愛に縛られ、愛に溺れる

98

　こんな感情をずっと抱え続けて、付き合っていかなければならないのかと思うと、耐えられそうもなかった。自分にはやっぱり本気の恋愛は似合わないと、水瀬は自嘲する。
　ふと俺の所へ来ればいいという鳴河の言葉を思い出す。だが、それも久賀と同じ、いつかは変わってしまう宣告にしか過ぎないだろう。

――もう終わりにしたい

　明後日には全てにカタをつけると決め、水瀬はそのままベッドに倒れ込む。
　流れる涙をそのままに、水瀬は熱を帯びた目を無理矢理閉ざした。




　クリスマスイブの日は寒さが厳しく、水瀬はマフラーに顔を埋めて駅に向かっていた。
　土曜日の夜ということもあり、駅前はカップルや家族連れの賑わいが目立つ。至る所に飾られているイルミネーションの眩しい光に、水瀬は痛む目を擦った。
　寝てしまえば久賀との別れが来てしまう。そんな風に思ってしまい、結局は寝付けずにいた。
　電車に乗り、久賀の家のある最寄り駅に向かう。一駅、一駅と近づく度に、まるで心臓が切り裂かれるような痛みが水瀬を蝕んでいた。
　駅に着き、水瀬が改札を抜けると周囲を見渡す長身の姿が目にとまる。
　まさか久賀が迎えに来ているとは思わず、水瀬は驚いて足早に近づく。

｢家で待っていてくれても良かったんですよ｣
｢こっちに用があったんだ｣

　久賀はそう言って、水瀬から視線を逸らす。どこか落ち着かない様子に、婚約者を送ったからなのだと、水瀬は一人で合点する。
　久賀と共にマンションに向かう最中、水瀬は何を話していいか分からず、終始無言のままだった。元々、久賀あまり喋らないこともあり、いつも以上に空気が重たく感じられる。
　十分ほどで久賀のマンショに着き、久賀のエスコートで部屋へと足を踏み入れる。途端に、水瀬は首を傾げた。いつもはしない、料理の匂いがしていた。