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しおりを挟む「だったら、俺は何もしませんから。でも、理玖さん。これだけは覚えておいてください」
手を強く握り、鳴河は低いトーンで続ける。
「俺は理玖さんを裏切る奴を絶対に許さないんで」
翌日。出勤した水瀬が部署に足を踏み入れるなり、柏原が一番に駆け寄ってくる。その顔は大げさなぐらいに青ざめ、不安を滲ませていた。
「大丈夫ですか?」
「うん。ごめん。心配掛けて」
目の前で体調を崩されたのだから、驚くのも無理はない。水瀬は顔に笑みを作り、柏原を宥める。
「ほら、始業時間になるから」
柏原の背を押して、自席に向かう。周囲からの気遣う声に返事をしながら、水瀬は久賀の気配を伺った。久賀の視線を感じ、顔が引きつりそうになるのを押さえ込む。
自席に座り、パソコンの電源を入れる。最初にメールチェックをし、今日のスケジュールをデスクに置かれた卓上カレンダーで確認していく。
そこで今週の土曜日がクリスマスイブだということに気付き、水瀬は思わずあっと声を上げた。
「どうしたんですか?」
柏原が驚いて、水瀬の方を見る。
水瀬は何でもないと返しながら、まだ久賀のプレゼントを用意していなかった事を思い出す。町並みがクリスマスムードになっていたが、そういった商戦は早め早めに行うため、すっかり忘れていたのだ。
本当だったらネクタイをあげようと考えていた。だが、残る物で良いのだろうかという躊躇する気持ちが生まれてしまう。そういうのは婚約者から貰うだろうし、結婚してからもそれをつけて会社に来られ出もしたら――と、勝手な妄想をし、水瀬は吐き気が込み上げるのを感じた。
「水瀬さん、そろそろ会議が始まりますよ」
柏原に声をかけられ、水瀬は慌てて手帳を持って立ち上がる。
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