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しおりを挟む「部屋の中も寒いじゃないですか。家にいたんじゃないんですか?」
「いたよ」
「じゃあ……どうして」
水瀬は口をきつく結び俯く。何をどう返したら、納得して貰えるのか……鳴河を前にしても気の利いた言葉が思いつかずにいた。
「ご飯は食べました? 一応、胃に優しそうな食べやすい物を買ってきましたけど」
机にのせたビニール袋を漁りながら、鳴河が問う。
「食欲がなくて――せっかく買ってきて貰ったのに……ごめん」
「とにかく、座ってください」
鳴河に促され、水瀬はベッドに腰掛ける。鳴河はビニール袋を持って、キッチンに行ってしまう。
ただの体調不良ではないことぐらい、鳴河はとっくに気付いていると水瀬には分かっていた。それでも、鳴河に縋るのは間違っているのは確かだった。
「悪いけど……あまり体調が良くないんだ。今日はもう帰って欲しい」
部屋に戻ってきた鳴河に、水瀬は切り出す。
「理玖さん」
鳴河が水瀬に近づき、隣に腰掛ける。
「こういう時こそ、俺を使ってくれませんか?」
鳴河の言っている意味を図りかね、水瀬は疑問を貼り付けて鳴河を見た。
「昔みたいに、俺を利用してください」
「そんなこと……出来ない」
水瀬は愕然として、首を横に振る。
「俺は理玖さんが好きなんです。好きになってくれだなんて、もう望みません。だったらせめて、理玖さんの役には立ちたいんです」
鳴河の手が水瀬の手に重なる。力強く握られ、手が震えていたことに気付く。
「そんなの駄目に決まってる。それでなくとも……僕は、鳴河に酷いことをした」
罪悪感から水瀬は、唇を震わせる。部屋は暖かくなってきているにもかかわらず、寒くて仕方がなかった。
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