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「どうして知っているんだ?」
「柏原が……言ってたんです。久賀さんが、そのビルから女性と出てくる所を見たって」

 久賀の顔が強ばり、「まさか……勘違いしてないよな?」と水瀬に問う。
 全ての予想が打ち砕かれ、加えて自分が久賀を信じていなかった罪悪感に水瀬は項垂れた。黙り込む水瀬に久賀が椅子から立ち上がると、水瀬の椅子の横で跪く。

「水瀬、どうして話を聞いた時に、直接問いただしてくれなかったんだ? 
黙っていた俺も悪かったが、聞いてくれれば本当のことを話していた」

 久賀の言い分はもっともだった。初めから本人に確認していれば、こんなに思い悩むこともない。だがそれは、自分に後ろめたいことがないから聞けるのだ。

「それとも、俺が黙っていたことを怒っていたのか? それなら申し訳なかった」

 殊勝な表情で頭を下げる久賀に、水瀬は奥歯を噛みしめる。
 自分の為に苦手を克服しようとしてくれた久賀を信用しなかったどころか、別れようとすら勝手に思っていたのだ。さらには鳴河と不貞を働き、果ては甘えようという感情さえ湧いていた事も否めなかった。
 自分もかつて付き合っていた男達同じ立ち位置であることに、水瀬は気付く。久賀も自分と付き合う前は恋人との関係が上手くいかず、思い悩んでいた。トラウマのようなこともあったとも言っていた。二人でそれを乗り越えていくはずだったのに、自分は久賀を裏切っている。

「……久賀さん」

 水瀬は微かに震える声で呼びかける。久賀が顔を上げ、水瀬と視線が絡む。真っ直ぐと見つめてくる目は、自分の過ちを水瀬が許してくれるのかという不安と期待が滲んでいた。

「裏切っているのは、僕の方なんです」

 疑問を顔に貼り付けている久賀に、水瀬は「浮気してるんです」と続ける。

「久賀さんが……そこまでしてくれてたのに、僕は他の男に抱かれてたんです。最低なんです……僕は」

 久賀は唖然としているようで、口をうっすらと開いている。水瀬は涙を堪え、椅子から降りると正座する。
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