愛に縛られ、愛に溺れる

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　鳴河と別れた後、水瀬は電車の中で久賀にメールを入れていた。心配をかけてしまっていることと、元セフレ相手という後ろめたさ。やましいことはなかったのだと、早く伝えたかったのだ。すぐに返信があり、家に着いたら電話をして欲しいと書かれていた。言われた通り、水瀬は家に着くと電話をかけた。久賀の第一声は「大丈夫か？」という想定していた通りの言葉だった。その際にきちんと、ただ食事をしただけだと伝えているはずだ。

「あの男は――ただの友人なのか？」

　普段の久賀にしては珍しい歯切れの悪い問いかけに、どう答えるべきか水瀬は逡巡する。本当のことを言うのが誠実な対応だとしても、わざわざセフレという言葉を用いて、自分を節操のない人間だと公言する必要性はないようにも思えた。

「同じバイト先の後輩だったんです。六年ぶりに会ったので、びっくりしましたけど」

　罪悪感を押し隠し、水瀬は無難な言葉を選んで口にした。

「仲が良くなかったのか？」
「そうじゃないんですが……連絡先を教えずに、引っ越したりしたので少し気まずかっただけです」
「……そうか」

　それだけ言うと、久賀は皿に残っていたカレーをスプーンで掬って口に運ぶ。これ以上の追求はないことに水瀬はホッとする。その反面、苦い気持ちもあった。もう少し追求してくれても良いのにと、皮肉にも思ってしまう。
　仕事の時のように何もかも見透かすような目に絡め取られ、隠すことが出来ずに吐露してしまう。そんな執拗さを心のどこかで求めている自分がいた。
　食事を終えると水瀬は、久賀に促されるままに先に浴室に向かった。片付けてからが良かったのだが、久賀が請け負うと言って引いてはくれなかったのだ。
　さっぱりして部屋に戻ると、続けて久賀が入っていった。
　宣言通り、洗い物はされているようだった。水切りに置かれた食器を拭きながら、水瀬は久賀を待つ。