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Episode 04

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「女将さん、お久しぶりです」
「あら!ココルちゃん!」

ココルはネジキリ村を出ると、真っ先に女将のいる宿屋へと足を運んだ。

「ネジキリ村には無事に着けたの?」
「はい、おかげさまで」
「それは良かったわ。それで、息子は元気にしていたかしら?」
「・・・女将さん、落ち着いて聞いてもらってもいいですか」

ココルは女将に全てを話した。
ルシが病気で亡くなっていたこと。
村人たちからルシ宛ての手紙を預かったこと。
ルシが村人たちから愛されていたこと。
ルシが村人たちの大きな支えになっていたこと。
ネジキリ村で見たものや聞いたことの全てを女将に話した。

「ルシさんは村の人たちから本当に愛されていました。村の人たちは皆、ルシさんの事が大好きでした。ルシさん宛ての手紙は、この先もずっと僕が責任をもって大切に記憶しておきます」

村人たちからルシに宛てた手紙を読めば、ルシがいかに愛されていたかが分かるはずだ。
ルシがネジキリ村の人たちをどれだけ好きだったかが伝わるはずだ。
でも、送り先の相手以外に手紙の内容を伝えることは規則で禁止されている。
それが亡くなった息子の母親であっても、規則は絶対だった。

「ありがとうね、ココルちゃん。わざわざ伝えに来てくれたのね」

女将は笑顔で言った。
目は真っ赤で、今にも泣き出しそうな表情だったけれど、必死に笑顔を作っていた。
それは、ココルを気遣ってのことだった。
何日も歩き続けて息子のことを伝えに来てくれたのに、自分が泣いてしまったらココルがいらぬ責任を感じてしまうかもしれない。後ろめたさを感じてしまうかもしれない。
本当は今すぐにでも泣きたいはずなのに、彼女は決して涙を見せなかった。
女将のその優しさが。ココルには余計に辛かった。

「・・・女将さん、すいませんがちょっとだけ独り言を呟きます。本当にただの独り言なので、どうか気にしないでください」

そう言うと、ココルはゆっくりと目を閉じた。



『ルシお兄ちゃんへ
いつも一緒に遊んでくれてありがとう。
お母さんに怒られたとき、一緒に謝ってくれてありがとう。
お父さんが熱を出した時、代りに畑を手伝ってくれてありがとう。
次はいつ会えるの?
次はいつ遊べる?
待ってるからね。また一緒に遊ぼうね!』



『ルシさんへ
いつも息子と遊んでくれてありがとうございます。
息子は本当にルシさんのことが大好きで、いつもルシさんの話ばかりしています。
息子だけじゃありません。
私も、私の妻も、ルシさんには本当に助けてもらいました。
ルシさんからは色んなものをいただいたのに、何もお返しできなくてすいません。
またいつか、息子と遊んでやってください。
・・・あの、さっきの「ルシさんからは色んなものをいただいたのに」っていう部分なんですけど、色んなものっていうのは食べ物とかだけじゃなくて、思いやりとか優しさとかそういう気持ち的なものも含めての色んなものなんですけど、「色んなもの」だけで伝わりますかね?
あと、「私も、私の妻も、ルシさんには本当に助けてもらいました」のところなんですけど、
「私たち家族は、ルシさんに何度も何度も助けていただきました」に変更できますか? 
それからですね・・・』



『ルシくんへ
ルシくんがいなくなって、みんな寂しがってるよ。
そっちでは元気でやっているのかしら?
私も歳だからすぐそっちに行くことになると思うけど、その時はまた一緒にお散歩でもしましょうね』



『ルシへ
おうルシ!元気か!?
俺もすぐそっちに行くことになると思うからよ、そん時はまた俺に付き合ってくれよ。
そっちじゃ朝から晩まで酒呑んででも、誰も怒る奴なんていねぇだろ?
お前と呑む酒は一段と美味いからな。
俺の席もちゃんと取っておいてくれよ』



『ルシへ
何やってんだよ。
なにアマリアちゃん悲しませてんだよ。
今度会った時にぜってぇ殴るから。
お前がいなくなったら、俺は妻の愚痴を誰にこぼせばいいんだよ?
お前がいなくなったら、俺は誰と馬鹿話すりゃいいんだよ?
早すぎるだろ、馬鹿野郎が』



