愛に縛られ、愛に溺れる

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「何言ってるんだ！　受け取れるわけない」

　水瀬は声を荒げて、手を引っ込めようとする。だが、想像以上に鳴河の力は強かった。

「今度は俺が理玖さんを助けたいんです」

　グッと腕を引かれ、思わずよろめきそうになる。

「何があったか聞きません。その代わり、受け取ってください」
「駄目だよ。受け取れない」

　お金の貸し借りで痛い目見ている以前に、人からお金を借りることは水瀬には出来なかった。

「それなら、理由を教えてください」

　引く気はないようで、鳴河が水瀬の腕を掴んだまま詰め寄る。

「どうして……」

　水瀬が呟いたところで、アパートの鉄階段を上がる靴音が聞こえてくる。
　ここが外であるということを思い出し、水瀬は鳴河に「とりあえず入って」と促すしかなかった。
　鳴河は素直にしたがい、暗い玄関に足を踏み入れる。
　それを見届け水瀬は部屋に入ると、電気をつけた。
　閑散とした部屋が現れ、自分の惨めさに硬直する。空っぽの棚にはかつて、漫画やＤＶＤが並んでいたはずだ。白日の下にさらされたような心持ちに、心臓が冴え冴えとしていく。

「――理玖さん」

　声をかけられ、水瀬はゆっくりと振り返る。

「とりあえず座ってください」

　促されるまま、水瀬は力なく座り込む。いつのまにか、手に持っていた荷物はテーブルに乗せられていた。

「勝手にキッチン使わせてもらいますね」

　返事をする気力も湧かず、水瀬は黙り込んだ。鳴河の手前、しっかりしなければと思っていた気持ちも、今は消え失せてしまっていた。

「……なにもない」

　ぽつりと聞こえてきた呟きの後に、鳴河が部屋に戻ってくる気配がした。

「俺、ちょっと買い物に行ってきます」
「いいよ……僕が行くから。せっかく来てくれたのに、もてなせなくてごめん」
「こんな時まで、気を遣わないでください」

　鳴河は「すぐ戻ります」と言って、止める間もなく部屋を出て行ってしまう。