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「大丈夫か?」
「なんで……久賀さんが? どうして……」
「話は聞いた。水瀬は脅されていただけなんだろ?」

 固く結ばれていた紐を解くなり、久賀が水瀬を抱きしめる。

「あのとき引き留めなくて、悪かった」
「……久賀さん」

 心底悔しげな声の久賀に、水瀬は困惑する。

「水瀬がそんなことするはずがないのは分かっていた。だけど、混乱していて……ちゃんと話をしていれば」

 久賀が懺悔するような姿に、水瀬は慌てて首を横に振る。

「違うんです、久賀さん。僕は――」
「理玖さん。今度こそ、幸せになってください」

 水瀬が驚いて視線を向けると、荷物を手に持った鳴河が目に入る。今にも立ち去ろうとする鳴河に、水瀬は溢れ出す感情を抑えきれずに叫ぶ。

「鳴河っ! 待って」

 すぐ傍で久賀が息を呑み、背を向けていた鳴河が驚いた顔で振り返る。

「悪いのは鳴河じゃない。僕なんです」

 困惑している久賀に、水瀬は訥々と過去にあったことを口にする。

「僕は最低なんです。きちんと別れも告げないまま、逃げ出して――鳴河を傷つけたんです」
「だからといって、脅すのは――」
「確かにやり方は卑怯だと思います。でも、そこまでさせてしまったのは、僕にも責任があります」

 きちんとあのとき、自分の気持ちを伝えていればこんな事にはならなかったはずだ。

「水瀬は悪くない。過去の事を蒸し返し、脅す方が間違っているんだ」

 食い下がる久賀に、水瀬は「それに――」と続ける。

「脅されていたとはいっても、いくらでも関係を断ち切ろうと思えば出来たはずです。久賀さんに本当の事を話すなり、警察に訴えることだって……でも僕はしなかった。僕はまだ……彼を好きだったんです」

 久賀が信じられないと言った顔で、水瀬から手を離す。鳴河も唖然として目を見開いていた。
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