愛に縛られ、愛に溺れる

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　リビングに足を踏み入れると更に香りが強くなる。そこでテーブルに置かれたワイングラスや食器類を見て、水瀬は立ち尽くす。

｢座って待っててくれ｣

　持ってきたプレゼントを渡す間もなく、久賀は早々にキッチンに行ってしまう。まさかと思っていると、久賀がキッチンで鍋を火に掛け始める。
　久賀が料理をしている事に衝撃を受け、水瀬は言葉を失う。料理はしないと言って、調理道具も水瀬が使うまでは手がつけられていなかったはずだ。

｢不慣れながらも作ってみたんだ。上手く出来ているか分からないが｣

　自信なさげな久賀は振り返ることなく、手を動かしている。

｢……手伝いましょうか？｣

　水瀬はやっとのことで言葉を発して、久賀の隣に立つ。

｢俺にやらせて欲しい。水瀬は座っていてくれ｣

　にべもなくそう言われ、水瀬は素直に引き下がる。何が起きているのか、内心混乱していた。何故急に、久賀が料理を始めたのか分からなかった。
　呆然として座っていると、目の前に料理が運ばれて来る。仕事の時の様な真剣な表情をした久賀は、どこか緊張しているようにも思えた。
　ビーフシチューとサラダ、焼きたてのパンが揃うと、ようやく久賀が目の前に腰を下ろす。ワインのコルクを外すと、水瀬のグラスに注いでいく。

｢ビーフシチューは嫌いだったか？」

　水瀬の反応が鈍いと思ったのか、久賀が問う。

｢いえ……好きですよ｣
｢そうか……やっと作れるようになったのが、これぐらいだったんだ｣

　久賀は少しだけ安堵の表情を浮かべ、自分のグラスにもワインを注ぐ。
　グラスを掲げたことで、水瀬も慌ててグラスの柄を持つ。軽く触れあわせてから、互いに口にする。芳醇なワインの味が舌に広がった。

｢不慣れだと時間がかかるな。間に合って良かった｣

　軽く息を吐き、久賀がグラスを置く。