愛に縛られ、愛に溺れる

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｢俺は理玖さんがヨリを戻すために引かなきゃいけないと思って、こうして呼び出したんです。でもそうじゃなくて、理玖さんが自分を責めて身を引こうとしてるなら話は違います｣

　指で拭い取った涙を鳴河が唇に運び、舌で舐め取る。その表情はどこかうっとりしていて、水瀬は唖然とした。
　何度も鳴河の執念を垣間見てきたつもりだったが、そこまでするのはさすがに驚きだった。それでも自分をそこまでも執着してくれる姿は、何度も捨てられ裏切られてきた水瀬には、魅力的に映ってしまう。

｢理玖さんが過去じゃなくて今、俺のことを好きだって知った以上、引く気ははないですから。この人が理玖さんを手放すなら、俺には好都合なぐらいです｣

　鳴河の視線がすぐ横にいる久賀に向けられる。

｢君は……何を勝手な｣

　久賀がうわずった声を出す。

｢でも、理玖さんの気持ちには応えられないんじゃないんですか。常識を逸脱する行為だからって。理玖さんを好きって気持ちより、貴方は倫理感を優先しそうですから｣

　挑発的な口調に久賀の鋭利な目元が、鋭さを増す。水瀬は慌てて二人の間に入る。

｢鳴河やめて。久賀さんが幻滅するのは当然のことだから」
｢理玖さん。俺なら全てを受け入れられるんです。だから、俺の事もちゃんと受け入れてくれませんか？｣

　鳴河の手が水瀬の後頭部を支え、片方の手は逃がすまいと手首を捉える。
　この好機を逃すまいとして、鳴河の目は訴えかけるように真っ直ぐに見つめていた。
　その強さに逃れられず、水瀬は返事に窮する。困惑しているうちに、鳴河の顔が近づき唇を奪われる。
　最初から貪るように唇を嬲られ、水瀬は目を閉じて身体を強ばらせた。
　久賀に見られている。目を閉じていても視線を肌で感じ、羞恥と焦りの中にじわじわと危うい火が灯ってしまう。

｢っ……はぁ、だめ……｣

　身体を離そうとして肩を押すも、片手だけでは心許ない。