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第一夜

小説家の詰問

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「待ってください。」

 静寂に戻ろうとした時、横で控えていた雪話さんが声を放った。

「今夜、役職を割り当てられるということは、“人狼”役の人間は無作為に役を与えられるということですよねぇ。ということは、今現時点では皆ごく普通の人間。それが銃口を突きつけられている状況だとはいえ、今日趣味の腐りきったあなたがたに役職を与えられただけでレイプ犯に変貌すると?そんなことは信じられない。」

 一息で言い切った雪話さんは尚も表情を変えない。その綺麗な横顔には知性の光が見えた。

「それは皆さん自身が1番良く分かっているはずです。今夜、レイプ魔になれと命令されたとしましょう。それで『ではやりましょう』となりますか?それとも先程仰っていましたが、ルールに従わねば殺すのですか?暴力で従わせる頭脳戦とは、それはあまり芸術的ではありませんねぇ。結局、貴方がたのやっている事は間接的ではありますが、ただのデスゲームではありませんか」

 雪話さんは一切口ごもることなく涼やかな声で言い切った。その言葉には皆同感したらしく、ことある事に突っかかっていた赤髪の彼も黙って聞いていた。

『確かに今この時点ではルールを遵守しない方には暴力を行使せざる負えないと申し上げました。しかしそれは今日限りの事です。ふふ、芸術的ではないのはワタクシ共も嫌いなのです。その意味は明日に分かることになるとお伝えしておきましょう。特に、人狼になった方には嫌でも』

  再び沈黙が流れる。

 ……今の言葉は要約するとこういうことか。今現時点では皆、役職が無いただの人間だからルールに従おうとはしない。その為ルールを破った者には暴力というペナルティをチラつかせる必要があった。しかし役職が割り当てられた瞬間、明日からは“積極的に”あるいは“自発的に”ルールを守ることになる。特に、人狼の役職の人は。

 俺は思わず呟いていた。

「……人狼は思想を与えられるのか……?」

「……?どういうことだ?はじめ」

 球太が小首を傾げて聞いてくる。

「いや、.......ただの独り言。それよりお前はどう思うんだ?この誘拐犯の言ってること」

「んー、ま、信用はできねーけど、ルールさえ守れば殺される心配はないってコトだよな。」

「ああ。そうなんだよな。ゲームルールはぼかして伝えてくるくせに、誘拐犯はこれだけ明確に殺戮は無い、暴力によるゲームの進行は好ましくないと言っている。つまり、これはデスゲームじゃあない。つうか芸術的だとかそうじゃないとか言ってる時点でこれはショーである可能性が高いんじゃないかな。まあ見世物っつうことだよな。依然目的は分からないけどね」

「なるほどねェ。ハ、誘拐犯はレイプ物のAVでも作る気なのか?つくづく趣味が悪ィ奴らだねェ」

「おい、冗談になってねーぞ」

「わかってらァ。こんな状況、無理にだって冗談でも言わねェとやってらんねーって。」

 球太は笑ったが、その表状は少し自嘲気味に見えた。

「なァ、はじめ」

 球太は少しこっちを見て、目を逸らした。……球太が口ごもるなんてめずらしい。どうしたんだろう。

「これ、俺らのどっちかが人狼になっちまうってことも有り得るんだよなァ。いや、なっちまったとしても俺は抗うけどさ。」

「俺だって絶対抗うよ。」 

 球太は怖がっているようだった。自分が被害者になる事ではなく、加害者になることを恐れている。……こいつは昔からそういう奴だった。 

「ハ、まだ俺はそんなこと有り得ねぇって思ってるけど、万が一、万が一そんな悪魔になっちまうようなゲームだったとしたら……俺ァ人狼にはなりたくねェなぁ。」

「……普通ヤられたくない、じゃないの?」

「まあどうせやられるんならお前が良いけどな!おれは!」

球太は笑いながら言う。 

「はは、お前となんか俺はお断りだ。死んでも抗うね」

「ひっでぇ!長ぇ付き合いだろ?」

「だってお前が友達じゃ無くなったら俺まじで友達ゼロじゃん」

 俺も笑う。……こいつとなら、絶対大丈夫だ。俺はふざけた雰囲気と根拠の無い自信に恐怖心を隠した。

「友達じゃなくてソウルメイトだつって!」

「じゃあ俺は友達は元からゼロってことね。」

「ァーハァ、はじめ、幼稚園の頃は友達100人できるかなとか言ってたのに可哀想になァ」

「だから初めて会ったの高校生だろって」

 球太の笑いの交じった声。俺ら以外は知り合いもいないらしい。重苦しい沈黙に球太の空笑いが響く。俺は気まづさに苦笑いしていたが、数秒後にはその沈黙さえ終わってしまった。

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