愛に縛られ、愛に溺れる

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　一人残され、水瀬は膝を抱えた。鳴河の優しさが今は辛かった。まるでデジャブのような流れに、鳴河に対してすら疑心暗鬼になってしまう。
　その一方で、鳴河と恋人になる流れを少しでも考えてしまった自意識過剰ぶりにもげんなりした。鳴河の性指向が自分と同じ確率の方が圧倒的に低い。それに先輩に対して律儀というだけなのに、好意に結びつけるのは鳴河に対して申し訳なかった。
　玄関の開閉音に鳴河の帰宅に気づく。水瀬は立ち上がると、財布を手に取った。

「これで足りる？」

　千円札を数枚差し出すと、鳴河の表情が強張る。

「いりませんから。俺の分もありますし」

　鳴河は受け取ることはせず、さっさと買った物をテーブルに並べていく。

「とりあえず座ってください。何が良いですか？　いろんなの買ってきたんです。あっ、お酒は少しお腹に入れてからじゃなきゃ駄目ですからね」

　持ってきた差し入れを温め直し、鳴河は手際よくテーブルに並べていく。さすがに立ち尽くしているだけのもいかず、水瀬は皿や箸を用意した。
　鳴河が持ってきたのは、お店のメニューにもなっているトマトリゾットだった。まかないで頼むぐらい水瀬の好物だ。サラダや和風パスタもあって、店長の気遣いが窺える。嬉しさもあったが、仮病を使っていることに罪悪感もあった。

「できるだけさっぱりした味付けの物を作ってくれたんで、少しでも食べて下さい」

　鳴河は一皿に少量ずつ盛り付けると、水瀬の前に置く。食欲は沸かなくとも、口にしないわけにはいかなそうだった。

「俺も食べていいですか？」

　鳴河はそう口にしているも、すでに自分用に取り分けている。自分ひとりで食べ切れそうもなく、逆にそうしてもらえることがありがたかった。