは真逆だ。

 「そ、そうだよね.....」

 そう呟くと、美坂さんは自分に向けられた全員の目線に怖気付いて目を逸らした。この人、昨日まではもっと堂々としてなかったか?こんなに優柔不断な人だったかな......。

 「僕は......そうだね。山田君の考察には同意するよ。その上でだけど、僕の視点からは多分......山田君か薬師丸さんしか疑う対処はいない......んだよね?」

 そう。俺の考察を軸に考えると、彼の視点からは俺か薬師丸さんを含まない2人の狼のパターンが一つもない。俺や薬師丸さん視点だと唯一自分たちを含まない、「美坂さんと雪話さん」ってパターンが有り得るが、美坂さんの視点からは当然有り得ない。それどころか、「俺と薬師丸さんがどっちも人狼」ってパターンさえ有り得てしまう。だから俺の考察に同意したということは、完全に俺か薬師丸さんか以外の選択肢は無くなったということになるんだ。

 「あっていますよ」

 俺は彼の目を見て静かに発言した。...できるだけ目に力を込めて。彼は一瞬怯んだようだったが、深く息をついて話し始めた。

 「僕は......薬師丸さんを疑う...かな」

 昨日までは自信に満ち溢れたような話し方だった彼の声は語尾に向かう度小さくなっていった。

 「どうしてかね」

 彼の左隣から低い声が鳴った。美坂さんはここから見えるほど汗をかいていた。

 なんだかこの人のこの過敏な感じは、緊張しいとか疑うことが苦手とか、そういう範疇を超えている気がする。何かもっと......例えばトラウマに起因するような? このゲームと関係があるのかは分からないけど、何かがこの人にはある。

 「……特に明確な理由は、無いんだ」

 薬師丸さんの視線から目を背けるように彼は小さく言った。

「理由なく、私を疑うのかね?」

 薬師丸さんの低い声は少しご気が荒くなっている。美坂さんはそのまま黙っていた。

 「またお得意の感情論か。そんなもので、命運を決められてしまう身にもなってほしいものだ」

 美坂さんは尚も目を合わせないで俯いた。

 「そ、そうだよ。僕のは......特に理由なんてない、感情論だ。正直、僕には君達二人の差なんて分からないし、もっと言えばどっちも人狼だとは思えないくらいなんだ。」

 「開き直るのかね?分かっているのか、君のその一票は、十分私を破滅させられる力を持っているのだぞ」

 薬師丸さんの声は焦りと怒りで低く震えている。美坂さんは下を向いたまま、光沢のある金髪の下で苦しそうな表情をした。

 「ああ、分かっているさ!分かっているとも......!」

 彼の綺麗な顔が葛藤に歪む。彼は口を噛み締めたまま何秒か目を閉じたあと、顔を上げて薬師丸さんを真っ直ぐ見据えた。
 
 「でも、このゲームはとどのつまり誰を信じるか、そうなんだろう?」

 彼は絞り出すようにそう言った。彼の方に向き直った薬師丸さんがその時どういう顔をしていたのかは分からない。ただ、沈黙がホールに流れた。

 「貴方のことも彼のことも、僕はよく知らないよ。ただ、僕は彼が友人を失いながらも的確な考察をし、戦っている姿勢を信じたく……なったんだ」

 美坂さんは言葉の粒を一つ一つ置くように小さく、ゆっくり言った。

 彼は、思った以上に感受性の高い人だ。この論理と説得力だけがものを言うゲームの中で、彼の特性は致命的だと言ってもいいだろう。だが、俺はこのゲームで麻痺しつつあった「疑う」怖さを彼のお陰で少し取り戻せたかのように思えた。

 それに、このゲーム的に考察すると、彼のような性格の人は結構信じられやすい。論理抜きで感情で動く人ってのは、「なんか白っぽい」んだ。

 ......彼は俺を信じてくれたようだが、俺は彼を信じることはまだ出来ない。そう心の中で呟きながら、もう残りわずかになった砂時計を見ていた。
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