119 / 121
119
しおりを挟む「大丈夫ですか? やっぱり嫌だって言われたんですか?」
鳴河が水瀬の隣に腰掛け、自分の方へと引き寄せる。高い温度と石鹸の香りに、水瀬の心臓がはやる。
「違うよ。久賀さんは僕のわがままを受け入れてくれただけで」
水瀬は否定を口にする。久賀が悪く言われるのが心外で、水瀬は続ける。
「本当はこんなこと、いけないって分かってるのに……自分の意思を曲げて、僕に付き合ってくれて――」
そこで鳴河が、水瀬の口を唇で塞ぐ。呆気に取られている水瀬に、鳴河が告げる。
「理玖さんは、もっとわがまま言ったって良いんです。というより、言って欲しいんですけど」
「そうだな。水瀬は他人を優先しすぎている節がある。だから、もっと望みを言って欲しいんだ。何も求められないのも、恋人として不甲斐なく感じる」
二人からそんなことを告げられ、水瀬は戸惑う。確かに何かにつけて他人を優先にしてきた節がある。お人好しだと言われ、二度もトラウマを抱える恋愛をしてきていた。でも、二人は自分を受け入れ、わがままを言って欲しいとまで言っている。
「今まで辛い思いをしてきたんです。だから、その分、二人いっきに愛されるのも悪くないんじゃないんですか?」
鳴河の言葉に胸が締め付けられ、熱いものが込み上げる。
「本当に……良いの? 信じても」
言葉を詰まらせながら、水瀬は問う。
「もちろんです。何年、理玖さんを好きだったと思ってるんですか? それにここまでしたのは、理玖さんだけですから」
鳴河の言葉に水瀬は掌の拳を強くにぎる。そうしないと再び、涙が出てしまいそうだったからだ。
「俺は水瀬と付き合ったことで、自分がいかに言葉不足かを実感したんだ。俺がきちんと伝えていれば、水瀬が傷つくことはなかった。きっと、今までの恋愛が上手くいかなかったのはそのせいだろう。だからこれからは、不安に思わせないように何でも言葉にしようと思ってる」
久賀の手が水瀬の手首を掴む。その力強さはまるで、自分が望んでいた温かい拘束であることに気付く。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる