愛に縛られ、愛に溺れる

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「好きな人が声をかけられているのを見て、黙っていられるはずがないだろう」
「――でも」
「俺のことを嫌いじゃないなら、考えてくれないか」

　水瀬は口を閉ざす。久賀は良い上司だ。尊敬もしている。それにこうして半年ほどプライベートで付き合ってみて、一緒にいて楽しいし、有意義だとも感じる。なにより好意がないと言えば嘘になる。こうして告白されて、正直心は揺らいでいた。それでも踏み出すのが怖かった。
　やっぱり断ろうと口を開きかけたところで「俺も怖いんだ」と、久賀が水瀬の腕を掴む。
　小刻みに感じる振動――水瀬は息を呑む。

「また愛想を尽かされるかもしれない。急に別れを切り出されるかもしれない――それでも、君のためなら変わりたいと思う」

　痛いぐらいに腕を握られる。心臓が瞬く間に速度を上げた。
　昔、自分を救ってくれた男と同じ、引く気はないという力強さだった。

「君がどんな辛い目に遭ってきたのか、俺はまだ知らない。それでも君を悲しませることは絶対にしない。約束する」

　仕事面でもプライベートでも、久賀が約束を破ったことはない。どんなに残業で遅くなっても、久賀の方から次回にしようとは絶対に言わなかった。
　普段はきっちりと整えている髪を乱し、店に駆け込んでくる久賀の姿。自分と同じで、この日を楽しみにしてくれていたことが嬉しいと思っていた。
　誠実な久賀となら、今度こそちゃんとした恋愛ができるかもしれない。そんな期待から水瀬は「分かりました」と口にする。

「後悔させない」

　ホッとするわけでも喜ぶわけでもなく、久賀は固い表情で言った。