No.57【ショートショート】瞬間移動装置とエフ氏

鉄生 裕

文字の大きさ
上 下
1 / 1

瞬間移動装置とエフ氏

しおりを挟む
人類が長年夢見てきた『瞬間移動装置』が開発されたのは、2136年の事だった。
科学者たちは装置の完成を大いに喜び、連日にわたって『物体』を使用した実験を行った。
そして瞬間移動装置の安全性が確認されると、科学者たちはいよいよ『人体』を使用した最後の実験を行うことに決めた。
被験者はこの装置の開発に尽力した科学者の一人であるエフ氏だった。
瞬間移動には2つの扉のような機械が必要であり、どれだけ離れた場所に居ても一方の扉から入ると、もう一方の扉から出てくるという仕組みになっている。

そこでエフ氏と数人の科学者たちは、一つの扉を持って研究所のある東京から北海道へと飛行機で飛んだ。
「無事に北海道に到着しました。それではこれより、北海道~東京間による人体の瞬間移動の実験を始めます」
北海道に到着したエフ氏から東京の研究所にそう電話があった。
「それでは実験開始まで、3・2・1」
電話越しにエフ氏がそう言うと、次の瞬間、北海道にいたはずのエフ氏が東京の研究所にあるもう一方の扉から出てきた。
「やったぞ!成功だ!!」
科学者たちは実験の成功を大いに喜んだ。
そしてすぐにエフ氏の身体検査がその場で行われたが、エフ氏の身体には異常は見られなかった。
「これでようやく、この瞬間移動装置が完璧な装置であると証明された!」
研究所の科学者たちは皆、口を揃えて言った。

その時、研究所に一本の電話がかかってきた。
「もしもし、皆さんすいません。実験は失敗です。なぜだか分からないのですが、扉を通った瞬間にこちらに戻ってきてしまうんです。何度も試してみたのですが、なぜだか東京にあるもう一方の扉から出ることが出来ず、入ったはずのこちらにある扉から出てきてしまうんです」
それは紛れもなくエフ氏の声だった。
「すいませんが、飛行機で一度東京に戻ります。原因を解明してから、もう一度検証してみましょう」
そう言って電話は切れてしまった。
東京の科学者たちはお互いに目を合わせながら、混乱している脳内を必死に整理しようとした。
今の電話は間違いなくエフ氏からだった。
電話の内容からするに、今回の実験は失敗でエフ氏は今も北海道にいることになる。

・・・それじゃあ、今ここにいる彼は一体誰なんだ?
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

No.73【ショートショート】個性を与えられた機械たち

鉄生 裕
SF
2065年、アンドロイドは人々の生活にとって必要不可欠なものとなっていた。 そこで人間はアンドロイド達に、『個性』を与えることにした。

No.16【ショートショート】ねがいごと

鉄生 裕
SF
願い事のために翻弄する人々の希望と末路のお話。

死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。

タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。

空虚な時計塔 -Broken Echo Tides-

るてん
SF
SF小説です。タイムリープというありきたりな設定を踏襲しつつちょっと変わった感じを目指してます。 設定が荒っぽい部分もあるので、そのあたりはご了承下さい・・・ 二部編成を予定していますが、分量はあまり長くしないつもりです。 あらすじ(仮 核戦争後の荒廃した2100年代。絶滅の危機に瀕した人類は、北極圏の小さな生存圏で細々と生き延びていた。人類最後の天才科学者と呼ばれた男は、不完全なシンギュラリティと評した科学の限界を超え、滅亡を回避する方法を探る。しかし、その道はあまりにも無謀で危険な賭けだった――。

刑務所地球

ドルドレオン
SF
小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ニューラルネットワークアドベンチャー

そら
SF
本作は、時代の流れに抗いながらも新たな未来を切り拓こうとする、人と技術の融合の物語です。静かな片田舎に佇む小さな工場では、かつて大企業のエンジニアとして活躍した工場主・ユージが、伝統的な手仕事に誇りを持つ熟練の職人たちと共に、長年守り続けた製法を背景に、急激に進化する技術の波に立ち向かいます。 絶え間ない試行錯誤の中、最新の3Dプリンター導入により、古き伝統と革新的技術が激しく衝突。若き研究者ミナと、経験豊かな外国人従業員ウェイの尽力で、数多くの困難や失敗を乗り越えながら、部品の精度向上と生産ラインの再生が進められていきます。さらに、現場の情熱は、従来の枠を超えた自律支援ロボット「スパーキー」の誕生へと結実し、職人たちの絆と努力が新たな希望を生み出します。 また、一方では、アイドルでありアーティストでもあるリカが、生成AIを用いた革新的なアート作品で自らの表現の限界に挑戦。SNSでの批判と孤独に苦しみながらも、ユージたちの工場で出会った仲間との絆が、彼女に再び立ち上がる勇気を与え、伝統と最先端が交差する新たなアートの世界へと導きます。 伝統と革新、手仕事と最新技術、人間の情熱とデジタルの力が交錯するこの物語は、絶望の中にあっても希望を見出し、未来を共に切り拓く力の可能性を描いています。全く新しい価値を創造するための挑戦と、その先に待つ光を、どうぞお楽しみください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...