『ルシくんへ
ルシくん、お元気ですか?
昔、私と妹と三人で料理を作った時のこと覚えてる?
アマリアちゃんが誕生日だから、サプライズで何か作ってあげたいって。
でも、ルシくん絶望的に料理下手だったよね。
ルシくんには申し訳ないけど、あれは笑っちゃったな。
だって、全部の料理がちょっとだけ焦げてるんだもん。
どう料理したらサラダが焦げるのよ。
レタスちぎって、その上にトマトを置くだけだよ?
でも、アマリアちゃんはルシくんのそういうところも大好きなんだと思う。
アマリアちゃんのことは任せて。
何があっても、アマリアちゃんのことは村の人たちみんなで守るから』



『ルシさんへ
ルシさんには本当にお世話になり、感謝してもしきれません。
学の無い僕に読み書きを教えてくれたり、作物の育て方を一から教えてくれたり。
今は父の畑の一部を借りて、トウモロコシを作っています。
いつかルシさんにも、僕の作ったトウモロコシを食べてもらいたいです』



『ルシくんへ
娘と一緒になってくれてありがとう。
何も無いこの村に住む娘の生活に彩を与えてくれてありがとう。
ルシくんが来てから、娘は人が変わったように生き生きとした表情をするようになりました。
娘だけじゃありません。
ルシくんが来てから、この村には笑顔が増えました。
ルシくんと出会ってから、毎日が楽しくなりました。
こんな世界でも、生きていることが素晴らしいと思えるようになりました。
常に私達のことを気にかけて、毎日私達に会いに来てくれてありがとう。
ルシくん、あなたは私達の大切な息子です』



ルシ宛ての手紙は50通近くあった。
ココルは頭の中にあるルシ宛ての手紙を、一つ一つ丁寧に読み上げた。
そんなココルの独り言を、女将はボロボロと涙をこぼしながら黙って聞いていた。



「ありがとうね、ココルちゃん」
「何がですか?僕はただ独り言を呟いていただけなので」
「そうだったわね。それじゃあ、これは私の独り言ってことで」

女将はココルの手をギュッと握ると、「ありがとう、運び屋さん」と言った。

「そうだ、女将さん宛に大切な手紙を預かっていたことをすっかり忘れていました」
「私宛の手紙?」
「そうです、女将さん宛の手紙です。今お伝えしても良いですか?」



『初めまして、アマリアと申します。この度はご連絡が遅くなり大変申し訳ございません。本来であればすぐにでもご連絡すべきところを、こんなに時間がかかってしまい本当に申し訳ありませんでした。
私はネジキリ村でルシさんと結婚し、ルシさんと一緒に暮らしていました。
3年というあまりにも短過ぎる時間でしたが、ルシさんからはこの手紙では書ききれないくらい多くの大切なものをいただきました。
ですので、いつかお母さんに会いに行っても良いでしょうか?
ルシさんと過ごしたかけがえのない日々がどれほど素晴らしいものだったかを、お母さんに聞いていただきたいです。
小さい頃のルシさんや、私の知らないお母さんだけが知っているルシさんの話を聞きたいです。
いつか必ず、ご挨拶に伺います。
いつか必ず、お母さんに会いに行きます。
・・・勝手にお母さんと呼んですいません。でも、お母さんと呼んでいいでしょうか?
私のお母さんになってくれますか?
お母さんと会える日を楽しみにしています』



アマリアからの手紙を聞いた女将は、「アマリアさんはきっと素敵な方なんでしょうね。あぁ、早く娘に会いたいなぁ」と笑顔でココルに言った。



「ココルちゃん、今日はもう遅いし泊まっていきなさいよ!」
「良いんですか?」
「もちろんよ!夕ご飯も食べるでしょ?すぐ作るからちょっとだけ待っててちょうだいね、ココルちゃんには特別に息子の大好物をご馳走してあげるわ」

ココルが居間で料理が出来上がるのを待っていると、たまご焼きの甘くていい匂いが漂ってきた。
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