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しおりを挟む掛け時計に視線を向けると、十時を回っていた。いつもなら映画を一緒に見るのだが、今日は久賀も疲れていると見越して、早めに就寝したほうが良さそうだと考える。
久賀が部屋に入ってくると、水瀬は「飲みますか?」と聞いて冷蔵庫からビール缶を手に取った。
「今日はやめておく」
「……そうですか」
いつもなら寝る前に、一緒に飲むことが多い。よっぽど疲れているのだろうと、水瀬は冷蔵庫に戻すため久賀に背を向けた。
「僕も止めておきます。久賀さんも疲れているでしょうから、今日は――」
そう言いつつ、水瀬は振り返った。すぐ目の前に立っていた久賀に、水瀬は驚いて冷蔵庫に背をつける。
「……久賀さん?」
久賀に見下ろされる形になり、その圧に水瀬の心臓が跳ね上がる。
久賀の顔が近づき、水瀬の唇と重なる。背が強く当たる程に押しつけられ、久賀の舌先が口腔に割り込む。激しく舌先を絡め取られ、痺れるように疼いた。
「ん、ッ――」
激しく貪られ、少しでも息をしようと水瀬は顔をずらそうと試みる。だが、久賀の手が顎をしっかり捉えていて叶わない。
何が、久賀をそこまでかき立てたのか分からない。それでも戸惑う心に混じって、水瀬の中で期待も存在していた。
――ベッドに行きたい。
急くような気持ちが込み上げ、水瀬は久賀の肩を軽く押しやる。
ベッドに行こうと言う前に、久賀ははっとした顔をした。水瀬から身を引くなり、「悪かった」と顔を顰めて口にする。
「えっ……そうじゃなくて――」
「……少し、頭を冷やしてくる」
久賀はそう言うなり、早々に上着を羽織って玄関に向かってしまう。
止める間もなく、玄関が開け閉めされる音が響く。
呆気に取られたまま、水瀬はしばらく立ち尽くした。
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