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しおりを挟む背を流されたことで、睦紀は心地よい感覚から解放される。身体と頭を洗うと、二人で向かい合わせで湯船に浸かった。琥珀色の甘い入浴剤の香りに包まれ、睦紀の全身から力が抜けていく。
「睦紀はお母さん似だね。息子は母親に似るっていうけど、本当みたいだ」
濡れた髪を後ろに撫で付け、俊政が言う。
「よく言われます」
「お母さんも美人だったけど、睦紀もその血を引いているようだ。お父さんも堅実そうな男らしい顔をしていたから、好いとこ取りかもしれないね」
容姿を褒められ、睦紀は居たたまれなくなる。篠山家の華やかな容姿に比べれば、自分など比較の対象にもならない。
「そんなことないです。俊政さんの方が格好良くて、素敵です」
「もうおじさんだからね。睦紀ぐらいなもんだよ、そんなことを言ってくれるのは」
「みんなそう思っていて言わないだけですよ」
「睦紀は口が上手いな。何が欲しいんだ」
そう言って、俊政は睦紀の頬を抓る。温かい指先の感触。加減された甘い痛みに、心がほっこりした。
「本当のことを言っただけですから」
伏し目がちに言うと、その手が頬を撫でて離れていく。
「睦紀は本当に可愛いな」
しみじみとした口調で俊政が呟く。
「そんなことは――」
「可愛いと思ったから、可愛いと言ったんだよ。それとも睦紀は、私が嘘を言っていると思っているのかい?」
そう言われてしまうと、睦紀は二の句が告げなくなってしまう。
返す言葉が見つからない睦紀に、俊政は「虐めすぎたね。すまない」と言って、睦紀の肩に手を置く。
「そろそろ、上がろう。のぼせてしまう」
そう言われて睦紀は促されるまま、湯船から出る。
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