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「理玖さんを何度も殴った男は、もう二度としないと言って、それを守ってくれましたか? 浮気してたうえに、その相手に理玖さんのお金を使っていた男からは、お金は返してもらえましたか?」
「……やめてくれ」

 過去の苦い思い出を告げられ、水瀬は思わず耳を両手で覆う。
 大学時代に付き合っていた二人の男を思い出し、あるはずのない心身の痛みが湧き上がる。
 恐怖によるものからか、全身から血の気が引いていた。

「俺なら、理玖さんの望むままにしてあげられるんです。それは理玖さんも分かっているんじゃないんですか? だから俺を好きになった」

 震える身体を抱きしめてくる鳴河に、水瀬は振り払うことは出来ないまま、首だけ横に振る。

「やり直しましょうよ。俺は会えない六年間も、ずっと理玖さんを想い続けてきました。これから先も、その想いは変わらない自信があります」
「駄目だよ。久賀さんを裏切ることなんて出来ない」

 もう少し早く再会していたら、鳴河に心が揺らいでいたかもしれない。でも――それは今更どうすることも出来ない問題だった。

「別に別れろとは言いません。俺は保険でも構わない」

 鳴河の言葉に愕然として、水瀬は顔を上げた。途端に唇が重なり、慌てて身を引こうと鳴河の肩を押す。
 だが、鳴河にその腕を取られ、そのまま水瀬の背がベッドに沈む。

「な、なるかわ……お願いだから、離して」

 顔を背け、やっとの事で水瀬は言葉を発する。鳴河の下から抜け出そうと藻掻くも、上からのしかかられているせいで、それもできなかった。

「ここまで言っても、理玖さんは俺の気持ちを嘘だと思っているんですね」

 見下ろす鳴河の表情が、苦しげに歪む。

「そうじゃない。でも、気持ちに応えることは出来ない」

 はっきりと水瀬は口にする。ここで迷うそぶりを見せたら、鳴河のペースに流されてしまいそうだった。
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