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しおりを挟む心臓が急速に速まり、吐き気が込み上げてくる。それでも何とか、通話ボタンを押した。
電話越しに『大丈夫か?』という低い声が聞こえ、水瀬は喉が詰まったような苦しさを覚える。
やっとのことで、大丈夫ですと返事をすると、ほっとしたような久賀がそれなら良かったと返してくる。
その安堵した声のトーンに嘘も、裏切りの色も感じられなかった。一つ疑念を持てば、全てが疑わしく感じてしまう。そのことが、水瀬には身を切られる程に辛かった。久賀の一つ一つの気遣いの言葉に、水瀬は涙を堪えて必死で相づちを打つ。
『悪いがこれからまだ、打ち合わせがあるんだ。家に行ってやりたいんだが――』
「大丈夫です……寝れば治りますから」
『そうか……あんまり無理はするな。明日もきついようなら、休んだっていい』
「……はい。すみません」
会話を終えて水瀬は電話を切る。堪えていた涙があふれだし、水瀬は袖で涙を拭った。まさかこの歳で、こんなにも涙を流すとは思ってもみなかった。恋をやめてさえいれば、こんなことにはならなかったはずだ。
鳴河が来る前に酷い顔を何とかしようと、水瀬はキッチンの水道で顔を洗う。何度も何度も水で顔を洗っていたせいで、水の冷たさに手の感覚が麻痺していた。タオルで顔を擦っていると、インターホンの鳴る音が響く。
玄関の扉を開くと、買い物袋を持った鳴河の姿があった。
「理玖さん……えっ?」
最初のほっとした様子から一転して、鳴河の表情が険しくなる。
「何かあったんですか?」
「……何でもない」
水瀬が首を横に振るも、「とにかく入れてください」と言って玄関に上がり込んでくる。立ち尽くす水瀬の手を取るなり、鳴河は目を見開く。
「……なんで、こんなに冷たいんですか?」
温かい手が包み込むように水瀬の手を握る。
「……手を洗ったから」
「それにしても、冷たすぎます。震えてるじゃないですか」
鳴河に強く手を引かれ、水瀬は部屋に引っ張り込まれる。
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