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第三夜
小説家のターン
しおりを挟む「私は才商さんを」
雪話さんの細めた流し目が才商さんを捉える。才商さんは麗しき知恵者に小さく息を飲んだ。
「……ナルホドね。何故かな」
「正直申しあげますと、今朝の時点では決めかねていました。しかし先程の才商さんの考察で決めましたよ。あれは筋が通っているように見えますが、穴がありました」
穴……?俺が狼という推理は外れてるが、狼のラインという切り口のは結構良かったように思えたんだけど……
「そりゃ、ボクもカンペキじゃないからね。推理に穴くらいあるかもしれない」
才商さんはメガネをかけ直して談笑中かのように言葉尻に笑いをのせた。だが強気な態度とは裏腹に、少し汗をかいているみたいだ。
「いいえ、推理の欠陥による偶発的にできた穴ではありません。明らかに“故意に”できた穴ですよ」
故意に……?どういうことだ
「先程のあなたの主張はこうだ。『美坂さんは特に理由もなく山田はじめさんを庇ったから、二人が狼である可能性が高い』。合っていますか?」
「……まぁ、そうだね。だって理由なく庇うなんてアヤシイだろ?」
才商さんは慎重に言葉を選んでそう言った。
「逆ですよ。あの場面においては、“理由があって”庇った方が怪しい、と思うのが正解だ」
「……どういうコトかな。それ、ジブンを疑えって言ってる?」
「はい。私は残念ながら狼ではないので、その推理は外れてしまいますねぇ。しかし事実は別として、あなたの言う“ライン”を考察の軸にして考えを進めてみると山田はじめさんの狼の相方候補筆頭は美坂さんでは無く、私という結論が出ないとおかしいんですよ」
「……どういうコト?さっきも言ったけど、キミはちゃんとした理由があったし、説得力もあった。それを不当な庇いだとは思わなかったからキミを外したんだけど?」
「違いますね。説得力があったからこそ、私の山田さんのラインを疑わなければならないのですよ。」
「……」
才商さんは何かを言おうとして口をつぐんでしまった。……何か心あたりがあるのかと勘ぐってしまう。
「昨日の美坂さんの“庇い”を思い出してください。どれも感情論で、とても大多数に疑われている人物の疑いを晴らすような説得力はありませんでした。それに彼はそこまで拘りも無く、薬師丸さんの反論に食い下がりもしなかった。論理の部分では勝負しようとすらしなかったんですよ」
雪話さんの発言に皆耳を傾けている。競羽さんまで肘をついて聞き入っていた。
「これが本当に今にも処刑されそうな“狼の相方”にする擁護でしょうかねぇ」
……確かにそうだな。美坂さんは言い方悪いが、競羽さんと同じような“雑”な庇いだった。彼の職業柄、場を円滑に進めるように訓練されているから入れた庇いだったのかもしれない。そのくらいの軽い庇い方。仮に俺と美坂さんが狼だったら、『そんな雑な庇い方するくらいなら触れるな』って言いたくなるくらいの感情論だった。
「“山田はじめさんが大多数に疑われていた”あの場面では、説得力の無い擁護などはっきり言って本当に意味が無かった。結果どうです?美坂さんの“庇い”で誰か意見を変えましたか?」
「……ナルホドね。気づかなかったな」
才商さんがそう言って腕を組む。雪話さんはそれを無視して続けた。
「あの場面での美坂さんの“庇い”は狼の相方の擁護としては弱すぎました。相方だったら触れない方がましな程だったでしょう。狼の相方なら、私くらい説得力のある庇いをしなければ意味が無いんです。」
……確かに美坂さんの“庇い”は立場を表明するほど強いものだったとは思えないな。彼はコミュニケーションの中で集中砲火を浴びている俺を一旦擁護しただけで、結局のところ彼は何の主張もしていなかったというのが妥当だろう。
「なのにあなたは山田さんの相方として私を挙げなかった。一応庇う姿勢を見せた美坂さんを疑うのは良い。でも、そこで名前まで出した私を全く挙げなかったのは不自然でした。というよりも作為を感じましたねぇ」
「や、待ってよ。サクイって物騒だなぁ……。ボクはただ、失念してただけで」
「私にはどうも狼の相方らしい位置が『感情論の弱い庇いをした人物>論拠のある強い庇いをした人物』という結論に至る思考回路が分からないのです。まああなたの頭が残念なだけだったというオチもありますが。」
「……い、言いたかないけど、ボクの頭が残念ってオチだよ」
才商さんは口角をひくつかせながら言った。普段この人にこんな口の利き方をする人なんて周りにいないんだろうな……。
「……貴方はどういう理由で自身の名前が挙げられなかったと思うのか聞いても?」
静観していた薬師丸さんが問うた。
「ええ。自分で言うのもなんですが、私は容疑者5人の中では最も“権力者”のようですからねぇ。才商さんは私に角が立つことを恐れたのでしょう。」
「な、ボクは……!!」
“権力者”か。言い得て妙だな。彼は間違いなく容疑者5人の中で最も発言を信用され、議論の流れを変えうる人物だ。彼に目をつけられたくないという心理は誰にもに働いているはず。
「そして自分の論理より媚びを売ることを優先するのは狼ですよ。何せ彼らは推理する必要など無いのですから」
才商さんは相変わらず営業スマイルを浮かべているのに、顔は真っ赤になって口角をピクピクさせていた。それを見て隣の拳坂君がおちょくっている。火に油とはこのことだな。
「私の主張はそんなところですね」
雪話さんはそう言って一瞬俺の方を見やった。
……さて、次はいよいよ俺の番か。
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