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しおりを挟む疎遠になっている学友の顔と名前を思い浮かべつつ、水瀬は柏原と共に会社の入り口に向かう。
背広姿の男の後ろ姿がガラス越しに見えるも、一見しても誰だかわからなかった。
柏原が先立って扉を開けてくれて、礼を言って水瀬は外に出る。
男が振り返り、水瀬は凍りついた。
「久しぶりですね。理玖さん」
そう言葉を発した鳴河《なるかわ》 涼真《りょうま》は、以前と変わらない人好きのする笑みを浮かべていた。
疎遠になって六年。鳴河は水瀬の二つ年下で、すでに大学を卒業して社会人になっているようだった。以前はもっと垢抜けていて、髪も明るかったはずだ。一応落ち着いた髪色にしているものの、人懐っこい印象が柔らかな目元から漂っている。
絶句する水瀬に鳴河は苦笑した。
「そんな顔しないでくださいよ。理玖さんがここに勤めているって聞いたんで、寄ってみたんです」
鳴河は軽やかな口調で理由を口にした。それでも水瀬は口を開けなかった。
呆然と見つめる水瀬に、鳴河はため息を吐き出す。
「俺、ショックだったんですよ。あの時――」
「柏原……ありがとう。大丈夫だから帰っていいよ」
鳴河が何を口にしようとしているのか分かり、水瀬は咄嗟に柏原に向かって言った。
「……わかりました。お疲れさまでした」
柏原は心配そうに眉を寄せながらも、触れないほうがいいと察してその場を離れていく。その背を見送り、水瀬は周囲を伺う。ちらほらと会社から出てくる人もいて、このままこの場所で話すのは避けたかった。
「悪いけど……まだ仕事が終わっていないんだ。話ならまた今度――」
「また逃げるんですか?」
言葉を遮られ、水瀬は口を噤む。鳴河の目は逃すまいとするように、じっと水瀬を捉えてくる。甘い顔立ちの中に、目だけが険を孕んでいた。そんな顔を今までみたことがなく、水瀬は鳴河を本気で怒らせているのだと自覚した。
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