愛に縛られ、愛に溺れる

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｢立ち去った所を見計らって、そこに行ったら結婚式のドレスとかタキシードが飾られてて――そこのビルには料理教室とか結婚相談所とか、ブライダル関係が入ってたんです。だから、もしかしてって――｣

　水瀬の全身から血の気が引いていく。
　何かの間違いだという気持ちと、もしかするとという疑念。頭が真っ白になり、吐き気が込み上げてくる。堪えきれずに水瀬は立ち上がると、トイレに駆け込む。個室に入るなり、便器に向かって嘔吐した。
　嘘だ、まさかそんなはずはない。久賀が裏切るはずはない。何度も繰り返すも、込み上げる不安や疑念は拭えなかった。
　しばらくすると、外から｢大丈夫ですか｣という柏原の声が聞こえてくる。
　力なく大丈夫と口にし、水瀬はトイレを流してから外に出た。不安げな表情の柏原の横を通り、水道で口をすすぐ。

｢……ごめん｣

　落ち着いたところで、水瀬は柏原に声をかける。

｢昨日から調子良くなくて……黙っててごめん｣
｢そうだったんですか……気付かずに誘っちゃってすみません｣

　殊勝に謝る柏原に、水瀬は慌てて頭を振る。

｢柏原は悪くないよ。大丈夫だと思って油断した僕が悪いんだから｣

　席に戻ると、水瀬は水を口にする。残りのパスタを無理矢理口に運び、水で押し流した。
　食事を終えると固持する柏原を押しとどめて、水瀬が会計をした。

｢迷惑料だと思ってくれれば良いから｣

　水瀬は無理矢理笑みを作り、柏原を宥める。

｢せっかく誘ってくれたのに、嫌な気分にさせてごめんね｣
｢良いんです。そんなことより、早退された方が良いんじゃないんですか？｣
｢ううん。大丈夫だから｣

　気遣わしげな柏原に気性に告げるも、部署に足を踏み入れようとすると再び吐き気が込み上げてくる。