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第二夜

結論は出された

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「刑治さん、ではあなたが言うように仮にあれが何分か前の映像で、たった数分間で人狼の姿を完全に消せる凄い技術が使われていたとしましょう。」

 俺は刑治さんにゆっくりと問うた。刑治さんは軽いパニックに陥っているようで、まだ気づいていないようだ。 

「だとするならば、運営が簡単にカットできる“人狼の正体が分かってしまう発言“を消さなかった訳がない!」

「っ……!」

 刑治さんはやっと気づく。……自分で自分の首を絞めたことに。

「あなたは球太が名指しした俺が自分だと言った。……逆ですよ。球太が名指しした俺は人狼ではありえない」

 俺は言い切った。今度こそ、自信を持って。

「……美味しいところを取られてしまいましたねぇ。」

 雪話さんは右隣から流し目でこちらを見てきた。

「あ、ついでに言ってはおきますが、山田はじめさんが狼ではありえないとはまだ断定できませんよ。あの映像の狼は1匹でしたが、狼は2匹いますから。この論理は対面した1匹に限った話だとお忘れなきよう」  

「……そうだな。それに運営は映像では“狼と断定できる情報を流さない”のなら、“狼でないと断定できる情報も流さない”可能性が高い。」

 海画さんはそう言って腕を組んだ。

  俺は狼ではないが……まあ他の人の目線からみれば確定ではないことは確かだ。それに確定市民になってしまったら確実に今日襲われる確率も高まるだろうから、俺は反論しなかった。

「ナルホドね。あらぬ疑いをかけて申し訳なかったね、山田クン」

 才商さんは疑ってきた時と変わらぬ営業スマイルでそう言った。笑顔なのにメガネの奥がなんか怖い。

「えー、なんだ、私も君を疑って申し訳なかったよ。」

 薬師丸さんは才商さんと違ってしっかりバツが悪そうにこちらを見た。……喋り方はちょっと偉そうだが、そんなに悪い人ではないのかもしれない。

「いや、これはそういうゲームだ。大丈夫ですよ。でも……」

 俺は砂時計を見やった。あと少しで落ちきってしまう。

「もうほとんど時間が無い。」

 ……その後の言葉は言わなかった。座り込んで顔を青くした御廻刑治……その人が目に入ったからだ。

「……私が告発すると言いました。私が責任を持ちます。」

 雪話さんは冷淡にそう言った。

 ……責任。それはほとんど処刑宣言に近い言葉。だが誰も反対する者はいなかった。

「……ぁ……あ……」

 もうほぼ落ちきった砂時計を見て、御廻刑治は震える息を吐いた。もう誰も、目を合わせようとはしない。

「……御廻刑治、貴方を告発したのは、貴方が山田さんを糾弾したからではない。その線でいくなら、他の賛同者も同じようなものですから」

  ……確かに最初に言い出したのは御廻刑治だが、それに同意した者は……大まかに3人、薬師丸涼葉、才商優、競羽当だ。

 この3人は御廻刑治が言い出さなくても俺を疑った可能性がある。その点においては御廻刑治とそれほど違いはない。

 だがこの3人の審議をするには時間が足りないし、何より3人は自分達に票が集まらないよう、ほぼ確定票で御廻刑治に票を入れるだろう。だから俺のことで時間を使い切ってしまった時点で御廻刑治の処刑はほぼ……決まってしまった。

 それに彼にはその三人と違って、疑うべきところがあった。

「貴方は消極的な人だった。昨日は状況を飲み込めずパニックに陥っている所さえ見受けられました。しかし今日は打って変わってやけに積極的に、冷静に、山田はじめさんに疑いを向けた。なにより……」

 そうだ。彼は明らかに、何かに怯え、焦っている。別に今日俺を処刑させれなければ酷い目にあう……そんな焦りを抱いているようだった。

 それがこのゲームに巻き込まれた恐怖によりパニックになったとなら言えたかもしれないが……

 それを主張するには如何せん彼は積極的に議論に参加しすぎた。それに、最初は冷静に論理を組み立てて話をしていた。その言い訳は今更通用しないだろう。

「ち、違う!自分は……おれは、……っ、やだ、いやだ、ちがう、ちがう!!」

 御廻刑治はテーブルに頭を抱えて悲痛の声を上げている。……きっと、きっと彼は人狼だ。そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ……

「……貴方は、明らかに様子がおかしい」

 雪話さんは最後まで言葉を紡いだが、震える御廻刑治に耐えられなくなったのか小さく「すみません」と呟いた。

『時間です。』
 
 俯いた顔を上げると、砂時計は落ちきっていた。
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