No.83【短編連載】ヤニ吸う時だけ優しい先輩

鉄生 裕

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志摩悟志

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”まずは自己紹介をお願いします”

志摩悟志です。この会社にはもう長いこと勤めています。



”他の方から色々とお話は伺いました。もちろん矢田さんのことも”

そうですか。矢田は・・・、本当に良い後輩でした。



”吉野さんについてお聞きしてもいいですか?”

とても優秀な後輩ですよ。
彼が四課に来てくれて本当に助かっています。



”吉野さんを第四課に異動させて欲しいと言ったのは志摩さんだと伺いました。どうして吉野さんを自分のいる部署に異動させたかったのですか?”
 
吉野は真面目で器用なので、入社してしばらくすると一人でいくつかのクライアントを任されていました。加えて彼は何事も断れない性格なので、どんどん仕事を任されるようになっていました。
土日も会社に出勤して一人で業務をこなしている彼を見て、このままじゃ良くないと思ったんです。このままでは彼が潰れてしまうと。自分でも不思議なのですが、少しでも彼の力になりたいと思ってしまったんです。
それだけじゃありません。彼は第四課に来る前から、喫煙所で会うといつも笑顔で、「おはようございます」とか「お疲れ様です」と挨拶をしてくれたんです。こんな僕なんかに。
それに彼は覚えていないでしょうが、ずっと前に彼が僕の腕時計を見て、「その腕時計、格好良いですね」と言ったんです。実はこの時計、僕の誕生日に矢田がプレゼントでくれたものなんですよ。 
その時のことが凄く嬉しくて、思えばあの時から吉野と一緒に仕事がしたいと思っていたんだと思います。



”吉野さんが、志摩さんは煙草を吸う時だけは人が変わったように優しいと仰っていましたが”

そうですね。
矢田の件があった際、色々と考えたんです。いつも矢田には優しく接していたつもりだったので、だからこそ私が矢田を怒ってしまった際に、彼は余計に傷付いてしまったのではないかと。最初からもっと厳しければ、矢田もあんなに落ち込むことは無かったんじゃないかって。
後になって彼が自殺ではなく事故だと分かったのですが、いつの間にか誰に対しても厳しくなってしまって。
だからこそ、一緒に煙草を吸う時だけは本当の自分を出さなきゃって思うようになったんです。
それが良いことなのか悪いことなのかは分かりませんし、たぶん良くない事だというのは自分でも薄々感じてはいます。
そのせいで吉野が私から離れたいと思ったら、その時はその時だと思っています。
でも、それまでは、出来る限り吉野のフォローをしたいと考えています。



”吉野さんの事を信頼しているんですね”

そうですね。
彼は私の大切な後輩ですから。

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