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「今度は俺が助けてあげたいんです。俺の生き方を変えてくれた理玖さんを――」

 鳴河に肩を掴まれ、視線が真っ正面からぶつかる。込み上げる感情を抑えたくて、水瀬は奥歯を噛む。

「何があったか、教えてください。それとも、直接本人に聞きに行きましょうか?」
「それは駄目だよ!」

 慌てて鳴河の腕を掴む水瀬に、鳴河は苦笑する。

「やっぱりあの男の人の事なんですね」

 掴んでいた腕を力なく放し、水瀬は諦めたように息を吐く。

「久賀さんに……婚約者がいるって噂があって」

 鳴河が目を見開く。水瀬は今日聞いた柏原からの話を鳴河に伝える。淡々と口を動かしながらも、自分の言葉一つ一つに心臓を切られていくような痛みを感じていた。

「久賀さんが、二股をかけるような人じゃないって……分かってる。それなのに、信じてあげられない自分に嫌気が差す」
「自分を責めるのは間違ってますよ。不安に思うのは誰だって、同じですから。それに嫉妬は好きだという証拠なんですよ」

 悄然とする水瀬に鳴河は「俺だって、嫉妬しまくりですから」と続ける。

「それにもし、あの男が本当に婚約者がいたとしたら、俺の所に来れば良いんです。俺はいくらでも慰めますし、あわよくば弱っている隙につけ込んで、理玖さんの心を掴むぐらいの気持ちはありますから。もし、俺を好きになってくれなくても、理玖さんが本当に好きな人が出来るまででも良いんです。ずっと傍にいます。だから、もっと気軽に構えてください」
「……鳴河」

 泣き出しそうになるのをぐっと飲み込む。鳴河の気持ちが嬉しいと思うも、ふらふらと揺れ動く自分の心の弱さに苦い思いも込み上げていた。

「本当なら、今すぐでもその男のところに乗り込んで、事実確認したい所ですけど……理玖さんはそれを望んでませんよね?」

 水瀬は頷く。鳴河が出た所で答えは得られたとしても、自分で解決した事にはならない。それにある意味で、自分も二股をしている。言えた義理ではなかった。
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