20 / 45
第二夜
逆転
しおりを挟む「な、」
刑治さんは一瞬固まった後、立ち上がったが、そのまま黙り込んでしまった。振り上げた拳の落とし所を無くしてしまったようだ。
「いいですか皆さん、大体こんな簡単な言いがかりに時間を取りすぎですよ。初日でこれでは、狼を見つけるどころか時間切れで投票もできないのではないですか」
「な、じ、自分の発言が言いがかりだと言うのですか!」
刑治さんは心外だというように雪話さんを睨んだ。
「ええ。完全な言いがかりです。それに載せられてしまう皆さんもどうかと思いますがねぇ。まぁ、皆さんの頭が残念だったおかげで、疑うべき人物の大体の目星がつきましたが」
雪話さんは刑治さんを微塵も見やることなく、全員に問いかける。
「あのビデオで狼の姿が見えなかったのはなぜだと思いますか?」
……ああ、そういうことか。俺は唯一の完璧な回答にここでやっと気づいた。
……焦って弁解しようとするあまり、気づかなかった。……雪話さんはやはり冷静で、論理的な人だな。
「そりゃあ、映像で犯人が分かったらゲームになんねぇからだろ」
拳坂君は背もたれにもたれかったまま足をテーブルに乗せてが答える。行儀が悪いな。
「正解です。意外とあなたにも脳みそが入ってるじゃあありませんか」
「るせぇわ、……そういうのいいから、早く続けろよ」
拳坂君はちらりと砂時計を見やって言った。残り半分あと3分の1とちょっと。……行儀は悪い癖にやっぱり言っていることはマトモなんだよなぁ、拳坂君。
「では、犠牲者の言葉で犯人が分かってしまう……これもまた、映像で犯人が分かってしまい対話ゲームにならないから有り得ない、とは考えつかなかったのですか?」
そうだ。
映像に映さない=正体をバラさない=名前が分かる発言はさせない
こんなに簡単なことなのに気づかなかった。最初からこれを言えていればこんなに時間を使わなくて済んだ。それに雪話さんに言われなければ俺は負けていた可能性も高かった。
……雪話さんには大きな借りを作ってしまったな。
「だ、だけど、砂浜さんの発言は運営や狼には予想外の事だったかもしれないじゃないですか!いくら誘拐犯でも強制的な言論統制なんてできる訳がない!それとも、そんなオカルトチックな能力があると、判断するんですか?!」
刑治さんが堪らず反論する。だが、これは俺にも分かる。この反論の論理は簡単に……
「オカルトチック?何を言っているんです。もう現に我々は見たじゃあないですか。最初人狼は映像に映らなかった。影すら映らなかったんです。」
そうだ。見ている最中は球太の……球太の苦悶の表情しか目に入らなかったが、人狼は明らかに何らかの技術……はたまた超自然的な何かで映像には映らなかったんだ。
「それが姿を現すと、次はただの影にしか見えなかった。LIVEでそんな修正が出来る技術などありません。したがってどれも人狼の正体を不明にするための……信じたくはありませんが、超常現象、或いはそれに類似したものだ」
雪話さんは淡々と話す。
「これがオカルトチックと言われるならそれまでですが、我々は実際に目撃した。強制的に人狼、はたまた運営が指定した言葉を発言できなくする力があっても全く不思議ではありません」
皆、その発言を黙って聞いている。ただ1人、御廻刑治を除いて。
「ら、LIVEじゃ、無かったのかもしれないじゃないですか!5分前か、はたまた10分前か、それは知りませんが、LIVEだと言ったのはあの誘拐犯です。それを馬鹿正直に信じることなど出来ない!そ、そうだ……あれは、何分か前の映像で、人狼の姿を明かさないよう修正を……」
……勝った。焦った御廻さんの言葉を聞いて、俺は息を吐いた。彼は……自分の論理が破綻したことに気づいてはいないようだ。
そしてこの一手で……今度はあなたが処刑第一候補ですよ、御廻刑治さん。
0
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる