愛に縛られ、愛に溺れる

48

　それから本人にも事情を確認すべく、久しぶりに満谷を呼び出した。
　何か理由があったのかもしれないと、最後まで水瀬は満谷を信じていた。
　水瀬が問い詰めると、満谷は不服そうな表情ながらも謝ってはきた。水瀬も返してくれさえすれば、それで許す気でいた。

「でもさ……騙されるお前も悪いと思うよ」

　予想外の言葉に水瀬は唖然とする。それでも満谷は呆れたような表情で続けた。

「お人好しも行き過ぎれば、馬鹿だから。気をつけたほうがいいんじゃね」

　その日の夜。水瀬は初めてバイトを休んだ。
　アパートの一室で、ベッドに横たわり毛布に包まりながら自分の愚かさを恨んだ。
　信じていた相手から裏切られる。自分を助けてくれた彼が、まるで最初から、自分を騙すために近づいたかのように思えてしまう。
　満谷の前に付き合っていた男も、最初は優しい人だった。好きだ、愛してる。そんな言葉を何度も囁いてくれていた。でも、水瀬が少しでも男の気に食わないことをすれば、すぐさま殴られる。

――好きだから、わかってほしい

　暴力を振るった後に必ずそう口にする男は、自分に何を求めていたのか今でも分からないままだ。
　一体、何をどう信じればいいのか分からなかった。
　好きだから、暴力を振るうのか。恋人だから、いくらでもお金を搾取しても構わないのか。
　頭の中が真っ白で、涙すら出なかった。ただ、これだけは分かった。自分は一生、誰とも付き合わない方がいいと。こんなにも傷つき、何もかもを失うぐらいだったら、恋人だなんて作らない方がマシだとすら思えた。
　翌日も水瀬は大学とバイトを休んだ。
　友人から心配する連絡が来ていたが、とても返せる気にはなれなかった。バイト先には体調不良だと嘘を吐いた。迷惑をかけることは心苦しかったが、今の心理状態と全身の倦怠感から、まともに仕事が出来そうになかった。